第53話 力の欠片④
男爵の軍は町の東の陣を引き払って、代官領の中央に当たる北の町に移った。
つまり、このスーザは完全に孤立したって訳だ。
町長は町の有力者を集めて、会合を開くことになった。
集まった人たちは、主に大きな商店の主や農園の管理者、それにキャラバンの元締めなどだ。
だけど、この連中、なーんか
案の定だ。会議は最初っから紛糾した。
「いざとなったら、ワシらは出ていくだけだな」
「男爵を怒らせるような事をしたのではあるまいな?」
まず、これぐらいなら良い方で、
「税を横領したとか?」
なんて言い出す奴も居て、流石にこの言葉には町長も怒鳴り返す。
「そんな事をしていたなら私は縛り首です!」
その中で特に酷い言葉を発したのは、教会の神父だった。
この世界の宗教は、『聖光教』というやつに一番の力が有るようで、この王国の国教もそれだという。
他の宗教も認められて居るけど、聖光教以外の宗教には人頭税が掛けられるから、まあ、殆どの人がこの宗教に属している。
それだけに発言力も大きかった。
そして、禿頭を光らせた神父はごく当たり前だ、というかのように発言する。
「こうなれば教会から聖光騎士団を呼び入れるべきでしょうな」
「はぁ!?」
誰もがこれには声を上げる。
これは、このスーザの町を教会の私領にするって意味だ。
そうなれば全ての商行為には教会の許可が必要になる。
いくら何でも認められる訳がない。
「まさか反論ですか? 我が神聖魔法が恐ろしくは無いのですかな?」
その言葉に、誰もがたじろぐ。
俺としては“神聖魔法って何だ?”ってなモンだけどね。
そう思ってるとレヴァが答えてくれた。
【どうやら、人心掌握術の一種だな。条件が揃えば相手に幻覚を見せる事も出来るようだ。
そいつを使って神の威光とやらを演出しているのだろうよ】
な~んだ。要は詐欺師ってことじゃねーか!
なら遠慮はいらねーな。
思わずぶちかます。
「なら、なんで山賊相手に戦わなかったんだよ!」
その言葉に周りの連中はビックリしたみたいだ。
教会に逆らう人間なんて中々いないんだろうね。
当然、神父も顔を真っ赤にして怒鳴り返して来た。
「私は神のために戦うのです。今回、神の声は聞こえませんでした。
それは神があの様な結末になる事を知っていたからでしょうな!」
人の頑張りを自分の信仰の強化に使うとは、ふざけた野郎だ。
こいつはちょっとお灸を据える必要があるね。
けど、“ちょっと傲慢だろ”と言い返そうとする俺を町長が宥めて来た。
「魔術師殿。いずれにしても兵力は欲しいのです。
交渉次第では教会領になることを避けられつつ、防衛力を増やせます」
“まあ、そんなら”と納得して俺は下がる。
でも、この坊主、続いてとんでもない事を言い出した。
「それでは我が聖光騎士団の到着まで、奴隷を集めて兵士化させます。
訓練は教会の衛士で行いますので、この町の亜人は全て教会に献上して頂きますよ」
「はぁ!」
何、言ってんだ、こいつ?
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