第54話 力の欠片⑤
夜半、俺は教会の裏手に立っている。教会は町長の家なんか目じゃない程、でかい。
まあ、どの世界でも宗教ってのは儲けの手段なんだろう。
信者が幾らでも金を落としてくれるからね。
つまり「信+者=儲」って訳だ。
漢字って良くできてるよなぁ。思わずひとり頷いてしまう。
それはさて置き、今、俺は一人ではなく側にリアムがいる。
あのハゲ神父の好き勝手を許す訳にはいかないので、ちょっとお灸を据えてやる事にしたんだけど、まさか教会に火を付ける訳にも行かない。
そこで物理的にこの教会を破壊してやろうって訳だ。
リアムを引き寄せる。
いきなり手を取られて彼女はビックリしたみたいだけど、特に抵抗せずに俺に身を任せた。
今更だけど、リアムってホントに俺の奴隷なんだなぁ、って思う。
でも、こう云う行為は拒否できるって言ってたから、結構気を許してくれてるんだろうね。
お風呂も一緒に入って(未遂)くれたし……。
「あのさ、リアム」
「は、はい。何でしょうか?」
ほのかな月明かりしか無いので、よく分からないけど、リアムの頬に少し朱色が差している感じもする。
良いのかなぁ? いや、これはいやらしい気持ちじゃない。
力を手に入れる為、後はあの馬鹿神父に天罰を下して、ローラやメリッサちゃんを始めとした奴隷達を勝手にさせない為に仕方なくやるんだ。
そう、仕方ないんだ。
先にリアムには話してあるから、後は俺が覚悟を決めるだけなんだけど、いよいよとなると、やっぱり気が引けるよなぁ。
だって初めてだもん。
え~っと、どうしようか?
悩んでいると、いきなり、リアムに正面から回された両手で頭を抱えられる。
「御主人様。リアムは嬉しゅう御座います」
それから、彼女は俺にそっと唇を重ねてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、町は大騒ぎだった。
なんせ、一夜にして教会が傾いちゃったんだからね。
どうやったのかって?
リアムから『力の欠片』を借りた俺は、フルパワーで教会の土台部分を目一杯ぶん殴った。
それだけ。
そう、それだけで教会の壁の片面に横一直線の亀裂が入ると、そこから見事に石組みは弾け飛んで、あっという間に建物は傾いちゃったって訳だ。
後は中から聞こえた悲鳴を尻目に、速度の上がった足を使ってその場からトンズラ。
あっという間の出来事だった。
え、『欠片の能力』を借りる方法?
まあ、それは、アレですよ。アレ。
うん、あの方法で数分間だけリアムの中に眠ってる力を借りることが出来るらしい。
まあ、厳密に言えば唾液も身体の一部だから、一応はリアムを喰った事になるんだろうね。
問題は、翌日からリアムが人目も気にせず腕を組みたがる様になっちゃって、ローラの怒りが最高潮に達してるんだ。
そりゃ頼んだのはこっちなんだから、事が済んだら無碍にするって訳にもいかないけど、こうもべったりは困るよなぁ。
おまけにメリッサちゃんまで、反対側の腕をつかんで離そうとしないんで歩きにくいったらありゃしないよ。
両手を塞がれてよたよたと歩いていると、俺たちを見つけた町長がすっ飛んできた。
「魔術師殿! 大変な事が起きましたな!」
「神罰なんじゃねーの」
しれっと言って俺は声を出さずに笑う。
それを見た彼は、全てを理解した様だ。
「どんな方法を使ったのか知りませんけど、お願いですから教会を敵に回さないで下さいよ」
と肩を落としてしまった。
もう一人、呆けている男が居る。
例の神父だ。
涙目になって、傾いた教会の前で教会再建の為の募金を呼び掛けているのだが、どうにも集まりが悪い。
これで暫くは奴隷を集めるどころじゃ無くなった筈だ。
人手があれば仕事が進むって程、簡単な話じゃ無いんだからね。
昨晩の会合での「教会領」編入の話は広まってた様だから、町の人たちも進んで協力する気にはならない様で、誰もがニヤニヤと笑うばかりだ。
庶民にとって神様を信じる事と、あの神父が好かれているかどうかって事は別問題だって確かめてから事を起こしたんだから、この光景も計算通りだ。
何より、どうやらこの町ではリバーワイズさんの影響からか、奴隷って名ばかりの存在だったらしい。
宿屋の女の子ソーニャちゃんも実は奴隷なんだけど、殆ど娘みたいな扱いだった。
要するに家族だ。
他の家も似たり寄ったりだったんで、よこせって言われて納得する人はいなかったんだろう。
利益しか頭にない商人ならメチャクチャに扱いそうだけど、ここでも話は逆で、
「奴隷は高い金を払って手に入れたからこそ大事にする」という考え方らしい。
調べるほどに、世の中って良い意味でも単純じゃ無いんだって分かった。
さて、それではいよいよ町の防衛準備に入りますか。
まずは石切場へ向かおう。
力の欠片はこう云う時にも役に立ってくれるだろうから。
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