第34話 信頼されたかな? ①

 身体が重い。

 疲れが酷いんだろうか、夢うつつの中でそう思ったんだけど、目が醒めても実際に胸元に少し重みを感じるんだよね。

 そんで柔らかくて暖ったかくて、“もふもふ”してて……。


“もふもふ”?

 気がつくと、ベッドの中にメリッサちゃんが潜り込んでいて、俺に覆い被さるように眠っていた。

 うはぁ! 幼女ロリ・コン、キタコレー!


 って、喜んどる場合じゃない。


 おいおいヤバイよ!

 こんなとこ、いやこんなとこをお姉ちゃんに見つかったら、またぶん殴られちまう。

 起きてもらわなくっちゃ!


 でも、まあ、これはこれで悪くない……。

 いやぁ、やっぱりもうしばらく、こうしていようかな?

 う~ん、悩むなぁ。


「ふぁ~、ですぅ」

 悩んでいるとメリッサちゃんが目を醒ます。

 ホッとしたような、少し残念な様な……。


「あっ、リョーヘイ起きてるです。おはようです!」

 俺の顔のすぐ上にメリッサちゃんの顔がある。

 やべー、めっちゃ可愛い!

 子どもなのにピンクの唇が妙になまめかしい。いけない気分になりそう。

 思わず、ぎゅって頭を抱きしめたくなっちゃうね。


 でも、そこを我慢して、平静を装って返事を返した。

「はい、起きました。おはよう。

 ねえ、なんでメリッサちゃんがここに居るの?」

「ローラお姉ちゃんからリョーヘイまもってますです」

「は?」

「ローラお姉ちゃんはリョーヘイいじめるです。だからメリッサがまもるです!」


「あ、ありがとね……」

 さっきまでの自分のゲスさ加減に思わず落ち込む……。


 それはともかく、お姉ちゃんの名前はローラという事がやっと・・・分かった。

 あと、メリッサちゃんがここに居ることは彼女も知ってて、取り敢えず、この状況でも危険は無さそうだ、とも。

 気を取り直そう。


 取り敢えず、メリッサちゃんに降りてもらって自分の腕を見ると、火傷の傷は綺麗に治っている。

「凄いね。これ」

 感心するとメリッサちゃんも嬉しそうに頷く。

「けがが治ってよかったです。ローラお姉ちゃんはホントすごいのですよ!」


 なんだかんだで、やっぱりお姉ちゃんの事が好きなんだろう。

 もの凄いいい顔で自分の事のように喜ぶメリッサちゃんは可愛い。

 だから俺も笑顔で頷く。


「そうだね!」

 それから、メリッサちゃんは思い出したように右手で作ったこぶしを左手に打ち付けた。

「そうです! ローラお姉ちゃんの“ちゆ”でリアムお姉ちゃんも元気になりましたです!」

「リアム?」

「リョーヘイが助けたお姉ちゃんです! あれ? 名前、知らなかったですか?」

「あ、ああ。そう云えば、そんな名前だったね」


 戦奴であるリアムと云う少女を引き取ったのは良いのだが、バロネットリーダーのお兄さんに家まで運んでもらった時には、また気絶してしまっていた。

 それで彼女はずっと眠ったままだった筈だ。


 今、目が醒めているのだろうか?

 ピート・マックラガンと云う大柄な騎士は『彼女については彼女自身から聞くと良い』と言って、兵を引き連れて去った。

 因みにレヴァの火炎弾が跳び込んだ時に、あのクソガキは気絶していた。

 俺に叩き起こされてようやく我に返っていたが、哀れ過ぎる姿だった。

 ついでにヒゲは大怪我で引っ繰り返ったまま起き上がって来られず、そのまま竜甲兵を運んで来た荷車で運ばれていった。


 どっちも“ザマ-見やがれ”だ!


 その後、リアムが目覚めるのを待つ間に俺もお姉ちゃんからの治癒魔法を受けていたのだが、ぶん殴られて今に至る。

 どうやら一晩眠ってしまった様だ。


 朝日が昇っている。


「リアムはいつ起きたの?」

「昨日の夜です。リョーヘイが眠ってる間に目が醒めました。でも……」

「でも?」

「お姉ちゃんが縛っちゃいました」

「え~! またかよ! 縛るの好きだねぇ。団○六かよ!」

「“おにろく”ってなんですか?」

「よい子は知らなくて良い言葉です!」


 失言を無かった事にして飛び起きると、リビングに急ぐ。

 哀れ、簀巻すまきにされたリアムがリビングのすみの絨毯の上に転がっていた。


「おはよう……」

 目が醒めていたリアムに声を掛けると小さな返事が返ってきた。

「おはようございます。あの……、足だけでもほどいて頂けませんでしょうか?

 ずっとこの姿勢ですと、流石に身体が痛くて……」


「あっ! うん! ここの家主、おっかなくてさ。恐かった? ごめんな」

 そう言って縄をほどく。

 足だけでなく全部ほどいた。


 気付くとメリッサちゃんが後でタオルを持って立っている。

 顔を洗う為に用意してくれたようだ。

 礼を言って二人で、表に出る。 朝の空気が爽やかだ。


 井戸水を使って洗顔を済ませると、自然にそろって庭先に置かれた石に腰掛ける。

 丁度三人掛けのベンチのような石は、一人分を空けて良い感じに座れた。


 こうして見るとやっぱり綺麗な子だ。

 メリッサちゃんもローラも、勿論すごく可愛い。


 だけど、この子の場合は“人間離れした美少女”と言っても良いだろうね。

 俺、なんでこんな綺麗な子と二人っきりで向き合えてるんだろう。

 ピートも少しぐらいは事情を話してくれても良かったのに……。


 俺がそんな事を考えていると、リアムは少しの間だけモジモジとしていたが俺の顔を正面から見て、こう言った。


「これから宜しくお願いします。御主人様」


「は?」


「え?」


「いや、今、何て言ったの?」


「あ、あの。 私、何か御気分を害される様な事を言いましたでしょうか?」


 あれ、え~っと。 俺が“御主人様?” それってどこのメイド喫茶?


 しばらく悩んでいたが、ようやく思い出した。

 昨日から色々ありすぎて、すっかり記憶が飛んでいた。

 けど、俺がこの子に“御主人様”と呼ばれる理由は、確かにあったんだ。



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