第15話 果物とメリッサ③


 困った。


 やっぱり言葉が通じない。

 どうにかこうにかして、ようやく名前だけは互いに理解し合える様になったけど、それだけ。


 いや、他にも少し分かった事もある。

 例えば、この子が使える魔法が『氷の魔法』だという事。


 これは言葉が通じたから分かったんじゃなく、メリッサちゃんが登っていた岩には溶けかけだけど氷の階段が残っていたので、そう考えた。

 でも多分間違ってはいないと思う。


 あっ、“メリッサ”ってのがこの子の名前らしい。

 何度も自分を指して『メリッサ』って言ったからそこは分かった。


 同じ方法で俺の名前も覚えてくれた。

 でも、それ以外は

『リョーヘイ、#$%&‘(|~=~)』

 と、まあこんな感じだ。


 困った。


 だが、助けは意外な所にいた。

【なんだ、言葉が通じぬのか?】


 あっ! そういえばレヴァ! お前、なんで俺の言葉が分かる?


【お主の言葉など知らぬわ。 我らは意識をそのまま交換しておるのよ】


 じゃあ、この世界の言葉は?


【それは当然、知っておる】


 じゃあ、少しぐらい通訳してくれよ!


【馬鹿馬鹿しい、面倒だ!】


 あれ? ふ~ん、そう。 そう言う態度とるのね。

 じゃあ、話し合いしようか? 

「き~、」


【わ、分かった! 分かったから“それ”は止めろ! それは本当に苦しいのだ!

 それと、お主の言葉を相手に伝える事は出来ん。 そこは自分で学べよ!】


 それで充分だよ。 聞き分けが良い奴は好きだぜ!


【いつか、力を付けるまでの辛抱よなぁ……】



 あれ、こいつ黄昏たそがれてる。

 なんか、ちょっと悪い事をした気分だ。

 ごめん。と伝わらないように感謝した。

 でもさ、今はお前を押さえ込まないといけないんだよ。


 許せよな。



“一所懸命生きなさい。 人との繋がりを大切にして!”


 天使の声に従うなら、メリッサちゃんと出会えたのは幸運なんだろうね。

 この子に着いていけば、人里に出られる事になる。


 という訳で、短い間だったけど、お世話になった洞窟と中の遺体にお礼をしてショートソードをベルトに紐で吊す。

 最後にリュックに食糧と塩、その他の道具を詰めて準備完了だ。


 メリッサちゃんは丘の向こうから来たらしいので、案内して貰う事にした。

 命の恩人という事で、彼女は随分と俺に懐いてくれる。

 妹がいたらこんな感じだったのかな、と思う。


 いや、家に妹が居たとしても、他の家族と一緒に俺なんか無視していただろうな。


 なんだか、少し寂しい。


 ふと気付くと、先を歩いていたメリッサちゃんが戻ってきて、俺の手をしっかりと握る。

「どうしたの? 大丈夫だよ。迷子になんかならないから」

 そう言って笑ったんだけどメリッサちゃんは妙な顔をして、俺を見ている。

 それから、ポケットからイチジクを取り出して差し出して来た。


「&K~&$>?」


 何て言ってるんだろう?


「別にお腹は空いてないよ?」

 取り敢えずそう答えたが、メリッサちゃんの表情は暗いままだ。

 さっきまで炎のように明るかった紅い瞳が、今は少しくすんで見える。


 どうしよう、と困った。

 その時、レヴァの声が聞こえる。


【どうして、お主は泣いているのか? と聞いておるぞ】


 はっ、っとして顔を拭う。

 気付いて無かった……。


 家族の事を思い出した時から、俺はずっと泣いていたんだ。

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