第62話 これから②


 俺たちが決めた町の生き残り策は、『自由都市宣言』だった。

 先日、町長が考えた『武装中立』に近いけど、あれだと周り中を敵に回してしまう。

 今回の案である『自由都市』は、それと似てことなる方法だ。


 つまり、基本は王国の領内に存在するけど、カサンカ侯爵とも敵対する事無く、対価さえ払ってくれたならきちんと取引するって事だ。

 但し、どの軍の駐留も認めないし、街中での戦闘も禁止するので、非武装で町に入ってもらう事になる。

 それが嫌なら、町の外で取引を済ませてもらうだけだ。


 問題は、王国、伯爵、侯爵のそれぞれに条件をどうやって呑ませるか、だ。

 彼らがそれを認めてくれなくては話にならない。

 ずっと闘い続ける『武装中立』って程じゃないけど、一度くらいは、単独での防衛能力があるって事を見せなくっちゃならない。

 先に庇護を打ち切ったのは伯爵、ひいては王国だから、こっちが生き残りのためにどんな策に出たって、無用に敵対さえしなけりゃ大義名分は立つ。


 でも最初の一回だけでもマジキチ国家ならぬ、『マジキチ町』をやらなくっちゃならない事も確かなんだ。

 デモンストレーションって奴だ。


 町が包囲されない程度の小さな闘いなら、一応の勝算はある。

 何と言ってもレヴァの力はでかい。

 リアムと戦った事で分かった様に、竜甲兵だって潰せる。


 でも相手が数を揃えて来るような本格的な戦闘は無理だ。

 つまり、こっちからわざわざ出かけてケンカを売るなんて事はできない。

 最低限の狙いとして、

『補給は出来る。でも占領するには相当の被害が出る事を覚悟しなくっちゃいけない町』

 相手にそう思わせる事ができれば、スーザの安全は保障される。


 だから、今回の敵襲はイブンさんの言う通り、意外とチャンスなのかもしれない。


「出来るだけ派手にやろうじゃないか!」

 イブンさんの言葉に嬉しそうに頷いたのは俺じゃ無く、リアムの方だった。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 今、スーザの兵力は数人の傭兵と、教会から引っ張ってきた衛士が全部合わせて三十人。

 それに町から集まってもらった男達百名ほどをイブンさんが指揮する。

 でも、こっちは完全に素人。まるで役に立たない数合わせだ。

 北の都市シーアンに自由人バロネットを募集する公告を出した矢先だったので、兵力なんかまるでない。

 この頼りない戦力で高く築いた塀を守るだけだ。

 一箇所でも突破されたら、降伏する様に話してある。


 無駄死には誰だって嫌だろうからね。


 さて、その塀の上から遠くを見渡すと……。


 来た!


 確かに山賊っぽい。

 でも、俺の勘が『違う』って告げている。


 あれは、先日の連中だ。


「間違いありません。男爵の兵ですわ」

 リアムが断言する。


「分かるの?」


「“臭い”ですわね。

 あいつらの臭さと言いましたら、中々忘れられるものじゃありませんから」

 そう言って笑う。


「まあ、何でも良いじゃない。やってくる連中がふざけた行動に出たら、その時は潰す。

 それだけなんでしょ?」

 ローラは俺を見て、安堵した口調で気勢を上げる。

 頼りにしてくれている様で嬉しい。


 けど、集団の中に、妙な物を見つけた俺は嫌な予感がしてくる。


「なあ、リアム」

「はい、何でしょう?」

「竜甲ってどうやって運ぶんだい?」

「長距離の移動では荷車を使います。

 それ以外ですと、戦闘地域では竜甲兵が自力で歩きますわ」

「じゃあ、今回は前者のパターンかな?」

「と言いますと?」


 問われた俺は、遠くに見える集団の更に後方を指す。

 最初、ローラが俺の指の先に目をこらして首を傾げる。

「遠くて良くわかんないわねぇ」


 かなり目の良い筈のローラでもまだ見える距離じゃない。

 でも、竜の肉を食べて目まで普通じゃ無くなってるリアムには、はっきりと見えたみたいだ。

 苦しげな声で呟いた。


「荷車……」


 そう、集団の中に覆いを掛けられた荷車が一台。

 あの下にあるのは間違い無い。


 あれは……、竜甲だ。




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