第11話 溺愛

翌日。


六花はすっかり元気になっていたのでほっとした。


「あ、六花!聞きそびれてた事があるんだけど」


俺が差し出したイチゴをぱくっと口に入れると「あんえふか?」と理解し辛い返事を返した。

「六花は巫覡のお仕事あるだろ?それってこの土地から離れられず、全て六花一人でやらなきゃいけないって事?」


「正確には、この地を離れる事がある場合は申請を出すんです。そうする事で申請した期間はもう一人の巫覡がこの地を守ってくれます。」

「もう一人の巫覡…」


「基本は分担作業なんで、夏月大社から遠い場所はその方が任されてますね。近い処は全部私なので…もう一人巫覡増やして…」


「六花六花!顔が虚無になってるぞ」


「今は月巴が居るから助かってますけど民間協力者みたいな立ち位置ですからね」

「それは別にいいさ。早く強くなって、分担して動ける様になりたい」


「まずは命を大事に!ですよ!私、まだ月巴と結婚してませんからね?」

「…ああ、そういえばうちの姉と母と六花のお母さんがグルチャしてるらしいんだけど、『あの二人なら子供出来そう、避妊しっかりしろ』だって…」


六花がお腹抱えて笑ってる。

そんなツボだったか?

「うんうん、頑張れば何とか出来そうだよね!」

性欲の権化みたいなイメージなの俺!?


「ま、まぁそれはおいおい考えるとして…お出掛けとか旅行出来ればいいなぁって。」

「お出掛け!旅行!行きたーい!!!」


「ちなみに六花の一番遠出した処ってどこ?」

「先日の御社事件で向こうの巫覡が留守だったので大和三木に行ったのが最長かな?」

急行で1時間圏内かー…せめてもう少し遠くでもいいなぁ…


「大阪…オタストとかみたいだろ?遠くて海とかかなぁ…?俺泳がないけど。」

「月巴泳げないんですか?」

「うん、泳げないし陸上生物が泳ぐ必要ないと思ってる!…六花は?」

「旦那様に合わせて泳げない事にしておきます!」


「六花の水着姿みたい気もするが、ナンパとか死ぬほど来そうだしなー…」

「絶対そんなに来ないですよー!月巴は私を美化しすぎです!」

「いや、千歩譲っても北半球で一番可愛いから、心配するに越したこにゅう」

頬擦りされた。


「ほんとなのに…」

「真面目に言ってるとこが嬉しいです!」


「六花が行きたいとこ考えといて。俺は幾らでも合わせられるし」

「はーい♬」

イチゴを差し出すとパクッと食べる。

ビタミン補給計画は順調!

あ、イチゴが来た。


ぱくっ!

あ、結構甘くて当たりだったな!

お返しにイチゴ食べさせる。

さて、今日はどうしようかな?

昨日凹んでたから、今日もウチでまったりしようかな?


「六花お腹空いてる?」

「いえ、そんなに空いてないですよー!」

「なら、今日も家でのんびりするぞ!次の土曜日まで保つ様にスキンシップ!」

「はーい!」


人を台無しにするソファを2つ繋げて二人で横になる。

たまにキスを挟みつつ、おでこをくっつけたり、優しく触れてみたり、態度で愛を表現してみる。


程なくして六花が寝息を立て始めたので、顔を見ながら髪を撫でる。

幸せというのはこういう事か?と納得する。

背中に回された六花の右手が心地よい。


「…ねむ」


✱✱✱✱✱✱


…ん?

どこだここ?

病院のベッド?

俺の目線高くない?


…誰か寝てる!

立ち上がると…六花が寝ている、なんか…病気?


六花はよく寝ている様で顔色は良さそうに見える。

頭を撫でて体温を確かめる。


コンコン!

部屋のドアがなるから返事をする。


「…!」


あれ?声が出ない。

こちらからドアを開けてみる…袖が黒い…俺、黒のジャケット着てるのかな?

スライドドアから現れたのは看護師さん…多いな!三人も来た!


六花を起こして何かを見せてる。

「月ー!月ー!」

六花が母さんみたいな呼び方を!なんかいい!


近づいてみると…赤ちゃんだ。

「月!今日からパパだよー!目がパパそっくりー!口は私似かなー?」


まじまじと見る…六花も俺も少し泣いてる。


「…!(頑張ってくれて有り難う!)」


相変わらず声が出ないが伝わってるみたいだ。

「パパほらまた泣くー!私も泣いてるけどー!」

「月巴ちゃん六花さん、おめでとう!」

「ツッキーやったじゃん!」

ん?

げ!横の看護師、海波と安波じゃん!

看護師になったのかー


そっちも驚きだが、改めて近づいて赤ちゃんを見る。

六花が赤ちゃんにキスしてる。

「ママだよー!ほら、パパも!」

ベッドに乗り出して赤ちゃんにキスすると六花も俺の頬にキスしてきた。


「夢の三人家族ー!」


六花の顔が本当に幸せそうで、胸が暖かくなる。



六花の寝顔を見ながら寝てたから、頭ガクンッとなって目が冷めた。


「ふふっ」


見ると六花が起きてた。

「起きてたのか?」

「ふっふっふっ…寝顔を見られてたので寝顔を見返してみた!」

謎のドヤ顔と横ピースはやめなさい。


「いい夢見てたから今、変な顔してたかもしれない」

「なになにー?どんな夢ー?私を縛ったりやらしい事する夢?」

「俺を性欲の塊みたいな方向性に位置づけるのやめてー!…いや、六花が赤ちゃん生む夢で…」

「え!え?そこ詳しく!」


食いつくなーわかるけど!

忘れない内に内容を六花に話した。

「おおおおおー!これは赤ちゃん出来るフラグ!!!」

「俺も産んでほしいけど…どうやったら赤ちゃん出来るんだ…?」


「キャベツ畑?」

「欧米か!」

「コウノトリ」

「北欧か!」

「努力?」

「それは頑張らせていただきます!」

六花がめっちゃ笑ってる!


「…早く家族ほしいねー」

「そうだな」

とりあえずモロッコは行かない方向性で考えたい!




「こまこまーお疲れ様ー!」

「小町、今日もお疲れ様!」

「おつおつー!☆今日は久し振りにイケメンにナンパされたわー!」


「おおお、流石お姉ちゃん!」

「凄いな、どんな奴だったの?」

「普通の外人のイケメンよ?」

イケメン外人が普通とか、過去どんなレベルで口説かれてきたんだ?


「めっちゃ情熱的に口説かれたけど、爪が汚かったのとチラ見した財布の中がポイントカード多かったから減点かなー?」


貰ったであろう電話番号を数回ビリビリと破り捨てた。

ナンパされてる時点で勝組であろうに勿体無い…


「お姉ちゃん!今彼氏いないし、人間中身だし、1回位デートしても良かったんじゃない?」

「うーん、爪汚くてポイントカード多い男性のデートって考えると余りときめくものがなさそうなのよねー!まだお金なくても清潔感がある人の方が楽しいデートになりそうなのよねー!」


あーなんか分かる。

「それにほら?伸びた不衛生な爪で内蔵触られたくな」

「ストーップストップ!」

「ん?」

「あなたの妹さん、下ネタ苦手だからー!」

顔すげー赤い!


「我が妹はピュアに育ったからなぁ…交際経験ゼロだからねー!もしかしたら大半私が追っ払ったのが原因かもだけど!えへっ☆」

「そこは小町に感謝する!」

「テクニック上げたいならいつでも言ってね?♪」

「シャーーー!」

六花ネコが小町に威嚇してる!


「さてさて、ご飯どうしよう?」

「六花お腹の減りはどう?」

「がっつりー」

「がっつり系でお願いします!」

「おっけー!じゃあカオマンガイにするねー!」


イメージが湧いてこないから調べてみたらタイの蒸し鶏のご飯らしい。


「おいし!」

「お姉ちゃんの料理、外れたことないもんねー!」


「このクオリティに近いものが出せて、六花の体調管理が出来たらベストだな…16歳から雇ってもらえそう…?」

「大丈夫だよー!ちょっと違法な手続きしてでもねじ込むからー!」

「裏口入学感!!!」


「ごめんねー、この子が作る側より食べる側に育っちゃったから。」

「えへん!」

六花、ここ威張るとこじゃないよ?


「そういえば六花が何か作ってるとこ見たことない…」

「たまにはやる気出すらしいんだけど、御神刀使ってキャベツをシンクごと斬った時は流石にみっちり怒ったわー」

「聞いた聞いた!小町が引くぐらい怖かったってトラウマになってるみたいだなー…あ、六花が震えてる」


「一体型シンク丸ごと交換+地下の結界張り直しだからね?その為に営業時間外に業者さんに搬入してもらってなんだかんだで百万超えたからねー」


「うん、六花が怯えすぎて今にも土下座しそうだからそのあたりで許してあげて」

「流石にもう怒ってないよー!ただもう御神刀調理禁止って言ってある!」

「六花も地面に座らないで椅子に座ってー」

震えながら戻ってきた。


「ふふふ普通の包丁を使いせせ千切りキャベツ辺りはマスターししたい所存でありんす…」

「恐怖のあまり噛んでるし、方言おかしいから落ち付いて」



ガタッ

「月巴!池の上!」

「!」

オアシカから出ると犬沢池上空に何か浮いてる!

六花が多重結界を張ると同時に、浮いてる逢禍が回転して何かを雨霰とばかりに飛ばしてくる!


「花鳥風月・六連!」


防御壁を上下三枚自分が張れる1番手前に展開させた。

「…なんでしょうね、あれ…」

「当たったら痛そうだから壁作ったけど、密度が多くて動けねぇ」


「そういえば月巴が技出す時、かっこいいのなんの…なんかすんごいライトノベル書けそう!」

「なんか有難う///」


逢禍から打ち出された何かは棘状のものに見える。

しかも絶え間なく射出されてるので周囲が見る見る内に破壊されていく。


「どうしよ?痛いの覚悟で斬りに行ってみようか?」

「待って、俺が斬る。少しだけ後ろ下がって」


六花を後方に下げて、念の為壁を六花の前にもう一枚貼っておく。

「旦那様の気遣いにきゅんときます!」

「今言われると思ってなかったから気恥ずかしい!」


両手を前にイメージを増幅させる。

蟹行鳥跡かいこうちょうせき!」

結晶が手元から長く長く長く伸び、棒高跳びより長い刀になる。

「ぉおおおおおおおおおおおお!!!」

一歩も動くことなくその場から上空の逢禍を真っ二つに切り裂く!

あ、くっついた。


再生するわ近づけないわで質悪いが、六花だけ技を気に入って拍手をくれてる。

優しいな六花。


あ。

「六花六花!ガラの悪い方の六花って再生不可の技あったっけ?」

「ガラは悪くないですよー!あったと思います!変わりましょうか?」

「お願い!何とかなるかもしれない!」


「はーい!バレット!」


一瞬で姿が銃六花に変わる。

「こんなにグラマラスでセクシーなアタイになんちゅーこと言うんだ?」


「うん、それは後にしてアレを見てー」


「なんか五月蠅いと思ったらあれか。あの技の見せ所じゃね?」

「そうそれ!再生不可の弾って連発出来そうか?」

「国を三つ滅ぼす程度しか撃てねーな。」


「上等!今、色の違う結晶飛ばしたからあれに向かって頼む!」

「オーケー、汚ねぇドット柄に仕上げてやるぜ!」


檻猿籠鳥かんえんろうちょう!」

「喰い千切れェッ!」


数多の再生不能の弾丸が結晶の軌道調整によって逢禍の周辺にばら撒かれる!


弾丸の軌道上に現れた結晶に更に軌道修正され、飛ばされた棘もろとも逢禍を貫く。

貫いた弾丸が更に軌道修正され、全ての弾丸が予測不能な弾道で逢禍を次々と抉っていく。


結晶はやがて逢禍の周辺に球状に展開し内部では弾丸が無限に跳弾、最後の一片まで抉り取った。


「しゃー!上出来上出来!月巴!イエー!」

グータッチ好きな六花!

「有難う、助かったよー!」


「気にすんな、あの程度始末するの、ガキのションベンより早えぇよ」

「言い方ー!俺一応JCだからっ!」

「おー!入学おめでとう!入学祝いは何がいい?アタイで童貞捨てちまうか!」

「ちょいちょいちょい待ってー!!!」


「気にすんなーって!六花も俺も実質同じだから!寧ろ巨乳の方がやり…」

ひゅっ!

元の六花に戻った!

「私の未来の旦那様がイケメンすぎて色んな女から狙われる…」


ハグしながら涙目で言ってるけど、小町と銃六花という身内率の高さが凄い。

兎に角逢禍に手を合わせ、結界を解きオアシカに戻った。


「二人ともおかえりー!大丈夫だった?」

「月巴の貞操がピンチでした」

「どゆこと?」




逢禍の退治も終わったので六花の部屋に戻る。

こういう時ちゃんと待っててくれる小町は優しい。

「思わぬ食後の運動でしたねー!」

「なんか逢禍のパターン変わったよな?前はなんていうか…人の恨みというものが感じられたのに、今は人の魂すら感じられないというか…」


「うん、逢禍を作ってる奴が変わったのかも。以前の奴は月巴が怪我した時のだったし」

「作る奴が特定出来ないのが辛いな。亡くなった人が浮かばれない」

並んでソファーに座ってた六花が太ももに頭を乗せてきた。

「月巴が心優しい人で六花は嬉しいです」


「あ、そういえば夢の中のお母さん六花が月って呼んでた。」

「月の方がいい?」

「…うん。」

「じゃあ、これからそう呼ぶね、月!」

「まだ恥ずかしいけど家族感あっていいな」


六花も太ももに顏うずめたまま足バタバタしてるから照れてるのだと思う。

「名前はコンプレックスというかなんというか…ほら、月と巴って合わせると『肥える』って字になるじゃん?」

「なるほど。でも雪・月・花は美しいものの典型的な名詞ですから。美しく育ってって願ってつけてくれたのだと思いますよ?」

「そうなのかな?そうだといいな。」


「私は月巴って名前好きですよー!」

「オレも六花って名前が一番好きだ」

「いちばーん!」

また足をバタつかせて六花が喜びを表現していた。

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