第65話 スーザ防衛戦②
全く、あり得ない事が俺の身体に起きている。
一体、どうなってやがる!
大声で叫びたいが、そうも言っていられない。
さっさと今回の問題を片付けて、このヨロイを脱ぎ捨てにゃあ、今後は俺が戦奴扱いだ。
強さって奴は『集団』と、それを纏め上げる『権力』の事だ。
幾ら竜甲が強かろうが、一人の腕力なんぞは集団の力や権力の前には何の意味もない。
こんなモノを身に纏って喜べる奴は単なるガキだ!
俺は違う。
『おい、ズール・サッカール! 何をブツブツと言っておる。
そろそろ落ち着いただろう。さっさと再起動しろ』
魔女の声が水晶球から聞こえて来る。
悔しいが、時間稼ぎもここまでだ。
観念して竜甲に意識を送り込む。腕の痛みはますます酷くなる。
恐らく、竜の毒が回っているんだろう。
いくら中和剤を打っているとはいっても、どこまで持つやら知れたものじゃあ無い。
切断された腕から直接、俺の神経を竜甲に繋いでいるらしいが、まさかこんな方法があるとはな。
まあ、良い。
あの小僧とリアムを殺せるなら、一時の苦痛や屈辱には耐えてみせるぞ。
それに、今回の実験は俺にとっても今後の役に立つかもしれん。
生き延びれば道はあると信じるしかない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イブンさんが持ち込んだものの後から、あの神父が付いて来た。
いや、それだけなら良いんだけど、息を切らせて俺の前に立ったかと思うと、直後には指先を突きつけて喚きまくる。
「き、貴様ら! 神をも恐れぬ事を行いおって! 教会をなんだと思っておるのだ!」
「無駄飯ぐらいの役立たず、かな?」
神父の怒鳴り声を俺が切って捨てると、周りからドッと歓声が沸き上がる。
けど、流石に神父も引けないみたいだ。
「今、笑った者は破門だ!」
さっき以上の叫び声に周りは静まり帰った。
全く、気分が悪い、と思うけど一刻を争うんだ。
何とかなだめすかす。
「なあ、神父さん」
「な、何だ!」
「不満があるのは分かる。でもね、衛士がほとんど役に立ってないんだぜ。
こいつを使ってあの化け物を倒せば、下がりまくった教会の株も持ち直すってもんじゃないの?」
そう言って俺が指したモノ。
それは、教会のシンボルモニュメントだ。
地球で言うなら十字架の様な存在かな?
長さは三メートル、直径は十五センチ程の鉄の棒の先に二重の輪っかが着いていて、その輪っかは放射状に飛び出した八本の直線に支えられている。
まあ、輪っかはどうでも良い。
重要な点は棒そのもの長さ、太さ、地面に突き刺されていた先端の鋭さ。
加えて、大の男が五人がかりで運ばなくっちゃならない程の重さ。
そして何よりも、その頑強さ、だ。
イブンさんに『頑丈でデカイ槍になるモノが欲しい』と言った時、彼は迷わずこいつを候補に挙げた。
「なら、やっぱりセイストンリングの
「セイストン? リング?」
「聖光教のシンボルを知らんのか!?」
呆れた様に俺の顔を見るが、国が違うって一言で納得してもらう。
「で、頑丈なの?」
「ああ、このスーザの奴は特に、な。
何と言ってもリバーワイズ卿の実験で出来た合金を使ってる。
メチャクチャな硬さと重さを生かして、昔は石切場で破砕杭に使われていたんだが、十年使っても刃先が全く擦り切れないのを見た教会が『神の
「いやいや、造ったのはリバーワイズさんでしょ?」
「その技術を与えたのは神の天啓だ、ってのが教会の言い分だな」
「何だ、それ! 綺麗事言っても、結局は泥棒じゃないか!」
「そういうもんだ、世の中ってもんはな」
イブンさんは肩を竦めるだけだけど、俺としては納得がいかない。
「石切場の仕事はどうなるんだよ!」
そういって詰め寄る。
「まあ、町の壁を造る仕事も一段落した時だったんで、卿も職人達も“教会と揉めるよりは”って素直に譲ったんだよ。
だから石切場では、後から造った小さめの奴を使ってるんだ」
「また召し上げられないように?」
「そうだ」
「なら、遠慮は要らないね」
そんな会話の結果、コイツはこの場に運ばれてきたって訳だ。
飾り物じゃない本来の仕事に戻ってもらうだけだ、と思う。
まずは錫杖に改造された時にくっつけられた頭の部分をはずす。
教会にとって一番重要な二重円のシンボル部分は後付だったので、その場でリアムに切り落としてもらった。
自慢の曲刀であっさりと切り落とした様に見えたけど、
「継ぎ目から下は、まるで別物です。あそこに刃が当たったら、竜甲兵用の斧でも間違い無くへし折れちゃいますわ」
と驚いている。
どうやら、充分期待できそうだ。
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