第13話 果物とメリッサ①
岩塩ってホントにあるんだ!
いや、驚いたね。
これで肉が美味くなる。今日は良い日だ!
南へ向かって丘の麓まで降りると、妙な岩場があった。
調べてみたら、これがなんと塩! 実にラッキーだ。
前ほどには魔獣が怖くなくなって、自由に動けるようになると色々とはかどる。
まず、あの角のある兎の肉に不自由しなくなった。
それから木の実。 イチジク、ビワ、アケビ、そしてなんとオレンジまで結構豊富にある。
おまけに南に下ると少しだけどブドウまであった。
ただブドウは、野生のものだと、あまり美味しくないね。
棒を立てておくとツルを巻きそうな感じがしたので、試しに立てておこうと思う。
夏休みのアサガオの観察を思い出した。
上手く育ちますように、なんて考えながらビワを取りに山に戻る。
後は、米が食いたいが、流石にこればっかりは無理だろうね。
パンとは言わないけど、イモぐらいは欲しい。
炭水化物に飢えてるなぁ。
さて、林にやって来た。
ここは狼が良く出る。
でも、さっき言った通り前ほど恐くはなくなった。
レヴァを呼び出さなくても、先に相手を見つけさえすれば、確実に倒せるようになったからね。
ちょこっと力を入れるだけで炎はぽんぽん出る。
いや流石にレヴァ無しで、あの“ドゴーン”は無理よ。
でもね、あんな隕石の落下みたいな力、何に使うんよ!
レヴァは“我は、もっと巨大にならねば!”とか言ってるけど。
アホか!
世の中にはね、『過ぎたるは及ばざるがごとし』って名言があるんだよ。
今度あいつとは、じっくり話し合う必要があるね。
『禁!』ってね(笑)
なんて考えながら、目的の雑木林まで来たんだけど……。
あれ、どうしよう?
川沿いのこの林にはビワの木が多い場所と、イチジクの木がぽつりぽつりと立っている場所がある。
あと、その二つが混じり合ってる所。
不思議な事にそれぞれが別々に生えてるところより、混じり合ってるとこの方が木の実も大きいし、味も良い。
だけど、樹木が混じり合うって事は早い話が、文字通りの雑木林なので、前が見えにくいんだよね。
ビワなんて特に葉が凄く密集してるからから、ものすごく周りが見えにくいんだ。
こういう所で狼に囲まれるのは嫌だ。
いや、もう喰われて死ぬことはないと思うよ。
でも、いきなり足でもガブリとやられたら、と思うとやっぱり怖い。
大怪我でもしたら、結局死ぬのに変わりはないんだからね。
そうでなくても囲まれたら、あちこちに火を投げつけなくちゃいけない。
この二,三日で気付いたんだけど、確かに生木は燃えにくい。
でも流石にあるラインを超えるとヤバイ。
生の木でも火力が過ぎればちゃんと燃える。
木によっては油でも含んでるのか、ホントに良く燃えるんだ。
つまり山火事にでもなったら、俺、生きていけなくなっちゃうだろ。
食べ物が無くなるのはまずいんだよ。
だから、ここでは、さっさと実を取ってさっさと逃げる事にしてるんだ。
でもね、あれを見たら、いくらやばくても逃げるのはちょっと無理っぽいんだよね。
だって女の子だよ。
それもすっごく小さな。十才にはなってないんじゃないかなぁ?
とにかく、その子は今、少し開けた野原で狼に囲まれてる。
狼は全部で十一頭。
いや、元は十二頭いたのだろうが、一頭は既に死んでいる。
あの子が倒したとすれば大したものだ!
それにどうやったのか、彼女は二メートル程の岩場の上に居るため、狼たちは一気に襲うことは出来ないようだ。
女の子は身長ほどもある一メートルとちょっとの杖を握りしめて、前後左右にくるくると回っている。
回る度に、大きな帽子の横から流れ出る薄いピンクに銀の混じったような不思議な色のツインテールも一緒になって、くるくると回る。
あと、大きな尻尾もくるくる回る。
って、尻尾? あの子、狐かな? 流石は異世界だ。
ほのかに紅い瞳に涙を浮かべて今にも泣き出しそうだけど、それでも狼から目を離さずに、いつでも戦えるように杖を構えてる。
あの杖が彼女の武器なんだろうね。
服装も何だかオンラインゲームに出て来る僧侶みたいだ。
いや、あの緑の帽子だと、どっちかと言えば魔法使いかな?
とにかく、どうやらあの子は限界のようだ。
膝が笑って今にも座り込みそうなのは、怖いからじゃなく体力が尽きかけているんだろう。
狼はその隙を見逃さなかった。
一頭が彼女の死角を付いて大きく跳んだ。
やばい、気付いてない!
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