第7話:魔法と失敗
僕の日課。
剣術稽古――素振り含む――魔力操作を行い、アーシャと修行をする。
夜には余った魔力の全てを注ぎ込み、亜空間の作成。
そうして一週間。
僕は遂に――――収納魔法―――習得しませんでした。
魔力が使われてるから発動はしてるんだよね。
ただ形になる前に魔力が枯渇するだけで。
ステータス
シルフィア
Lv.1 【ランクアップ可能】
力:D 550→590 耐久:D 521→563 器用:S 926→980 敏捷:D 503→544 魔力:SS→SSS 1090→1160 幸運:G 170→195
《魔法》
【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】
《スキル》
【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】
《呪い》
【男性に話し掛けることができない】
魔力だけSSSってやばいね。ていうかこのままSが並んでいくのだろうか?上限が999じゃないからどこまで伸ばせるのか謎だけど。
はぁ。
収納魔法を手に入れれば革命が起きそうなのに。
父さんに収納魔法を使って収納袋の一つでも作ってやれば狩りで手に入れた獲物を一瞬で持ち運びしつつ長く狩りが出来るのだから。
商人に持たせれば、運搬量が増えたり、安価なものだけ運んで、高価なものはしまい込む。これで盗賊とかの被害が減る筈なんだけどなぁ。
発明すれば億万長者じゃない?
自分が作ろうとしているものがダンジョン報酬で手に入る超希少魔道具であることをシルフィアが知る由もない。
ふう。一日の業務――日課も残すところは収納魔法習得に向けた魔法行使のみ。
今日こそは―――!
ぎゅるるるるるるるるるるるるるる―――――ばたり。
朝だ。
何がダメなのか。
圧倒的魔力不足か。
もしくは
それかランクアップするか。どこまでいっても所詮Lv.1なんだよね。
そもそもどうやってランクアップするのか分からんけども、マリアかルイに聞けばきっと知ってるよね。
億万長者になれば恋人になってくれる人の一人くらいね?
これは脱童貞に向けた大きな一手になるに違いないんだ!
育ててくれている家族へ恩返しになるし、自分の為になること間違いナシなのに。
物事そう上手くはいかないか。
空間を一から作るから難しいのか?
掘り起こして地中深くにスペースを作って部屋そのものに時間停止措置か冷凍保存を施して
いや諦めたら試合終了って安西先生が名言を残してたはず。
亜空間の何かしらの部分が作られてる段階なのだから。
「おはよう、シル」
「おはよう、ママ」
朝ごはんに塩麦雑炊を食べて、水洗い、除菌を施して木椀に木製スプーンを水切りかごに立てかける。
父さんは農作業兼、早番の巡回で既に家を出ている。
巡回は二日から三日に一度やってくるが、これは結構な負担だろう。
結界でも作れればなぁ。
警報装置と迎撃装置の両方を作って初めて意味を成す――装置とな?
ゴーレムかな?
自律型警備ゴーレムとか錬金術か?
現実的じゃないなぁ。
それなら柵でも作って方が早いよな。
でもまだ発展途上の開拓村だからなぁ。
せめて後何世帯分の土地の余裕があればいいのか分かればなぁ。
だめだ、やりたいこと多くて思考が脱線しちゃうわ。
現状どうしても今の仕事環境の改善を図らないといけないというわけではないなら、やっぱり収納魔法からかな。
魔力を一気に放出せず、丸一日かけて亜空間を作り出そうと魔力を消費しつつ、自然回復しつつ…。
昼。
剣術稽古――模擬戦闘をルイとする。
果敢に攻めるも、攻撃の手が弛まると――隙を突かれて連撃を叩き込まれる。
剣術には壱刀流、弐刀流、参刀流の派閥があるらしい。
壱刀流は獲物を一つ。一撃必殺で敵を屠る――超攻撃特化型の流派。
弐刀流は獲物を二つ。手数にモノを言わせる一撃離脱型に秀でた流派。
参刀流は獲物を三つ。二刀で攻撃を防ぎ、一刀で仕留める防御に秀でた反撃型流派。
ルイが教えてくれるのは壱刀流。
手加減されているのは分かるが、一撃の重みがどうしても癖に出てしまうらしい。
元々打ち合う剣術でないのもあるが、常に繰り出される一撃必殺を受け止めるには技が必要だろう。今の僕にはそんなものない。
ついこの間、剣術稽古を始めたばかりなのだ。当たり前だ。
だけどこうして打ち合っていると、ルイの凄さが分かる。
思いの外、僕のお父さんは強いようです。
それがちょっとばかし誇らしく、うれしいです。
壱刀流、弐刀流、参刀流には其々相性があり、三竦みの関係だ。
壱刀流は弐刀流に強く、弐刀流は参刀流に強く、参刀流は壱刀流に強い。
但し、相性の良し悪しがあるだけなので、それで弐刀流が壱刀流に絶対勝てないなどと言う事はない。所詮は練度、環境、個人の状態、武器の状態、考えられる全ての事柄が相まって勝敗を決するわけだ。
「どうした、防戦一方ではジリ貧だぞ。」
「—――はい。」
剣術稽古は
父である前に武人にでもなったかのような。
このくらいでないと修行になりませんよね。
ぐっと、柄を握る手に
—―――ふぅ。完敗だ。――――
ボロクソにやられた。
「覚えがいいなぁ。シルフィアは剣の才能もあったか。」
「…どうだろね。」
「あ、シル!おけいこは終わり?あそぼ!」
「きゅん!」
「…うん。」
こちらはこちらで走り回ったり魔法を使っての遊びだ。
アーシャは風魔法を習得して、飛ぶことを覚えたみたいで、陸では雷魔法で身体能力を強化しつつ、空では風魔法と、近接戦闘にならないよう立ち回れる魔法使いになったようだ。それに易々と追従してみせるニビも相当だ。
ニビは狐なのだが、知性を備えている。
おかげでニビも勝手に風魔法を習得している。
持続時間はアーシャ程ではないが、雷魔法で跳躍した身体を風魔法で浮かせ、勢いを減衰させ、低空飛行といった感じで空中遊泳を楽しんでいるみたい。
この世界の狐さん、ちょっと怖いっす。
かくいう僕も、収納魔法習得を並行して魔力を消費しつつ、剣術やアーシャ達と遊んでいるわけだけども本人は自分のことは棚上げしがちである。
「あーたのしかった!またね!」
「きゅん!」
「…またね。」
ミーシャと一緒にアーシャとニビは帰っていく。
どうしたものか。魔力の無駄遣いなのだろうか。
開拓村の一市民が持ってないのは何となく理解できるけど、商人まで持ってない――使ってる所を見たことがない。
もしかしたら、収納魔法はない?
魔法は想像。疑えば、効率が著しく悪くなる。最悪、形にならない。
今までが順調過ぎただけとも言えるが、一週間以上何の成果も得られないのだから、疑ってしまうのも無理はない。
ここはそもそもその手のものがあるのかどうか聞くべきだな。
夕食時。
「ねえ、ママ、パパ。」
「なあに?どうしたのシル。」
「…なんでも入っちゃうような収納袋みたいな魔法の袋とか鞄とか魔法そのものって存在する?」
二人は顔を見合わせる。
「ああ、あるぞ。でもとても高価で希少な魔道具だな。そんな便利な魔法そのものを使いこなしている人がいるかは分からんが、魔道具として存在する以上、魔法も存在するとお父さんは思っている。持っていたら誰でも欲しがる最高の魔道具だな!」
「お母さんは、ダンジョンの報酬でしか手に入らない希少魔道具って聞いてるから作製したり、魔法そのものを編み出すのは難しいと思うわ。もし研究者が解明してくれたら私達の生活ももっと楽に、豊かになって素敵だとは思うけどね。」
「…そうなんだ。教えてくれてありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
「気になったことがあったら何でも聞きなさい。知っていることなら何でも話してやるからな!」
微笑んだ母には頬を撫でられ、父にはわしゃわしゃと頭を撫でられた。
これを知ったのは大きい。存在している事実が想像—――魔法そのものの発現・成功を促進させてくれる。
本当は実物があれば最高だが、そんなものが無いこと位分かる。
商人との取引では塩樽とか、普通に担いで家に持って帰ってくるし、魔物も
魔道具があるこの世界は地球より優れた部分があり、魅力的である。
電車や車はないが、既に自転車は必要ない程度に僕の運動能力は発達している。
その分、鍛えればいいのだから。トラックがあれば、運搬はより便利にはなるかもしれないけどね。小型車は必要ないね。必要以上に森を切り拓いたりしてしまうかもしれないし、路面整備などしないといけないことが多すぎる。僕は、この世界ではそういったものは生み出さないでおこう。生み出すなら、転移だよな。もしかしたら、都市部には移動手段として既にあるかもしれないけど。
一瞬だから意味がある。
転移魔法を覚えたらすぐに顔出せるし、旅に出ても問題ないはず。
収納魔法すら修めてないのに、夢だけは広がる一方なのであった。
三ヵ月後。
もう季節は冬になります。
僕は新しい魔法を覚えました。
魔力を使い切る毎日を経て、【収納魔法】を習得しました。発狂するかと思ったね。外に出て、浅く降り積もっている雪を一掴みして、亜空間の中に放り込む。
十数秒後、取り出してみる。
雪は溶けてない。
そんなに時間を置いてないからかもしれない。
もう一度入れておく。
これで溶けずに、アイテムとして残っていたら成功だ。
アイテム容量の限界を知るために、少々木を切り倒す。
薪代わりにするために、二十センチ程に割る。
魔法は勿論、風魔法。
長さ二十センチに切り分けた丸太を八分の一にした薪に変える。
高さ五メートルはあった木が丸々一本薪に変わる。
二百本の薪が丁度入る程の容量のようだ。
リスト
・雪
・薪×二百本
上限がどのくらいかは分かった。
使い勝手を考えれば拡張は常にしておくべきだろう。
今まで覚えた魔法の中で一番苦労させられたな。
普通に収納魔法を使う分には、他の初歩的な魔法と大差ないが、拡張だけは相変わらずヤバイ。容量はこまめに増やすか。
念願の収納魔法を覚えたのだ。
父さんと母さんにプレゼントしないとね。
丁度狩りに行く季節だ。重宝してくれるに違いない。
自宅に帰る。薪の在庫を百本程足しておく。
家の中で余っている皮袋を棚から一つ手に入れる。
。
一応【鑑定】スキルを使って確認する。
〈皮袋〉と表示されている。
ただの皮袋に収納魔法を掛ける。
もう一度【鑑定】スキルを使う。
〈
容量の確認と。
残っている薪百本を出来立ての収納袋に入れる。
出した薪は掃除機みたいに一瞬で吸い込まれる。
一々収納の時間を割かなくてもいいのか。
この感じだと、薪二百本分かな。
二、三日拡張してからプレゼントしたほうがいいね。
この日に【
「ママ、パパ、これあげる。」
「え、なあに?皮袋?」
「はは、これに魔石でも入れてくるか。」
「…んん、それ僕が
マリアとルイはぽかんとしている。
夕食が冷めるぞ。もったいない。
あー、美味しい。やっぱり冬は
何を思ったのかルイは立ち上がる。
ルイは手の平サイズの収納袋を片手に、キッチンに向かう。
置いてある薪を一本取る。
マリアもそれを凝視している。
「「本等に
「…そう言ったよ。冷めないうちにご飯食べよ?」
驚愕し、目をひん剥かせている。
好きなだけ驚けばいいさ。
ご飯は最悪温めなおせばいいのだから。
僕は食べちゃうけどね。
「うちの子、凄すぎない…?」
「魔道具を作るなんてなぁ…」
二人は呆けながらも再起動したようで、夕餉を食べ始めた。
魔力の残りで自分の【収納魔法】を拡張工事して…っと。
僕は朝になるのを
「ルイんとこの嬢ちゃんか、本当にありがとうな!便利なもん作ってくれてよ!」
「おかげで
「ウルフはたんまり捕まえてきてやるからな!腕がなるぜ!」
ルイとマリアにプレゼントした
マリアとルイにあげた魔道具の
時間を掛かっただけのことはある。心折れかけたし。今のステとかじゃ、無理なんじゃなかろうか…って何度も何度も思ったけど成せば成るもんだねぇ。
魔法に一区切り付け、剣術稽古に精を出す。
――素振りに励んでいる僕にやたらと声を掛けてくれるのは、三つ子の――槍のガンダルフさん、剣と盾のザンダルフさん、金棒のダンダルフさんだ。
アーシャのパパ――ホセさんも狩りに参加するようだが、手を振るのみだ。
我が村の主力達といってもいい。
ホセさんが恐らく斥候――先頭を行き、殿を
森に入って行った彼等は
――世の中そんなに上手くは行かないようで。—―
「—――撤退!てったーい!」
「—―――――ッ!」
男衆の珍しく焦った声が聞こえてくる。
腹から出血しているのは、槍の―――ガンダルフさんだ。
剣のザンダルフさんが、肩を貸し、村まで運んでいる。
—―――なんだあれは。対峙しているのは見たことのない化け物だ。
狩りで大量にゴブリンやウルフを狩れるようになった。
持ち運びが格段に楽になったから?
分からないけど、問題が起きた。
恐らく?生態系の
魔物の数が減ったので生息分布図に新たな種が参入してきたのだろう。
僕は外で剣術稽古をしていたので、いち早く気づくことが出来た。
はっきりと目視出来る敵に――【鑑定】スキルを使う。
名前が分かった。
森から出てきた新種の魔物の名は―――。
「……トレント。」
骨格は木。血管、筋肉の代わりに蔓が巻き付いており、皮膚を表すかのような苔や 樹皮に覆われた人型を模した魔物。
擬態でもしているつもりなのだろうか。
暗闇なら人かと思える程精巧な人型なのだが、真昼間から現れてもね。
「
僕は最速且つ、殺傷能力に長けた――切れ味のある風魔法を放つ。
トレントは反応するも、
しかし肘から先――蔦が地面に落ちた腕まで伸びると、持ち上がり、修復してしまう。胸の中央には魔石が埋まっているのか、薄紫色に輝いている。
ルイが剣で斬りつけても、ダンダルフさんの金砕棒による打撃攻撃も効いてない。
厄介な魔物だ。
下手に燃やして、森に逃げ込まれて火事にでもなったら大変だ。それに森や山での攻撃魔法—―火魔法は厳禁。森林が失われるだけではないのだ。自生している薬草やハーブなど、損失は計り知れない。薬が作れなければ死者は都市部にも及ぶことになる。よってこれは暗黙の了解であり、村の掟である。火魔法を使って生き延びるは恥。とまで言われている。バレれば法に則って厳重処罰も免れない。極少数の人間が生き残れるか分からない状況下で、周囲に住む人間に迷惑をかけてはならない。これは少なくとも僕達の村では掟――タルク村の属している国――シアでは法にもなっている。
どうしたものか。今後男衆が倒せなくては、この村の天敵になってしまう。
ルイとダンダルフさんが手足や頭に攻撃を加えるも足止めにしかなっていない。
トレントも有効打を撃ち込めないストレスから蔓の鞭が触手のように舞い、棍棒のような打撃攻撃となりうる腕を振り回したりして怒り狂っている。
今まではゴブリンかウルフのどちらかに排除されていた?
ということは、奴等の攻撃手段が有効打になり得る?
—―――――――――‼
「パパはトレントの注意を引いて。ダンダルフさん、胸に魔石が、それを破壊して――!」
「おう――!」
「—――任せてくれ。」
父さんが上段からの振り下ろしで、手足の外皮や蔓を斬り飛ばしていく。
トレントの注意を集めてくれている。
裏に回り込んだダンダルフさんの横薙ぎが背中越しに衝撃を伝える。
魔石が破砕されたトレントは身体を維持できず、バラバラに崩れ落ちた。
「危なかったなぁ、シル!ありがとうな!」
「ルイの娘に助けられるとはな。的確な助言感謝する。」
「…うん。」
撤退する判断が早かったため、死者はなし。三つ子の槍のガンダルフさんは腹部に蔦による裂傷を受けるも命に別状はないようだ。他の人も軽傷で済んでいる。
トレントを正攻法で倒す手段を手に入れたので、
残ったトレント製の木は、上質な薪代わりになった。
三日三晩燃え続ける薪だ。
節約して使っていた薪だが、トレントのお陰で早朝も日中も我慢する必要が解消された。思っても見ない形で恵となる魔物がやってきれくれたようだ。完全に幸運でしかないが、優れた上位互換の薪が手に入ることになる。
僕が作った
大人達—――村の皆は今回の一件を調査した。
自身の村の狩り範囲を調べた結果、生態系が乱れたことによる新たな魔物の侵出が起きたのでは?という結論に至った。
よって乱獲は避そう、という事になったそうだ。
また生態系が崩れて、今度こそ厄介な魔物が現れると困ってしまうからだ。
対処しきれない魔物が現れたら、村は放棄するしかなくなるから。
一匹だけなら都市に依頼すればいいのだが、分布図に影響を与えるのは良くないとの判断だ。
それがいいと、本当に思う。
それにしても短期間の内に新種の魔物が流れてくるとは思いもしなかったな。
村の人達も欲をかかない人達で本当に良かった。
もしかしたら、さらに有用な――益を
でもその原因を作ってしまったのは
はぁ。
途轍もなく重い溜息が出る。
懺悔、後悔、悔恨、悔悟、自責の念に押し潰れそうだ。
危うく家族だけじゃなく、村々をダメにするところだったからね。
便利にするって良い事ばかりじゃないんだなぁ。
この世界、難しいわ。
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