第61話 これから①


「で、結局、どうしましょう?」

「う~ん。どうしましょう?」


 町長さん、イブンさん、そして俺たち四人。

 計六人で始まった話し合いは、さっきから一歩も進まない。

 ある方針が決まったのは良いのだけど、その為にどう動けば良いのか、そこがさっぱり分からないんだ。



 翌日、再開された町の会合だったけど、誰もが先日の俺にビビっちゃって、

『三人に、お任せします』

 で、終わって今になってる。

 でも、その中で、商人の代表として、三人の中に選ばれたイブンさんが、みんなの言葉を代弁してくれた。


「早い話、このままじゃせっかく育てた町を捨てて、全員余所で一から出直しって事になっちまう。

 キャラバンの連中の様に他の町にツテでもありゃ話は別だが、店持ちは簡単に町を出るって訳には行かない。

 だから、力の有る奴が町を守ってくれるってんなら、それが誰だって構わないのさ」



 この世界は地球とは違う。

 町が一つ変われば、もう外国みたいなものだ。

 どの町でも利権って奴は複雑に絡み合っていて、新入りはロクに稼ぎを得られる事はまず無い。

 下手をすれば商売も何もかも失って、のたれ死にしかねないくらいだ。


 一度生活の基礎を築いた町を出るって事は、本当に命がけだ。

 だから、みんな、町長と俺、イブンさんに全てを任せるって腹を決めた訳だ


 その話を聞いて“なるほど”と納得する俺だったけど、そこでもイブンさんは釘を刺してくるのを忘れなかった。


「あのな、リョウヘイ。

 その素直な処はお前の良いところだが、悪いところでもある」

「へっ?」

「わからんか?」


 先だっての俺の竜への変化以来、イブンさんは逆に気さくになった。

 何でも、“力を持ってても溺れない若造ってのを初めて見た”って言って、随分信用してくれる様になったんだ。


 それはさておき、素直さが俺の悪いところって、どういう事?


「素直なのは、いけないの?」

 首を傾げると、イブンさんより先にローラが吠える。


「当たり前でしょ。商売だって、互いの駆け引きで成り立つのよ!

 町ひとつ守ろうってのに、人の話の裏も読まなくてどうするの!」


「闘いも同じですわ。

 相手の動きを読む。或いはわざとこちらの動きを読ませるなどの罠を張る。

 そうして相手を自分の望む場所へと誘導することで、最短の斬檄が可能になります。

 “素直”では、決して生き残れません。

 差し出がましいとは思いますが、御主人様はその点にもう少し気を配るべきかと思います……」


 ついでに、リアムにまでお説教を喰らってしまった。


 そんな中、ふたりを押さえてイブンさんは、再度俺に問い掛ける。

「あのな、今、俺が言った事で、ヤバイ台詞があったのに気付かないのか?」


「ヤバイ言葉?」


「そうだ」


 腕を組んで考える。

 あっ!


「なるほど、“誰でも良い”ってところですね」


「よし、よく気付いたな」


「リョーヘイが褒められましたです。でも、なんで褒められたですか?」


 ソファに深く腰掛けてレモネードを飲んでいたメリッサちゃんが、嬉しそうに声を上げた。

 この場にメリッサちゃんを置くのはマズイかと思ったけど、馴染んじゃってるんで町長もイブンさんも特に異議を唱えることも無い。

 それどころか、自然に返事を返してくれた。


「あのな、メリッサちゃん。今、この町は危険ではあるが、反面、凄い儲け話が埋もれてる町でもある。

 だから、この町を守るのが“誰でも良い”って事は、リョウヘイでなくても良いって事なんだよ。

 いや、場合によっては、リョウヘイ以上の力がある奴が塩の利権を求めてリョウヘイを邪魔だと判断した場合、町の連中に裏切り者が出る可能性だってある」


「ええっ! それは大変なのです!」


「だろ! だから、リョウヘイはここからは命がけって訳だ。

 いや、その周りにいる俺たちも全員、だ。

 ひとつ間違えたら、暗殺だってされかねない。

 いいか、特に食い物には気を付けろ。幾ら強くても毒には対抗できん。

 これからは同じ店で続けてモノを喰うな。買い物もするな。気に入りの屋台を作るな。

 分かったか?」


 そう言われて、メリッサちゃんは手元のレモネードをじっと見る。

 このレモネードも自分自身で買い物が出来る様になって以来見つけた、お気に入りの店から買ってきたものだったからだ。

 悲しそうな表情は隠しようもなかった。


「まあ、まあ、メリッサちゃん。

 レモネードなら、うちの女房が作り方を教えて上げるからね。

 自慢の一品だから結構美味いんだよ。

 それにイブンも、続けては買うな、って言ってるだけなんだから」


 町長の言葉で少し明るくなったメリッサちゃんを見て誰もがホッとする。

 やっぱりメリッサちゃんがいると場が深刻になり過ぎなくて良い。


 さて、話の続きを、と考えた時、いきなりドアが開いて町長の秘書が跳び込んできた。

「敵襲です! 先日の山賊らしき連中が、近くまで押し寄せているそうです!」


 誰もが顔を見合わせる。

 そんな中、イブンさんが不敵に笑った。


「こいつは案外、チャンスなのかもしれんな」




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