第68話 スーザ防衛戦⑤
ガッキ―――ン
凄まじい音が響き渡る。
次の瞬間、陽光に照らされた長い影が二本、回転しながら別々の方向へと飛ぶ。
腹に響く様な地響きと共に、二本の影はほぼ同時に地面に突き刺さった。
土煙が薄れて行くにつれ、それぞれの姿がはっきりとして来る。
百メートル以上飛んだ一本は、竜甲兵の剣先。
根本から折れて竜甲の手には柄しか残っていない。
そしてもう一本はローラの指揮で発射された
こっちは傷ひとつ無いけど、竜甲兵から三十メートルくらい離れた地面に深く突き刺さってる。
で、問題の竜甲兵は、って云うと……。
ああっ、くっそ~! 全くの無傷だよ。
思わず天を仰いでしまう。
あの一瞬の間に、ズールとか云う奴は
あんな至近距離で良く動けたもんだ、と敵ながら感心する。
いや、感心してる場合じゃない。
ほんの五~六歩も踏み出せば、竜甲の手は町の塀まで届く。
今は、刃先を無くした剣を見て呆然としてるけど、このままじゃマズイ。
「ローラ、下がれ! 失敗だ!」
「わ、分かった!」
『逃がすかぁ!』
怒り狂ったリンディウムが握り部分を壁上に投げつけると、それだけで壁の上部が吹き飛んだ。
何人かが、塀の向こうに落ちたみたいだ。
悲鳴が聞こえる。
「ローラ!」
瓦礫の中からローラが立ち上がってきた。
けど、頭を怪我してる。
酷く血が流れてるのがここからでも分かる。
「あたしは大丈夫! それより、あんたも逃げて!」
そう言いながら、塀の上で立った侭のローラ。
無茶な事に、弓を構えて竜甲兵に立ち向かおうとしてる。
馬鹿! さっさと逃げろ!
と思ったら、あっちゃ~、メリッサちゃんまで塀の上に居る。
すぐ側にリアムが居るから、安心してたんだろうけど、マズイ。
メリッサちゃんが居るから、ローラは逃げずに囮になるつもりなんだ。
いや、もしかして怪我は思ったより酷くて、もう動けないのかもしれない。
顔の半分は血塗れで片眼は開いていない。
思いっきり地面を蹴って塀の上まで跳び上がったけど、ローラの立ってる処までは結構な距離がある。
「リアム、メリッサちゃんを頼む!」
「はい!」
「リョーヘイ! お姉ちゃんを助けて、なのです!」
「任せろ!」
そのまま走り出す。
“力の欠片”の効力はまだ大丈夫だ。
上からローラを叩きつぶそうとする竜甲の腕を抜けて、彼女を抱えると一気に走り抜けた。
ズズーンと、派手な音がして、背後で塀が半分近く崩れ落ちる。
幅をたっぷり二メートルは取ってあったので、流石に一気に崩れる心配は無かった。
でも、あと二回~三回も攻撃されたら完全に穴が開くのは間違い無い。
さっきの火炎弾で敵の歩兵は居なくなったから、すぐに町が占領されるって事は無いだろうけど、あの勢いで暴れられたら、どっちにせよお終いだ。
ローラを抱えて、街中に降りる。
振り向くと丁度正面に塀越しに覗き込んでくる奴の顔が見えた。
その顔面目掛けて火炎弾を思いっきり叩き込むと、見事に吹っ飛んでいく。
あれは直撃だ! 手応えから分かる。
勢いも逃がせてない。起き上がってくるのには、少しばかり時間が掛かる。
まだ運は尽きてない。
ローラを抱いたまま一番近くの建物に跳び込む。
無人の室内にそっと彼女を横たえた。
「ねえ、メリッサは……?」
荒い呼吸の中で、ローラはメリッサちゃんの事を気に掛けている。
こんな時まで……。
「大丈夫! リアムと一緒に避難した」
「そう、なら……、あんたも逃げて」
「はい?」
「聞こえなかったの? あたしを捨てて逃げろ、って言ってんの、よ。
さっき破片が脇腹にも当たったんだけど、どっか折れたかもしれない。
身体が上手く動かないの。あたしを抱えてちゃ逃げ切れないわ。だから……」
「バカ!」
「馬鹿って何よ、馬鹿って?」
「馬鹿だから、馬鹿って言ったんだよ。
ここでお前を見捨てるくらいなら、最初っから跳び込んでねーよ」
言葉の最後が轟音に掻き消されていく
起き上がってきたリンディウムが、塀を壊して足場を造ろうとしているんだと思う。
もうすぐ町に入り込まれる。
そうなったら……。
こうなりゃ、正面から全力を奴に叩き込んでやる。
もしかしてレヴァの力は俺が思うより強いかも知れないんだ。
【いや、残念だが、それは無いな】
レヴァ!
「お前の力でも届かないのか?」
「あんた、何、言ってるの?」
横たわったままのローラが不思議そうな顔で俺を見上げる。
「後で話すよ」
「わかった。大人しくする。だからメリッサを助けて、お願い」
やけに素直だ。
そのまま、気を失った。
今、ローラはこれで良いとして。
レヴァ、俺の意識をくれてやっても良い。
それでも勝てないのか?
【当然それなら容易く勝てる。だが暴走した我はその娘のみならず、この町もろとも奴を消し去るだろうなぁ】
それじゃあ、意味ねーだろ!
【そうとも! よって、お主は自分の意志で勝たなくてはならん】
ケラケラと笑うレヴァ。
相変わらずの野郎だけど言っている事は正しい。
ぐっ、と息を呑んで思わず俯きそうになった俺の脳内に、続いて信じられない台詞が飛び込んできた。
【それはそうとして、まさかこんな近くに『欠片』があったとは、な!
リバーワイズとやらめ、魔力を追われて居場所が割れる事を恐れ、この娘に封印を施してあった様よなぁ。
どうやら、娘が血を流した事で僅かだが『欠片の力』が漏れたか】
今、何て言った!
【この娘の中に、欠片が眠っておる】
マジか!
【この様な話で嘘を吐いてどうする】
分かった。で、ローラが持ってる“力”って何だ!
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