第35話 信頼されたかな? ②

 あの時、ピート・マックラガンの願いを受け入れて、リアムを引き取った。


 リアムを竜甲に残して奴らの本陣に行くと、ヒゲは完全にぶっ倒れていたけど、デブガキが辛うじて気絶から回復した。


 ヒゲが気絶していたのは、最初の牽制けんせいで打ち込んだ火炎弾が本当にヒゲの左腕を削っていたからだ。


「けけっ! ザマ-だぜ!」


 と言いたいところだけど、腕を一本無くしたのは流石に可哀想に思う。

 でも、ここで甘い顔を見せたらつけ込まれる。そう思ってデブガキに脅しを入れた。


「おい、俺を殺しに掛かっただろう?」

 出来るだけ低い声で静かに喋って、じっとにらみ付ける。


 デブはガタガタと震えてピートを見る。もう一度気絶してもおかしく無い、ってくらい唇が真っ白で、気持ち悪さに拍車がかかる。

 ヤツをかばって俺との間に立とうとする部下なんて、一人もいない。

“かぁーっ! コイツ、本当に人望がぇんだなあ”って、だんだん哀れになってきた。


“こいつも死んだら煉獄れんごく行きかな?”

 そう思っていたら“やっと”という感じで、ピートが間に入ってきた。

 一応、俺とピートの間で話は付いている。


 それでも、自分の命とリアムのこれからが掛かっている事からかピートは、しっかりと演技をして、身体を丸めて少し気弱な声を出して来た。


 その姿を見ると、“似合わねぇ~”と、これまた別の意味で不憫ふびんになる。


「ギルタブリル様。先程、お弟子殿と話をさせて頂きまして……。

 お弟子殿は、今回の件を“戦奴の暴走”である、と納得して下さいました。

 今の彼の言葉は『私の話に嘘がないか』という確認です。

 どうぞ、お弟子殿にお答え下さい。

 そうしなければ……」

 後は言わないでも分かるだろう、とピートは無言で伝える。


 デブは腰を抜かして尻餅をついたままピートを見上げている。

 その下の土は色がひときわ濃くなって、酷い臭いまでしてた。


 あ~、漏らしてるよ。コイツ……。

 ようやく喋れるようになったデブは、頭を地面にすりつけて俺に許しをう。

 良し! 上手くいった。

 じゃあ、こっからはピートの依頼を進めなくっちゃいけない。

 

「なら、あの戦奴はもらうぜ!」


「へっ?」


「なんだ?」

 自分でもビックリするほど横柄な声が出た。


「い、いえ。何でもありません。はい……」

 デブは情けない声の中にも、本当に悔しそうな顔を見せる。

 まあ、あれだけの美少女だもんな。


 ともかく、そうして奴らはリアムの奴隷契約を解除して引き上げ、リアムは俺のものになった。

 魔法契約の解除は目の前で行われ、リアムの左胸が青白く光る。

 レヴァが、リアムとデブガキの間にあった魔力の流れが切れた事を教えてくれたので、間違い無くリアムが自由になった事が分かる。


 次は、俺がリアムを所持する契約の番らしいんだけど、

「俺の契約方法は特殊なんで、人には見られたくないんだ」


 そう言って誤魔化して奴らを追い払った。

 流石に右手も限界だった。

 心の中では、早く姿を消して欲しいって思うだけだった。


 その後はバロネットのお兄さん達の五人だけを残してもらったので、彼らに気絶したリアムを彼らに運んで貰うと、そのまま俺も治療に入った訳だ。


 バロネットチームのリーダーは“ハルミさん”と言うそうで、シーアンでの再会を約束して別れた。

 最初の時みたいに、『縁があれば』という様な、曖昧な話じゃなく。

『必ず、来てくれよ!』と強く念を押されての別れだ。


 今、考えると、今回の闘いで少なくとも一人との信頼関係が作れたのかもしれない。

 いや、好意的に考えたなら、リアムやピートまで入れると三人。

 残り九九七人なら、決して悪いペースじゃないのかも知れないと思う。


 メリッサちゃんやローラも、この中に入れられれば良いのに、と思うと何だか辛い。

 でも、今はその事は考えない様にしよう。

 せっかくふたりを助けられたんだから、それだけでも良いじゃんか!


 さて、それはともかくリアムは何者なんだろうか。

 あと、あの『竜甲』についても知りたい。

 あれこそが、“天使”から与えられた最後の条件に関わるものだと思うんだ。


 気が焦るけど、まずはリアムの事から聞こう。

 ピートに彼女を頼まれたんだ。

“守ってやらなくっちゃいけない”と思う。


 それに戦奴ってやつが、いったい何なのかも知りたかった。



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