第12話 ローラの独り言


「ローラ、メリッサを外に出すんじゃないぞ」

 いつもと同じ言葉を残して出て行ったけど、自分の方こそ気を付けてよね。

 父さん今回の“取引”では、ものすごくピリピリしてる。

 そんなに危ないなら、暫くは大人しくしていようよ。

 たくわえだって、まるで無い訳じゃ無いんだし……


 私が代理で行っても良い、って言うんだけど妙なところで頑固だからなぁ。

 歳も考えて行動してよね!

 まあ、確かに今の時期、あたしが外を一人で動き回るのがヤバすぎるのは分かる。

 だからやっぱりお父さんが正しいんだけど、いつまで経っても一人で取引が出来る立場になれないのはやっぱり悔しいよ。

 

 それに5日前に丘の向こうから響いてきた音は普通じゃなかった。

 ものすごい爆発音。おまけに翌日まで同じ音がしたんだもの、ホント恐かったよ。

 あれも、気に掛かるんだ。


 領境りょうざかいを超えた侯爵軍だけど、ベルン要塞からの追撃を警戒してるから、結局は領境を行ったり来たりしてるだけの筈だ。

 何より竜甲兵団や魔術師隊が移動する程の大軍なら、情報が入って来ないのはおかしい。

 先週出会ったキャラバンもそんな話はしてなかった。

 もしかして新しい魔獣が現れたとか?


 まさかね……。


 何が起きているのか知りたいのは私も同じだよ、父さん。

 丘の向こうには一角兎のジャッカとガルム狼ぐらいしかいなかった筈。

 他に大物が居るにしてもブラウンベアーが精々でしょうし……。


 とにかく、あんな大きな音を立てる魔獣なんて知らない。


 お父さんだけでも、町に引き上げた方が良いと思うんだけどなぁ。

 今のとこ、あの町まで侯爵軍が来るとは思えないから、安全な事には間違い無いと思うんだよ。


 父さんは、万一を考えて家族みんなで行動するのが良いと言う。

 でも、このままじゃ、お父さんまで酷い目に会っちゃうかもしれないんだよ。

 王宮の権威も段々と落ちてるんだからさ……。


 それにしても、本当に戦争はいつ終わるんだろうか?

 ここまで土地の力が落ちてるようじゃ、侯爵が辺境から王国内に向けて軍を動かすのも仕方ない。

 この内戦を止める力は今の王様には無いもんね。


 普通の人が入れない南の土地は、今でこそ砂漠化したり魔獣の住む森に覆われたりしてるけど、昔は大きな農地も広がっていたらしい。

 この伯爵領だって南半分が使えた頃は豊かだったって聞いてる。

 侯爵領への交易品が今の三倍、四倍の量でも問題は無かったそうだ。

 つまり、戦争の原因が無かった。


 土地に力があって魔獣も増えてなければ、今の戦争も飢えも無い筈なのにね。

 それにあたし達が住む事のできる森だって探せる可能性は増える。

 何より、人間達が少しでも落ち着いてくれたなら、もしかして迫害も収まるかも知れない。

 こんな、こそこそとした暮らしはもう嫌だなぁ……。



 あれ、メリッサがいない?

 ちょ、どこ行っちゃったのよ!

 まさか、丘を越えたんじゃないでしょうね。

 南側は果実も多いから行きたがるのは分かるけど、魔獣の巣なのよ!


 あの子、自分の防御魔法に自信持ち過ぎなのよ。


 一回二回は使えても、群に囲まれたら逃げ切れない。

 もう!

 お父さんが甘い顔して褒めまくるから、自分の限界が分かってないのよ!


 どうしよう。


 ううん、まだ丘を越えて南に行ったと決まった訳じゃあない。

 とにかく近くから捜さなくっちゃ。


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