第10話:

 ルイは昼に一時過ぎに帰ってきた。

 話によると、ダンジョンが発生したらしい。

 サルク村の男衆が都市街のサースから来た冒険者達を案内しに行った段階まで見守ったらしい。後は冒険好きの方々にお任せして辺り一帯の魔物の駆逐からダンジョン内部の探索を行うとのこと。

 あの光っている場所はダンジョンの入り口だったらしい。素人が入るの危険とのことで、冒険者が派遣されるまでの間、サルク村の男衆もルイも中への探検はしなかったそうな。

 すでにサルク村には行商人が来て冒険者が買い付けるであろう物資が売買され始めているらしい。耳が早いことだ。

 冒険者達は手に入れた素材やら魔石との物々交換が主流になるとのことで行商人からしたら特需らしい。治安面は心配が尽きないが、先発隊に選ばれる冒険者はそれなりに腕が立つし、品行も悪くないとのこと。ダンジョン問題が長引いてしまって旨味の上澄みを啜りに来るであろう後発組のハイエナ連中らしい。特に依頼を受けてこちらに来たわけでもない奴等は荒くれものの集団だ。最悪村に悪い影響を齎すので取締に別口依頼を出さなければならなくなる。

 サルク村では貸宿を建設中らしい。すぐに解決して使わなくとも予備の家があるのはいい。すぐに移民を招致することも出来るようになる。ここタルク村も他人事ではない。ルイの持ち寄ったサルク村の情報を得た村人の間でもここにも貸宿を建てるべきとの声が挙がる。

 受け入れ人数を超えてやってきた冒険者や行商人が泊まれる場所は多いに越したことがないし、いずれはサルク、タルク、ナルク村の三箇所は一つの街を形成することになっているのだ。ゆくゆくは横に長い街となるわけだ。農業と狩りしかなくこれといって特産品のない村々だが、ナルク村は海と隣接している。塩が安定して取れるので三つの村が合併したら他所の街に頼らなくて良くなる。具体的にはサースから流入してくる商人との取引の仕方が変わるだろう。主だった生活用品から嗜好品に。だけどそこまで大きく発展すると領主が来て街全体の治安を回復・維持する代わりに税が掛かるようになる。

 幸い初期開拓民は不毛な土地からの村、そして街までの発展貢献に多大な寄与をしたとして終生免税となる。よって父母子世代までは免税対象となる。つまりシア国のタルク村で生きる限り生涯免税という訳だ。

 ただそれも、今回のようにダンジョンが発生してそれが産業化してしまうと行商人らが土地を買い取り移り住むことがある。 

 移り住むだけならまだしも村の段階で早々に領主が派遣されてしまうことがあるのだ。魔物の襲撃から守ってくれる衛兵を引き連れ、治安の回復なども行う彼等が派遣される―――つまり新参者の領主のせいで、初期開拓民の終生免税は減税に変わってしまう。これは開拓民にとってはあまり面白くない展開なのだ。よって出来る限り、自分達の手で治安を守り、発展させていく必要が出てくる。そのための貸宿建築案である。

 ルイ達は早速家造りに着手し始めている。と言っても基礎工事――地固めと範囲を決めてスペースを地面に描いて話し合いながらだ。建築家を都市街から雇い入れないのかって?そんなのするわけなかろう。舐めてもらっちゃ困る。こちとら開拓民おとなぐみは家も土地の整備のノウハウも全部一から作り上げてきた玄人プロである。ちょっと大きな家くらい作れないわけがないのである。

 取り敢えず二階建ての宿を作る予定らしい。二人一組、十部屋を目安にするらしい。二十人も収容できるとなると相当に大きい貸宿になることだろう。

 僕は考える。ダンジョンを踏破出来ないと領主なる人物が赴任してくるというのはちょっと許せないなって。もしかしたら冒険者が手を抜いて踏破しないかもしれない。賄賂を受け取って金を毟り取ろうと国が考えても可笑しくないと思わないか?考えすぎだろうか。でも父さんや母さん――大人達の対応を見るとなぁ、どうも他人任せは良くないかもしれない。危険を顧みず、ここは一肌脱ぐべきだろう。そうだろう?少なくともトレントと黒鎧百足如きには遅れは取らないので、新たな魔物次第――いるか分からんけども。挑む価値はありそうなのである。

 先遣隊だか先発隊だかに付いていって様子を見た上で、攻略できそうなら…やってしまおうか。

 先ずは【闇属性魔法】の隠蔽ハイドを使い、気配や、音、匂いなどを消す。次に【光属性魔法】の不可視インビジブルを使って視覚認識出来なくする。これでそこにいるのにいない現象の完成だ。

 一つの魔法に纏められないのが残念だが、組み合わせることでミッションインポッシブル案件もお茶の子さいさいとなるはずだ。但し、魔力が尽きるまで。全身に作用させるので中々に非効率な燃費の魔法らしい。

 ここに【風属性魔法】の飛行フライでの移動を考慮すると同時展開魔法が系統別で三つとなる。便利な魔法ではあるのだが、今はまだ魔力を無駄に消耗出来ないので解除する。属性魔法自体習得して消費魔力量が抑えられ燃費が良くなったものの、練度が足りないのだろう。普段使いしない魔法は余剰に魔力を消費してしまうものだ。ここら辺、異世界が現実になった証というか面倒な部分というか。

 我儘を言ってもしょうがない。要は使えばいいのだから。習うより慣れろ。

 マリアやミーシャはいつも通り、お茶会を開き、アーシャはニビと家の周りそとで遊んだりしている。

 アーシャは森に入らず、家の周辺で遊ぶ。前は黙って森に入ろうと画策してたのに、随分と聞き分けが良くなった。実際に魔物を倒してから、ミーシャにベッタリする事が増えたので、もしかしたら魔物は危険、安易な気持ちで森に入ってはいけない、なんて思いが芽生えたのかもしれない。

 実に良いことだ。

 ベッドの上で座っている僕が、隠蔽ハイド不可視インビジブルを重ね掛けしてマリアとミーシャの周りをちょろちょろ。

 ふぬ。今度は外へ出て獣であるニビにも付きまとうストーカー

 流石に接触すればバレるので、一々検証などしない。

 そんなのは想像イメージしてないからだ。魔法は想像の具現化でしかない。触られても触られたと認識出来ないようにするには自身に魔法を掛けるのではなく、相手に認識阻害系の魔法を掛ける必要があることくらい容易に想像出来てしまうからだ。僕自身がそう認識しているし、成功している想像ができないので、まず今生では不可能であろう。

 にしても、マリアにミーシャ、アーシャ、ニビにも気づかれることはなかった隠蔽と不可視の魔法は成功と言えよう。

 潜入捜査なら任せてくれいって小躍りしながら言いたくなるのをぐっと堪えて次の段階に行くとしよう。

 

 ここはサルク村から、真南に南下した辺りの森林地帯。

 調査依頼を受けた三人一組の冒険者の後を追跡しているところだ。

 道中、魔物が少ないこともあり、サクサクと必要最低限の魔物を倒しての強行軍だ。無駄のない動きで、盾役、遊撃役、支援兼魔法火力役と後衛の魔法担当が些か大変そうだと思ってしまうが中々に連携の取れた良いパーティーだ。これは前世ゲームの知識に僕が引っ張られているだけかもしれないがね。そもそもルイ達は脳筋物理職だけを揃えて狩りに行くほどだ。まあ、ルイ達が魔法職担当である女性陣を連れて行かないのには訳がちゃんとあるので冒険者のパーティー編成と比べるのは少し筋違いだと思う。

 冒険者はパーティーで自己完結していればいいけど、僕達は開拓民であり、村を形成している。子ども達や村の安全、家事仕事、畑や家畜の管理、帰ってきた狩猟班の治癒を女性陣が受け持つので、火力にまで魔力を割く訳には行かないのだ。男としての沽券にも関わってくる。

 それに女性は子を成すという大義――大仕事もある。村を一から作って発展させようと思う気概のある男性は多い。が、女性は少ない。

 この世界でも保守派の女性の方が多い。

 安定志向で堅実な考えを持つ女性達だ。よって女性の方が重宝されるのがこの世界。つまり、危険リスクを背負うのは男の役目という訳だ。

 この考えが一般常識として浸透しているので、村では男衆は魔法より物理――肉体を鍛えて活用する傾向が強い。男でも魔法は使えるけど積極的に使おうとしないのはそのせいである。

 そういった常識が浸透しているので、この冒険者編成は珍しいと言える。何てったって全員が男性なのだから。魔法職の後衛も男性である。

 かくいう僕も女の身でありながら、剣術を学んでいるので魔法男子の彼の事をとやかく言えないのだがね。

 

「おい、ユベントス!さっさとダンジョンに行って依頼クエスト済ましちまおうぜ。」

 ダンジョンの入り口湧いていた魔物を殲滅しきった彼等のうちの一人――先頭を前衛盾職の男がさっそくダンジョンの中に入ろうと急かす。

「わかってるよ。でもディジーもフォムも道中始末したのくらいなら戦利品がてら魔石解体の一つでもしようよ。」 

 後衛の魔法職男性が反応して、言葉を返している。この魔法使い系男子がユベントスなのだろう。

「すまないと思っている。」

「出たよ、フォムの『すまないと思っている。』」

 中衛遊撃役の男――フォムはすまないと思っている。が謝罪の定型文――口癖なのか、ディジーと呼ばれている前衛盾男にからかい半分、ツボに入って楽しんでる半分と言った所か笑われている。

「ディジー笑い過ぎ。」

 後衛魔法使い系男子のユベントスが呆れながら、諫めている。


 仲良さげな冒険者達だなぁ。これ絶対同じ村で育った三人が一緒に村でて冒険者になりました的な幼馴染三人衆トリオで結成された冒険者ですよ。僕の勘がそう言ってる。

 冒険者一行は空中にいる僕には気づかず。いや気づかれないように魔法を使って姿を隠してるから当たり前だけども実に楽しそうに依頼をこなしている三人を見て、アーシャを連れて二人の村娘と一匹の獣を連れたパーティーを夢想する。なかなかに悪くない。

 絵面はいいんだよね。ものすごく弱そうな点さえ除けば。

 

 三人についていくカタチでダンジョンに突入する。

 

「うわ、すげえ。都市遺跡だな。ユベントスが好きそうだわ」

「ボロボロだと思っている。」

「うわぁ。すごい…。でもこれって一階層だけ?まじで出来立てほやほやの迷宮じゃん…そこにも感動…」


 入った順に――ディジー、フォム、ユベントスが口を開く。

 中は建物、というか都市?街?遺跡かな。造りが同じ――建物に対する個性は見られない――効率厨の豆腐建築。の割には柱には謎の紋様。

 一本真っ直ぐのある程度舗装された道に柱の残骸やらが散らばっている。その両脇にはちょっとした豆腐建築一軒家に屋根がない状態が元々デフォルトなのか、結構な数が建っている。

 僕も後ろから思わず声を出しそうになるが、ぐっと堪えた。

 魔法は――切れてないな。それと話を盗み聞きしてる限りじゃ、一階層しかない迷宮らしい。時間経過で階層が増えてくのか、恐ろしいな迷宮。

 ダンジョンに入ったら支援効果バフ初期化リセット、なんてオチで即見つかるなんてことは起きなかった。

 念のため、上空に待機。球体ドーム型の空間は中央に行くほど天井も高くなっていく仕様のようで。

 上から見る景色は、住まいで生活している人型系魔物――豚人オークがいることが分かった。

 その街を囲むように樹々が生え、黒鎧百足ヨロイムカデやトレントが潜んでいるのだろうと推測できる。因みに迷宮内の樹々はちゃんと葉が生い茂っている。迷宮内に外の季節は適用されないらしい。

 何階層もあるのかと思いきや、もしかしたらこの空間にいる何かしらのボスさえ倒せばいいのか?

 だとすると、もっと数がいれば安定して迷宮ダンジョン攻略出来そうだけど。

 

「確か、報告に合ったのって黒鎧百足とトレントだよな?それなら魔物モンスターは森の中かね?あれ全部廃墟か?人型系魔物はいないってあり得る?そしたら幸運ラッキーじゃん!やっほーい!」

「人型系は捕食されたと思っている。」

「安易過ぎるよ、ディジー、フォム。……魔物の同士討ちでも起きた結果、迷宮から出てきた可能性は十分にあるよ。その時に被害に遭った建物が空き家になっているって考えた方がいい。僕が飛行フライで偵察するから。勝手に先に行かないでよ。」

「助かる。」

「助かる。」

 ディジーは途中から思考がバグるらしい。良い疑問――着眼点は良いのにお気楽ご都合思考へ。フォムは人型はと、もう過去の話にしようとしている。

 ユベントスは、二人の能天気な思考に頭を抱えそうになっている。一先ず、いない方向で話は進んでいこうとする二人を諫める。何とか捻り出し、ちゃんとソレっぽい考察をして、二人を納得させ、自身で偵察を行う。

 作戦の立案から、偵察まで――このパーティーの頭脳ブレーンはユベントスらしい。

 後衛が斥候っていうのはこちらでは常識なのだろうか、とは思ったが出来る奴がするんだろうな。僕も剣と魔法の両翼でやっていくつもりだけど何だかんだ遠距離で戦いがち――つまり魔法寄りになってるしね。このまま一人で旅に出たりするなら何もかもこなさないといけないし。良い見本になるよ、彼等は。

 

「遠くの家屋に豚人オークがいたよ。でもって数は二百くらいかな。一家につき、大体三匹から四匹の二十家位が密集して四分割されてる感じ。大体六十から八十って軍隊みたいだけどどうする?」

「げー、きっつくね?でも一家毎なら先制攻撃かましゃなんとでもなるな。応援待ちすっか?ぶっ倒すか?」

「奴等は繁殖するの早いと思っている。」

 どうやらユベントスの報告を聞いて、人数揃えてから乗り込むか、倒しにいくかの話らしい。待てば豚人が繁殖して手が付けられないからぶっ倒そうぜって意味なのか、単純に事実を述べてるだけか。

 ディジーは面倒がりながらも中々に好戦的で盾と腰に佩刀してある片手剣の柄に手を掛けては放しては落ち着かない素振りを見せている。

 フォムは双剣をとっくに抜き放っている。やる気というより殺る気満々だ。

「僕達は迷宮の調査が本命なんだけどね。一気に相手にしたら負けるけど…消音結界張って、一家毎に倒す作戦でいい?気づかれたら即撤退って事で。基本的にはフォムがどれだけ手際よく倒せるかって感じかな。後、音は消せるけど匂いは無理だから血の匂いが充満し始めて他の家の豚人オークが勘づき始めても撤退だから。」

「はいよー」

「任された。」

 数に臆さず戦うらしいわ。冒険者の中でもアタリな方に違いない。僕だったら報告だけを選ぶもん。ゴブリンやら豚人オークみたいな人型の巣は嫌なんだよね。前世のえっちとグロテスクが混じったようなうっすーい本の影響がさ、どうもね。女に生まれ変わってしまったのも大きい。

 苗床になんてされたら……鳥肌が止まりません。血の匂いうんたらに関しては殺したのを僕がサクッと収納してしまおうかね?

 

「まずは、端にある家からね。…消音結界。」 

 ユベントスが家一つ分の大きさの結界を張る。どうやらその間は動けないらしい。結界魔法の維持が大変なのかもしれない。

 結界が張られてすぐ、家の入り口近くにいた豚人の喉を裂き、後ろから追従していたディジーがダメ押しに首を斬り落とす。

 フォムが三匹いた内の二匹の首を斬るも、三匹目が事態に気づいて、激高する。そして雄叫びらしきものを上げるも声は響かない。

 僕は結界外にいるから聞こえないけど多分そう。フォムの顔がしかめっ面で、後ろから盾と片手剣を持った前衛のディジーが盾と剣をがんがん打ち付け合って煽りヘイトを買って前に出ている。

 注意を逸らされた豚人オークは簡単に側面からの攻撃にたおれた。

 結界魔法を解除し、そそくさと三人は合流し、次の家に向かっていく。

 僕は豚の死体をぽいぽいっと収納魔法にしまう。体長は二メートル位か。豚人オーク黒鎧百足ヨロイムカデの上半身に防具とトレントの棍棒と装備をしている。前と後ろは固めているものの首や脇腹――側面はがら空きだ。鎧自体も鍛冶をしてしっかり作られたものではなく焼いて無理やり作ったかのような粗悪品だ。簡単に始末されてたけど、武装した魔物なんて小説の世界じゃヤバイ魔物って刷り込まれてる地球出身者の僕からしたら、迷宮ダンジョンって…冒険者って…やべえってなってる。

 垂れ流れてた血は消臭だけしておいて、姿が見えないのを良いことに上空からまた三人の戦闘を見守る。


「あっとにっひきぃ。」

 今回は四匹一組らしい。二匹を素早く倒すも三匹目、四匹目には気づかれている。魔物もそこまで馬鹿じゃないということだ。

 家の中では横薙ぎは出来ないらしく、振り下ろしのワンパターンだ。冒険者達に簡単に避けられ、あえなく倒される。それを見た豚人オークは怖気づいたのか、突撃して家から出ようとする。

「いかせないっぜ!」

 ディジーは入り口を塞ぐように盾を構え、立ちふさがる。

 突撃タックルされるも、恐慌状態によるものらしくちから不足。ディジーは豚人の突撃を真正面から弾き返した。

「腰が入ってねえぜ、腰がよぉ。」

 すかさず、後ろからフォムに切り伏せられ四匹いた家の豚人も殲滅された。

 四匹だと少々ひやっともする場面があるが、概ね順調に殲滅していく。

 その死骸を僕が回収する。簡単なお仕事でさぁ。

 この冒険者達がいなくとも僕が一人でもヤレそうではあるが、如何せん数が多い。自身に掛けるでなく、結界にして魔法を使ったことがないので真似できないがね。狙い澄まして、一家毎に一撃必殺を叩き込む即殺が可能だ。それでも確実にとはいかないだろうし、流石に隠蔽ハイド不可視インビジブルを重ね掛けしてて、飛行フライも併用しているので、攻撃してたら二百体は超えてそうな豚人オークの始末に魔力が保たないのは必至。

 なるべく数を減らす、ないしは殲滅を完了してもらって迷宮攻略していただきたいのが本心である。

 ハイエナのように素材漁りだけして良いご身分だなって?

 二歳児に無茶いうんでねぇ!

 直に三歳だろって?死体漁らない者、素材手に入らず!だろ‼

 もし迷宮攻略出来た暁にはそれとなく贈与プレゼントしておくから許してくださいよ。

 血の匂いが充満しないように貢献してるんだから、ね?

 

 誰に言い訳してるんだか。心の中で、独りごちる。

 流石、プロといった感じで、もう残すところ二十匹もいなさそうである。一家だけ他の家より倍近く大きいし、屋根付きなので、中に何匹いるのか分からないがその周りの三つの家の豚人一家を始末してしまえばボスといった所だろう。

 

「よーしよし。おれらさいきょーう」

「だな。」

「不気味な位上手くいったね?後はボス部屋みたいな、あの家だけだ。あの家には僕が火魔法でもぶち込みまくるとするよ。」

「ユベントス結界ばっかだったもんなー。りょーかいー」

「任せた。」

 

 ユベントスには、死体処理という援護射撃に気づかれそうで気づかれず。

 結界魔法ばかりに神経を割いて、鬱憤ストレスが溜まっていたらしい。火炎球を入り口側面、四方から撃ち込みまくっている。

 石造りなので軽い火の粉は舞うものの、瓦礫になって中にいたであろうボスは埋もれている筈。

 瓦礫から出てきた一際大きい豚人オークと三匹の豚人達。

 

「ブモォオオオオ!!!!」

 豚人オークは喋れないらしい。実は恐怖を抱いていた辺り、魔物でも人型だし意思疎通できるんじゃ?なんて考えも少しだけ過ぎってたけど。

 どうやら杞憂らしい。あの一番デカいのが喋れないならね。

 そういうことでしょう?

 

「おーおーあいつっぽいじゃん。挑発ヘイト

 すかさず前衛職の盾持ちディジーが挑発する。どうやらスキルらしい。一斉に豚人達がディジーに意識を持っていかれている。

「フォム、瓦礫の中は足場が悪い。奴等が瓦礫から出てくるまでは僕が遠距離で直接魔法を撃ち込むから出てきたのから始末して。無理してつっこまないようにね。」

「わかった。」


 火炎弾が炸裂し、足場の悪い場所から距離を詰めれる筈もなくあっという間に通常個体の豚人達は丸焼きになる。

 一際大きい個体も執拗に足を狙われ、這い出てきたところをディジーとフォムに両腕を斬り落とされる。最後まで足搔き、頭で噛みつこうとするもフォムによって首を斬り落とされ絶命した。

 すると、一際大きい豚人の死体がボーリングの球並みの大きさの魔石に変わる。そして他の死体が光の泡となり消滅し、一か所に集まり台座を作り上げ、隣には宝箱が出現する。

「フォム、その巨大な魔石を台座に置いて。ディジー、僕と一緒に宝箱の中身を持てるだけ持って。迷宮の外とか、帰りも魔物と戦うかもしれないから大きいのは持ってかないようにね。時間的猶予は――多分迷宮は一日もすれば自然消滅だろうけど、僕達はもう戻ってこないからね。」

「あーつかれたのに、休みもなしかよー。しかもでけえお宝は置いてけとかどゆことー?取りにくればいいじゃん、一日も猶予あんならさー」

「一日は一般的な迷宮の話さ。この出来立てほやほや迷宮が一日かけて自然消滅するのか知らないし。お宝全部持って帰ろうと何往復もして迷宮と一緒に消えてった馬鹿みたいになりたくないだろう?」

「わかった。」

「それ最悪。はよもどろー。」


 ディジーが欲張り案を出すも、ユベントスに一蹴される。

 話に割り込まなかったフォムはユベントスの話を最後まで聞いて相槌を打って返事を返す。

 ディジーも迷宮と一緒に消えてなくなりたくはない様で、手頃な指輪やネックレスを手に入れると迷宮から出る気満々だ。

 

 三人が宝箱の中身を雑に回収した残りは全部収納魔法で回収しておいた。僕は最後に宝を回収したけど、迷宮から出るのは一番早い。

 軽く走ってる程度の冒険者パーティーなんて飛行フライで追い抜いたったからね。最後に出ようとして出れませんでした、なんて嫌だしね。

 時間的にも一階層しかなかった迷宮だけど五、六時間は経ってるはず。

 まだお昼の七時くらいでも村まで戻るったら昼の八時にはなるだろう。つまり地球で言う所の夕方だ。いないと分かると親が心配しちゃうだろうしね。さくっと帰らないとね。

 一直線で家路に着くと、家の玄関前でマリアが僕を呼んでいる。


「ただいま。」

「え?おかえりなさい…?」

 マリアの目の前で魔法を解いたため、急に現れた娘に吃驚びっくりしすぎて疑問形になってしまっているが、娘の僕はそんなことにはツッコまない。

「もうごはん?」

「そ、そうね。もうアーシャちゃん達も帰ったんだし、一人で遊んでた?のかしら。シルもお家に入って、手を洗ってママのお手伝いしてね。」  

「はーい。」

 無駄なことは言うまい。マリアの疑問には答えず、スルーして家に入って家事の手伝いをしていると、父のルイも帰ってきた。

 久しぶりの一家団欒だ。

 迷宮攻略という一仕事を終え、家族三人で食べる夕ご飯はマリアと二人で食べていた時よりもちょっぴり美味しく感じるのであった。


 翌日、迷宮攻略が成されたことがサルク村の使者からタルク村に伝えられ、村ではちょっとしたお祭りになるのであった。


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