第66話 スーザ防衛戦③
支柱を改造し終えた直後、敵兵の一部が裏手に回って侵入したと叫び声がる。
下を見ると中から門を開けようと、こっちに走ってくる奴らがいる。
全部で四人。
ヤバイ!
思う間もなくリアムが市内側に飛び降りると、一刀のもとに先頭を走って来た男を切り捨てる。
その後に続いていた連中は空中から突然現れたリアムの姿に慌てて、回れ右すると一直線に逃げ出した。
「アレを逃がすとまずいぞ! 街中に潜まれる!」
イブンさんの声に反応したのはローラだ。
「任せて!」
三度、弓弦の音が響くと、死体がみっつ転がった。
「あっぶね~!」
胸をなで下ろす俺の側で、イブンさんが早速、配下に指示を出し始める。
「おい、お前とお前! 十人ずつ引き連れて、それぞれ西と北の防御に回れ!
侵入者の数が多い様なら、笛を吹いて応援を呼べよ!」
ふと、その時、リアムの言葉が脳裏によみがえった。
「イブンさん、ダメだ! コイツは罠だ!」
「なに?」
「どういう事?」
「リアムが言ってただろ、“自分の動きを敵に読ませる罠を張る事で、思う方向に誘導すれば最短の斬檄が可能になる”って」
「?」
キョトンとしているふたりに説明をする。
「つまり、今のイブンさんの言葉が奴らの狙いなんだよ」
「どういう事だ?」
「あんな方法で門が開くかどうかなんて博打だ。それも無茶苦茶に分が悪すぎる。
今のが本気なら、もっと人数を揃えて来てたよ。
いや、そっと侵入するにはどのみち少人数でないと無理だから、それもあり得ない」
「じゃあ、今の奴らを送り込んだ敵の本当の狙いは何だったんだ?」
「敵兵の数と町の防衛人数はそれぞれ百人くらいだね。
つまり、ほぼ互角だよ。だから、」
首を傾げるイブンさんに言葉を続けようとするけど、途中からローラに持って行かれてしまう。
「なるほど、守備力を分散させて正面を手薄にさせようって訳ね」
「そ、そう云う事!」
俺たちの言葉に“なるほど!”と頷くイブンさんだけど、続けては疑問も口にする。
「しかし、正面にはまだ竜甲が居る。
どっちにしても、お前を……、なるほど! お前をどっちかに引き付けたいのか!」
「多分、そう。だから、いまだに竜甲は動かない。
あれで終わりだ、って思わせたいんだろうね」
「なら?」
「せっかくのご招待だ。乗ってやるさ」
塀の上まで跳び上がってきたリアムと打ち合わせる。
直後、俺たちはそれぞれ反対方向に向かって、塀の上の通路である犬走りを走り出す。
相手から、見えるか見えないか、の位置を保って裏手まで一直線だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『あらあら、やっぱり素人ね。あっさり引っかかってくれたわ』
双眼鏡を覗いて魔女が笑う。
「俺の策を、自分の事のように自慢するんじゃない!」
どこまで人を舐めてやがるんだこの女は!
全く気分が悪い。
だが、確かにリアムは北側に、あの小僧は多分だが西に回った。
正面攻撃に気付いたとしても、最初に戻ってこれるのはリアムだろう。
上手く行けば、リアムを人質にとって小僧の動きを止めることも出来るかも知れん。
『百二十ベル(秒)数えたら行きなさい』
魔女の指示は的確だ。
俺から見てもそれぐらいが、丁度良いと思っていた。
さて、一歩前に、むっ!
『あらぁ? 突入隊は全滅だと思っていたんだけど、まさか成功するなんてね!』
全くだ。俺も驚いている。
魔女の言葉が終わらぬ内に門が開いて三分の一ほどの処で止まった。
結局、生き残った突入兵も全員殺された様だ。
確かに任務成功の
何にせよ、これはチャンスだ。歩兵共も門に向かって突き進む。
塀の上からは矢が降って来たが所詮は素人の弓射だ。結構な数が死角に入り込めた。
成功だ!
今では丸太を突っ込んで、門を閉めさせないところまで迫っている。
『勝てるのは良いけど、このままじゃあ実験にならないわねぇ』
魔女がぼやくが知った事じゃない。
この町を落とすのは、リアムを捕らえる事だけが目的じゃあ無い。
どっちにせよ、ダニクスの動きを止めるために大半には死んでもらわんといかんのだよ。
あのお人好し町長も運がなかったな。
なかば開いた門を取り合って乱戦になっている様だ。
歩兵共の手柄を横取りするのは好かんが、相手もよく粘る。
何より、小僧が戻ってくる前にどうにかしないといかん。
前に出なくてはな。
むっ!何だ、アレは!
馬鹿な、何であの小僧が門に! 裏に回ったんじゃなかったのか?!
指先を正面に向けている。
「馬鹿! 歩兵共、下がれ!」
思わず叫ぶが、遅かった。
門前が真っ赤に光って大爆発を起こす。半数近くが巻き込まれて、残りは大きく引く。
このままでは壊乱だ。
立て直せるだろうか?
『やだっ! こっちが引っ掛かったの? 歩兵長も少し考えて前に出なさいな!』
魔女の声がますます鬱陶しくなって来た。
確かに今のは痛い。
だがな、小僧。
正面から二度も最大攻撃力を見せたのは失敗だったぞ。
やはり、貴様の魔法の有効な射程は五十モート(メートル)を超えん。
其処から先の威力は極端に落ちる。
いや、何より、火炎魔法の熱量も大体分かった。
地竜型が何故、各国で標準的に使われているか分からん様だな。
そう、炎に強いからだ。
貴様の火炎の強力さは確かに大したものだ。
だがな、火炎系魔術師に対抗した研究など、過去百年は行われているんだよ。
「死んでもらうぞ」
最初の一歩を進めると、後は一気に加速した。
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