第69話 スーザ防衛戦⑥
「そりゃ、凄いな!」
ローラの持つ力について大急ぎでレヴァから説明を受けた俺は、口を開けて驚く。
リアムの持っていた『力の欠片』が文字通りに『力』だとしたら、ローラの持つ『欠片』は『技』と言って良い。
馬鹿げた破壊の力だけが欠片の正体だと思っていたけど、奥が深いね。
考え込む俺に水を差す様に、レヴァは言葉を付け加えてくる。
【とは言え、今使えるのは基本的なモノだけよ。さほど役に立つとも思えぬが?】
何言ってんだ! これだけありゃ充分だよ!
こいつこそが今、俺が一番欲しかったモノなんだからな。
【前向きで結構な事よな。で、結局どうするのだ?】
「何事も組み合わせ、って事だよ」
【秘策、有り、か……。ならば楽しませてもらおう。
期待はずれにならぬように頼むぞ】
言うだけ言って、いつもの様にレヴァは消える。
と、そこへリアムとメリッサちゃんが跳び込んで来た。
「わっ! よくここが分かったね!」
「メリッサちゃんが、こっちからローラさんと御主人様の匂いがする、と」
なるほど、そう言えば、メリッサちゃんって狐だもんな。
鼻がきくのも当然か。
日頃は帽子のせいで気付きにくいけど、大きな尻尾があるんだ。
狐なのは間違い無い。
「お姉ちゃん! 大丈夫ですか!」
意識を失ったローラを見て、メリッサちゃんは今にも泣き出しそうだ。
「メリッサちゃん。ローラは大丈夫!
でも、このままじゃマズイ事も確かだ。
奴を倒さないと、まともに治療も出来ない。だから……」
ここで俺はちょっと戸惑う。
こんな危険な事にこんな小さな子を巻き込んで良いのか、って思ったんだ。
でも、
「メリッサはガルムもやっつけました! だから、あいつもやっつけるのです。
メリッサはやるのです!」
勢いに押されてしまう。
なるほど三人とも、唯、守られるだけの女の子じゃ無い。
メリッサちゃんの力を借りれば一瞬でも奴を足止め出来るかも知れないし、無理でも驚かせる位のことは出来ると思う。
何より、俺たちは仲間なんだ。
そう、いつでも一緒が正しい!
「よし、そうだね! 確かに俺たちはチームだ! 四人で奴を倒すぞ!」
頷いた二人は、自然に顔を寄せてきた。
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「ふむ、やはり生身では竜甲を身に纏い続ける事は難しいか……」
ズール・サッカールという男は、今でこそ単なる指揮官に過ぎないと思われているが、元は歴戦の兵だ。
身体も頑丈で、それなりに頭も切れる。
だからこそ新しい竜甲の駆動システムに対応出来ていると言える。
だが、やはり限界はある。
何事も引き際が肝心だろう、と
「なあ、サッカール。さっき頭に“良いヤツ”を一発もらったお陰で実験データは充分に取れた。
今日は引き上げとしないか?」
と、出来るだけ柔らかくリンディウムに通信を送るが、勢いづいた声しか返ってこない。
『いかにリーンランド殿のお言葉とは言え、そうはいきません!
ここまで舐められて、おめおめと引き下がれるとでも!?』
あ、こいつ駄目だ。完全に頭に血が上ってやがる。
マズイ、実にマズイよ。
しかし、こいつほどの適任者がそうそう見つかるとも思えんから、無駄に死なせる訳にもいかんしなぁ……。
やれやれ、もう少しだけ説得するか。
「なあ、お前は
さっきの衝撃も竜人ならば少々の打撲程度で済むが、やはり貴様は人間だ。
どこぞかの骨が折れていてもおかしくなかろう?」
『確かに! どうやら右肩と右足が折れましたな』
「やはり、か……」
『しかし流石は竜甲です。添え木を当てられた以上にしっかりと固定されております故、動く事に差程苦労はありません』
「だが、感覚が鈍っている事は確かだろう?
中和剤ももうすぐ切れる。そうなれば痛みと竜の毒のダブルパンチが一気に襲ってくる。そうなれば結局は死ぬぞ」
『お尋ねしますが、そこまでの時間は?』
「残り三十分程かな?」
『なら、充分ですな。十分で片を付けてご覧にいれましょう』
どうやら何を言っても無駄なようだ。
こうなれば最後までデータを取らせてもらおう。
水晶球を竜甲の目に合わせる。
サッカールの奴が見た光景が像を結んで、塀越しにスーザの街中が映し出される。
「ほう、人間共め。まだ頑張るか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「イブンさんが投石機を用意してます。まさか、あんなモノで竜甲を相手に!?」
リアムが窓から外を見て声を上げる。
慌てて窓際に駆け寄るとメリッサちゃんも俺の肩によじ登ってきた。
「わぁ! 町の人たちも沢山いるのです! みんな逃げないですね」
メリッサちゃんが叫ぶのも無理は無いと思う。
はっきり言って、この町の人たちが最後の最後でどう出るかなんて、俺には分からなかった。
下手をすれば、俺たち四人を
今だって、俺はあんまり人を信用してないんだ。
確かに大人しくて優しい人が多い町だと思う。
でも、優しいって言っても、結局は周りに合わせた優しさだ、と思ってた。
本当の優しさには勇気が必要だ。
正義を貫く勇気が無けりゃ、“優しさ”なんて言っても、結局はポーズで終わっちゃう気の弱さと変わらない。
それが人間って奴だろ。
だから、結局は守備隊のほとんどがとっくに逃げた、と思ってた。
でも、現にこうして残ってる。
なぜか胸が締め付けられる。
そんな中、イブンさんが声を上げた。
「お前等、よく聞け! 今、俺たちは確かに押されてる。
けどな、さっきも見たろ! 俺たちには竜甲を吹っ飛ばす程の“最強の魔術師”が居る!
もしかして、今この瞬間にもリバーワイズ卿だってこっちに向かってるかもしれん。
ここで諦めたら、女も子供も揃って奴隷に落とされちまう。
いや、下手すりゃ竜甲造りの材料にされちまうんだぞ!
逃げたい奴は逃げろ! けどな、俺は最後まで諦めんぞ!」
イブンさんの言葉に応えて男達の誰もが頷く中、リンディウムは塀を乗り越えようとして片足を瓦礫の上に乗せた。
「撃て!」
捻られたロープが戻る力を利用した投石機が、ズバンと鋭い音を立てる。
低い軌道を描いて大の男が数人掛かりでも持ち上げられそうにも無いデカイ岩が吹っ飛んでいく。
ドゴーン!
岩は真っ正面から竜甲の胸元に激突して砕け散ったけど、バランスを崩した竜甲はものの見事に引っ繰り返った。
塀の向こうに姿を消して、ズズンと短い落下音が響く。
「おお~! やった! やったぞ!」
「すげぇ! 俺たちでも出来た!」
「当たり前だ! リンディウムを投石機で食い止めた話は幾らだってあるんだ!」
「のんびりすんな! 魔術師殿が戻るまで足止めするしかないんだ。早いとこ次の岩もって来い!」
あっ! そうか!
そうか……、みんな俺を、待ってるんだ。
俺が必ず来るって、そう信じてるんだ。
だから、だから頑張れてるんだ。
良く見ると足が震えてる人が沢山いる。
自分の指を噛んで、動かない手を一生懸命動かそうとしてる人も居る。
みんな恐いんだ。
けど、その中から必死で絞り出してるんだ。
……勇気を!
「凄い、ね……」
「ハイです!」
「本物の勇者達ですわ!」
そうだ、俺たちも負けてられない!
気を失ったままのローラにキスすると、後は手はず通りに表へ飛び出す俺。
「予定通り行くぞ! ふたりとも怪我すんなよ!」
「「はい!」です!」
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