第7話 洞窟の奥①

『試練を成し遂げる為に必要だから、ひとつは中に置いておく』

 天使の“声”はそう言っていた。


 つまり、無闇に炎を使わなければ良いという事なのだろう。

『呑のみ込まれる』

 ってのは、あの力に溺れて自分勝手に振る舞う事だと思う。


 幾ら力があっても人に見捨てられたら終わりだ。

 “声”はそう教えてくれたんだと思う。


 俺は、誰からも必要とされなくて、死んでも誰にも悲しいと思ってもらえなかった。

 だから、煉獄れんごくなんて空間に閉じ込められるところだった。


 忘れちゃいけない……。


 木の枝を集めて火を灯す。

 ほんの小さな火を指先に灯すイメージで火はすぐに付いた。

 指先の火は熱くないのに、枯れ枝に燃え移るとちゃんと暖かい。


 不思議だ。


 薪を沢山集めてきたので、しばらくは大丈夫だろう。

 あれ程フラフラだったのに急に元気になった。

 火があるって考えただけで、生きていけるかもしれないと思う様になった。


 あの獣を倒せる程の大きな火となると、例の【炎】のイメージを呼び出さなくてはならないようだが、あいつも協力を嫌がる事は無いだろう。

 明日からは、腹いっぱい食べられるかもしれない。


 でもなぁ、毛皮をどうやって剥はごうか。

 岩を叩き付けると石器が出来るって社会科の授業で習った事を思い出して試してみた。

 確かにそれっぽいのは出来たんだけど……。


 上手く使えるかどうか自信が無い。


 なんだか自分の手まで切ってしまいそうだ。

 “大怪我をしたら死ぬ”

 今更だけど、そんな事に気付いて怖くなる。

 小さな怪我だってどうなるか分からない。


 傷口からバイ菌が入って腫れ上がって、そこから腐って……。


 ここには病院どころか薬すら無いんだから、行動ひとつひとつに気を付けないといけない。

 火は怪我を治してはくれない。


 ビクビクしている自分に気付いて嫌になる。

 全然変わっていない。


 少しでも動かなくっちゃいけない。

 本格的に動くのは明日からにしても、何かしたいね。


 ふと気付いたんだけど、この洞窟、奥はどうなってるんだろう。

 光が入る範囲までしか入った事ないんだよなぁ。

 明日はあの兎を狩るんだから早く眠った方が良いんだろうけど、なかなか寝付けない。

 いろいろあって興奮してるのと、やっぱりお腹がすいてるからだろうね。

 少しだけ奥をのぞいて見て、さっぱりしてから眠ろうか、と思う。


 薪を束ねてたいまつ代わりにする。

 燃え尽きた時のために予備も少し持とう。


 足下を照らして、頭に気を付けて、上へ下へと灯りを振りながら奥へ進む。


 行き止まりだろうか、あまり深くないんだな。

 でも結構広い。


 灯りを振って全体が見えるように、照らしていく。


「!」


 声も出せずに来た道を走って戻る。


 あれは、あれは……。


 間違い無い……、あれは死体だ。

 死んだ人間が干ひからびて、それで……、ミイラになってた。


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