第9話 狩り①


 死体の側にリュックがひとつあった。

 それから、右手に握られたままの剣。

 刃渡りは四十センチぐらいだろうか? あまり錆びてないと思うんだが、たいまつの明かり程度ではよく分からない。


 ゲームだと、これぐらいの長さの剣をショートソードって言うんだよな。

 普通の剣はもう少し長かったと思う。

 あんまりゲームは好きじゃなかったけど、でも時間つぶしに少しやったから一応は覚えてる。

 普通の鉄の剣だろうか。

 確か『鉄の剣』の上のクラスが『はがねの剣』だ。


 鋼の剣なんてものを扱えるレベルなら、ゲームだとあの程度の兎はやっつけられると思う。

 狼はどうだろうか?

 引きこもってる間、ネットで調べて「居合抜き」とか「八相の構え」も練習した事が有る。

 結局、ケンカに負けたくないって気持ちは無くして無かったんだな。

 自己流だけど練習だけはしたんだから、上手くやれば大丈夫とは思うんだけど……。


 でも片手剣は知らないんだよなぁ。どう使えば良いんだろう?


 う~ん。上手く使えても、狼が四頭もいたら、やっぱり無理かな?

 ゲームと現実は違う。

 マンガや本と現実が混じった事で酷い失敗をしたんだ。

 あの時は引きこもるくらいで済んだけど、今度は命が掛かってる。


 いい加減な考え方をするのはよそうと思う。


 まあ、真面目に考えても、俺にはこれが『鉄』か『鋼』かなんて分かるはずもない。

 大体、鉄と鋼って何が違うんだろう?

 日本刀は『鋼』って聞いた事があるなぁ。


 それはどうでも良いか……。

 とにかく、これを使わせてもらう事にする。


 男性の死体にしっかりお辞儀をして、「使わせて下さい」と断って入り口へと向かった。


 もう、あの死体を怖いとは思わなくなっていた。

 いつか、この世界の人と出会って、きちんと生活出来る様になったら、ここに戻ってこよう。

 そして、墓を作ってあげよう。



 入り口まで出て来る。

 やっとリュックを開けてみる事が出来る。

 ちょっと楽しみだ。


 金具やベルトは使われていないもので、かぶせたふたの部分をひもで留めてある。

 まず、ナイフが一本。

 ミイラが出来るほどだから洞窟内は湿気が少なかったのだろう。

 ほとんどびていない綺麗なままだ。

 次に紙に包まれた何かが出てきたが、これはボロボロになって崩れ落ちた。

 食糧だったのかな?

 

 それからビンが二つ。

 あまり出来は良くない。

 なんというか、古くさい感じだし、ガラス製のふたも紙と布で留められている。

 中身は薄い水色とオレンジ色の液体。

 今は開けない方が良いだろう。

 どうせ中身は理解できないし、万一にも毒だったりしたら大変だ。


 最後に四冊の本と二冊のノートを見つけた。


「やった!」

 少しでもこの世界について知る事が出来るかもしれない!


 が、開いてみて分かった。

 俺は相変わらず馬鹿でマンガやゲームと現実の区別が付いていない。


『&%###I=¥‘!<+`*`&$Z/・・・・・・』


 何が何だかさっぱり分からない。

 ああ、そう言えば、“声”はこう言ってたっけ。


『言葉や文字が違うことも含めれば、生きることは更に難しいでしょう』


 がっくりとうなだれる。

 そう言えば『命の価値が安い』とも言ってたね。

 本当に人に会えるんだろうか?

 いや、会った途端に殺されたり、とか?

 怖っ!


 目が回ってきた。

 ショックが大きかったのかな?

 ……違うだろ!

 単に腹が減ってるんだよ!


 兎を狩りに行こう。


 崖を下って、それから沢に降り、いよいよ森に入る。

 少しだけ錆びたショートソードを抜いたまま、静かに進んでいった。


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