第31話 決着


 ジリジリと相手は近付いてくるが、足運びは素人の俺から見ても見事だ。

 中心を狙って広範囲の一撃で決めないと、こっちがヤバイ。

 なんってたって上から押さえつけられたら、逃げ場なんて無いんだからね。

 でも、折れるのは、もう嫌なんだ。


【むう、今のお主に何を言っても無駄よな。それで結局どうしたい?】


「殺さずに動きを止める」


【馬鹿な! あれだけの速さぞ。足を吹き飛ばすなどお主の腕では無理であろう!】


「そりゃ、普通に火炎弾を打っても避けられるだろうな」


【なら、どうする】


「なあ、レヴァ。お前、力を使うほど強くなるって言ったよな?」


【うむ、それが?】


「今、こんなの出来るか?」


 俺の策とも言えない策を聞いて、レヴァは呆れた声を出したが結局は飲んでくれた。


 ありがとな!


【礼を言われる筋合いではない。我の力は、お主のものよ。使いたいように使えば良い】


 そうか、なら頼むぜ!



 さあ、どう跳び込む?

 と、迷っていた時、貴族側から駆け出して来た奴がいる。

 あの一際でかい騎士だ。

 ここに来て助太刀かよ、ひっでぇ~!


 ヤバイ、いくら何でも生身の人間を攻撃できる度胸は俺には無い。

 奴が来る前に片を付けなくちゃならない。


 ままよ、と跳び込んだ。


 最初に牽制けんせいとして軽い一発を撃つ。

 膝を狙う。


 当然避けられる。

 火炎弾は真っ直ぐ後方に流れて、騎士共が集まっていた中で爆発した。

 おまけに炎まで広がって、今や大騒ぎだ!


 偶然だが、ざまーみやがれ! あのヒゲに当たってたら最高だな!

 それに運が良い!


 騒ぎに気付いた竜甲兵が後方を見て、呆けたように動きを止める。

 自分の回避行動が味方に被害を出した事に驚いたんだな。

 今がチャンス!


 突き出されていた右足の側まで跳び込む。

 今、この足が“ぴくり”とでも動けば俺は死ぬ。

 だけど、ここまで来た以上は引く方が危険だ。

 それに、これは勘だが。

 こいつは急に振り向いたんで、今の重心はこの足に乗ってる。

 この足はすぐには動かない。


 妙な確信があった。


 ショートソードの鞘を左手で持って前に出す。

 右手で刀身を引き抜きながら剣に炎を纏わていく。 


 一瞬なんだから持ってくれよ!


 そう思いながら、練習を重ねた居合抜きのイメージで思いっきり振り抜いた。

 炎を纏った剣は、竜甲と呼ばれる巨人の足を膝からぶった切る。

 まるで手応えを感じなかったけど、剣は半分以上食い込んだみたいだ。


 野球でホームランを打つと、全く手応えを感じないって聞くけど、それと同じようなもんかな?


 重心の乗った右足から切り離された竜甲兵は、そのまま正面に倒れてくる。

 ストーンと云う感じで、呆れる程なめらかに切り口の上から胴体が滑り落ちた。

 俺は左側に横っ飛びに飛んで転がり、それを避ける。


 ズズーンと響く轟音! そして土煙……。


 バロネット達の間から、凄い歓声が上がった。

 あのリーダーのお兄さんが、小さい動作でたいまつを掲げて喜んでくれるのもよく見える。

 思わず、左手の親指を立てたハンズアップで応えると、あっちもウインクを返してくれた。


 竜甲兵はうつぶせのまま、動かない。


 右手がないんで、あの落下スピードじゃあ、きちんとバランスが取れなかったんだろう。

 そこから受け身も取れずに地面に叩き付けられたんだ。

 中の人間も無事じゃ済まないって事ぐらい、俺にも分かる。


 気絶ぐらいで済んで、死んでなけりゃ良いんだけど……。


 とにかく一段落だと、ホッとする。

 その途端に右手に鋭い痛みが走った。


 火傷だ! 結構酷い……。

 戦ってる時は興奮して気付かなかった。

 脳内麻薬ドーパミンだかアドレナリンだかって奴かな。


 レヴァの火炎弾は、一体何千度有るんだろうか。

 そんな危険なモノを、ごく一部とはいっても、放出するんじゃなく自分の腕のすぐ先で物体にぶつけたんだ。

 そりゃ、反射熱も返って来るってもんだ。

 でも、剣に纏わせて切らなかったら、あの爆発に巻き込まれて、間違い無くこっちまでお陀仏だったろう。

 俺の頭では結局、これしか思い付かなかったんだ。


 真っ赤に焼けた皮膚は火ぶくれが裂けて、じゅくじゅくとした体液と、それに薄められた血が一緒になって、ズルリと流れ出している。

 纏わせた熱は剣の握り部分にまで伝わって、手に持った剣を手放せば手の平の皮まで剥がれそうだ。


 糞! 痛ぇ!


 でも、まだダメだ。まだ弱みを見せちゃいけない。

 そう、目の前には今、あの大柄の騎士が立っているんだから……。

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