第23話 交渉②
馬に乗ったまま、見下ろすように話しかけてくる奴はホントにガキだった。
歳は俺と同じくらいだから「ガキ」って言葉は使いたくないけど、その言葉が一番ぴったりだ。
何って言うんだろうか、マンガで見る“貴族のボンボン”を実物で見たって感じだね。
目付きの悪いニキビ面のデブってだけなら、実際は良い奴だって幾らでもいる。
昔の友達にもいた。
けど同じような顔立ちでも、こいつはなんか違う。
俺が一番嫌いなタイプの顔だ。けど、あのイジメをしていた連中とも違う。
なんって言えばいいんだろう。
この『暗い目』は、どこかで見たことがあるんだが、どうにも思い出せない。
だが、こういう奴が一番嫌いなのは間違い無い。
話してるだけで、むかつく。
まあ、この中途半端な感じからすれば、どうせ“あいつ”と同じ部類だろう。
あいつの家も結構な小金持ちだった。
でも、本物の大企業の息子なら、名門私立にでも行ってるはずだ。
早い話が、中途半端な奴だった。
目の前のこいつの臭いは違うが、同類だろうな。
でもなぁ、この世界と元の世界を同じに見ちゃいけない。
それにしても、いくら煉獄行きを避ける為とはいっても、こんな奴とまで仲良くならなくちゃならないんだろうか。
『千人に惜しまれる死』ってハードルが、随分と高くなった気がする。
「ほう、この丘はリバーワイズ卿の私領であったか」
蛇のような細い目を演技じみて流すようにして、周りの部下達を見渡す。
金髪碧眼でもここまで不細工になれるのか、という見本が目の前に居た。
デブガキの言葉に、更に若い従者が恭しく頭を下げる。
「はっ、ギルタブリル様。
今、地図を確認した処、どうやら間違い無いようです」
おいおい、お前等の下っ端だって、ここにリバーワイズさんがいる事は知ってた素振りだったぜ。
嘘も程ほどにしろよ、とは言わない。
穏便に済ませたいんだ。
続いて、もうひとりの兜を脱いだ男が、棒読みで言い訳じみた事を言う。
いかにも『剣士』という感じの口ひげのある中年男だが、やっぱり品性って奴が感じられない。
けど、一応に引く素振りを見せてくれた。
「この辺りの丘は皆、似かよっていますからな。
道を一本誤って入り込んでしまったのでしょう」
お、どうやら、上手くまとまりそうな気配だ。
メリッサちゃんのお父さん。
つまりリバーワイズさんは、この辺りではかなり力がある存在のようだ。
お陰で上手く行った。
丸く収まりそうだ、とホッとしかけたんだが、すぐに事はそう簡単に済みそうもない事が分かる。
レヴァが話しかけて来たのだ。
【ふ~む。そこの小僧だが、リバーワイズとか言う男に相当な恨みが有るようだな】
おい、どういう事だよ! レヴァ?
【奴からは、かなりの負の気配を感じる。
恐らくだが、そのリバーワイズなる者が今は留守である事を知って、わざわざここにやって来たのだろうよ。
保護者のいない奴隷なら殺しても事故で済む、と見たのだろうな】
げっ、そんなに危ない処だったのか!
そう、今、俺はそのリバーワイズさんに頼まれて奴隷ふたりを管理している、という事にしたのだ。
それで上手く行きそうだったのだが、失敗したこいつらはどうにも腹の虫が治まらない様だ。
レヴァの話では、“俺を殺そうか”とも思った様だが、リバーワイズさんはかなりの腕を持つ魔法使いらしく、その弟子ともなれば、うかつな事もできない、という訳らしい。
空気が苛立っているのが分かる。
レヴァの言葉は全て相手の気配から読み取った憶測だが、どうもハズレてもいない、と俺も思えた。
連中はひそひそと話をしていたが、中年騎士がこっちを向くと、いきなりヤバイ事を言って来る。
「卿のお弟子殿という事だが、我々はこの代官地の安全を守る義務がある。
何か、証拠となるモノをお持ちかな?」
おい、おい、そんなモノが必要だなんて聞いてないぞ。
大体、そんな凄い魔術師の家に忍び込んで嘘を言う奴が居る訳無いだろ!
あ、俺か!
いや、そうじゃないだろ!
今はこいつらの狙いは何かを考えなくっちゃならない。
だが、悩む必要は無かった。
「失礼だが本物かどうか、試させてもらいたい。
なに、本物のお弟子殿なら、特に問題のある“試し”でもありませんよ」
言葉は丁寧だが、そこには確かに殺気が隠っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます