第52話 力の欠片③
めんどくさいから逃げちゃおうか、とも思ったけど、考えてみると今のこの状況って、俺にも責任があるんだよね。
リアムを引き取らなきゃ、こうはならなかったんだろうから。
こうなるとリアムの素性がばれてない事は幸運だ。
『竜甲兵』そのものはともかく、搭乗者は軍人以外にはあまり知られていないようだからね。
しかし、いつかはばれるよなぁ。
それに、このスーザの町はローラとメリッサちゃんにとって故郷に当たる。
なら、完全に放置するって選択肢がある訳も無い。
さてどうしようか? と思っていると、町長が俺に問い掛けてくる。
「あの、さっき言った“狙いはそれかも”とは?」
「つまり、この町が侯爵に寝返ったってことがはっきりしたなら、一昨日と同じ事を次からは堂々と出来るって事ですよ」
「やっぱり、そうですか……」
「とにかく具体的に町長さんは、今後どうしたいんですか?」
尋ねると、簡単にだけど町のこれからのあり方について語ってくれる。
けど、町長の話す内容はさっき以上に無茶が過ぎた。
「まあ、一種の自治領として認められたので、まずは防衛体制を整えます。
それで王国に兵は出さず侯爵軍と戦う義務を放棄する代わりに、侯爵の手先にもならない。
つまり武装中立ですかねぇ」
「はぁ!」
「な、何か?」
「“何か?”じゃないですよ! そんな事が本当に可能だとでも思ってるんですか!?」
こうなると俺も思わず声を荒げてしまう。
「何かマズイのでしょうか?」
「マズイなんてもんじゃないですよ!」
町長の考え方は、地球でならちょっと前までのスイスが持っていた考え方だ。
「永世中立」と言えば聞こえは良いけど、事はそう簡単にはいかない。
誰の味方もしないという事は、裏を返せば「周りは全て“敵”」って事だ。
実際、第二次世界大戦のスイスはナチスドイツとも戦ってるけど、それ以上に米軍とも戦ってる。
あまり知られていないけど、ドイツ軍、米軍の戦闘機二十五機を撃墜、一六六機を強制着陸に追い込んだ。
スイス側も二〇〇機以上落とされてるから、随分と分が悪い闘いだったんだろうけど、それでも最後まで中立を止めることは無かった。
いやそれどころか、戦前から全国民に捕虜になることを禁止した上で、『負けた場合は国ごと焦土にして全てを滅ぼした上で、スイス人は地上から消え去る』とまで世界に宣言して大戦を乗り切ったんだ。
つまり、そんな“マジキチ国家”と同じ方法を取ろうとしてるのが町長の発言だ。
俺は地球とかスイスってところは曖昧にして、その事を説明する。
「わかります? もし、侯爵軍がこの土地にやってきて正当な対価を払って補給を求めたとしても、それを突っぱねて全力で戦う。
国王軍相手でも同じ。つまり“中立”ってそう云う事なんですよ」
「あわわわっ~! で、ではどうすれば!」
「とにかく、まずは侯爵軍に対する防衛体制は整えます。
その後は、男爵の上に直訴するしか無いでしょうね」
「つまり伯爵ですか?」
「そう、確か男爵は、あくまでも代官なんですよね
ある意味、町長さんと男爵の立場はあまり変わらない筈です。
本来の領主に訴え出て、町長の言葉が認められるまで独自に町を守る、それだけで良いんじゃないですか?」
「なるほど」
なるほど、じゃねーよ! と思ったけど、この世界の身分制度の強固さから考えると、頭ごしに直訴って考え方自体が異常で、思いつきもしなかったんだろう。
とにかく方針は決まった。
侯爵軍とは対決はするが、あくまでそれは伯爵からの援軍が来ることを見越しての闘いって考え方だ。
条件によっては降伏もありで良いだろう。
そういう訳で、急いで伯爵に使いを出してもらう事にした。
次いで話は、問題のダニクス侯爵軍の動きに移った。
どうやら侯爵軍は、今すぐにもこの町に迫ってるって訳じゃ無いらしい。
全軍は領境でうろうろしてるだけで、時々、偵察部隊がやってくるレベルだそうだ。
そこまで聞いて、俺はあることに気付いた。
「あれ? って事は、それなりに防衛体制は整ってた筈なんですよね?」
「男爵の守備部隊はここらから少し東に陣を張ってただけで、常に町に居た訳じゃないんです。
そこを抜けられたんだと最初は思いましたけど、どうやらその部隊は全く無傷だったようです」
「じゃあ、やっぱり、あれは男爵軍で間違い無かった訳だ」
「はあ、その様で……」
ここまで来ると町長も嫌々ながらに、事を認めた発言をしてくれる様になった。
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