第10話 最愛
季節はあっというまに過ぎていく。
5月になると暑かったり寒かったり汗ばんだりの目まぐるしい天候だ。
今日は少し気温が高かったので夏服で登校してみた。
この中途半端さが終わると突然夏が来るのだ。
夏…たまには六花と奈良から離れた場所行きたいなぁ…巫覡の仕事の関係で駄目なんだろうなぁ。
今度聞いてみよう。
行けそうならイベントを調べ…
!!!
逢禍!?学校の敷地内に中学生位?の人の姿だけど…今にも逢禍になりそうだ!
周囲を見渡し、人がいないタイミングで多重結界を張る。
丁度今は学校の校門を入ったあたり。
瓦礫が飛んできたりとかもなさそうだ。
『ガレキ』
突如校門が瓦礫に変わり宙で浮いてる状態になる。
『ヒサン』
瓦礫が全方位に飛散する!
校舎が破壊され窓ガラスが飛散する。
ウチにもデカイのが何個か飛んできたが指輪の物理防御で耐える。
気になるのは…逢禍の姿にならない。
目と口が赤い中学生という感じだ。
JRの時の逢禍もこんな感じだったな。
だが見た目で手加減してると死ぬ!
「八咫烏!対!」
八咫烏を目前へ飛ばして、もう1羽は死角から攻撃する!
それを気にせず逢禍は口から赤い爆発物をこちらに発射する。
「花鳥風月!…柱!」
ウチは自分に結界を張れない。
ならば、と相当離れた場所をに花鳥風月を応用した六角柱を周囲に張り巡らせる。
前方で爆発物が命中!
と、背後で音がする!逢禍が回り込んで当たっていた!
八咫烏・対より早く回り込まれた。
あぶねー!
嫌な予感したから背後に張っといて良かった!
『アケロ』
花鳥風月に丸く穴が空いた!
話した言葉が全て具現化されてる!
勢い良く飛ぶ逢禍!
まずい!
物理防御で逢禍の一撃を耐えてもなお後方へ弾け飛ぶ!
奴が上から飛んできた!
空中ならば!
「
相手の技をそのまま返し、この技のダメージも乗せるカウンターだぜ!!
本体を押し返した瞬間。
『イドウ』
目の前に現れた!
逢禍か人間か分からないそれは目が光ってるのではなく、目の奥が赤い空間の様に何処までも広がってる様だった。
口が赤く光る!
「燕雀安知鴻鵠之志哉!《えんじゃくいづくんぞこうこくのこころざしをしらんや》」
八咫烏が逢禍の周囲を球状に囲む。
『イドウ』
瞬時に逢禍は上空に移動する。
が、座標を逢禍に設定している為、同じ速度で周囲を囲んでた八咫烏も移動し、球状になる。
「逃がすか!交差!」
逢禍に向いていた八咫烏が一斉に交差する!
逢禍は細切れになり、八咫烏が更に細かく刻んでいく。
『カイキ』
唐突に元に戻り、ウチの前に立つ!
「くっ…!」
考えろ!次の手を考えろ!
『…マタナ』
ひゅっと逢禍が消える。
5秒位周囲を見渡して、いないのを確認するとコンビニ前の柄の悪い人達みたいな座り方で一息つく。
3文字縛りの言葉を操る逢禍、知能がある、3文字の連発出来る回数…考えたら切りがない。
とりあえず学校…遅刻かな?
多重結界を解いて学校に向かった。
「新しい逢禍ですか?」
放課後、いつもの参道。
六花にお菓子を貰って石段に座りながら話した。
「うん、言葉を喋って3文字以内なら言った事が具現化する様だった。瓦礫・飛散・移動・回帰とか…」
「見たことない逢禍ですね…新しい逢禍の作り手が出たのかもしれませんね…」
「本当に腹が立つな、人の魂で遊んでやがる」
「人の為に真剣に怒れる月巴が大好きですよ!」
「…ありがと」
「月巴にお嫁に貰われたのは私の誇りです」
「まだ貰ってねぇ」
「あれ?二人で婚姻届提出して子供は8人ほしいね!って言ってたのは夢だったのかにゃ?」
「六花、前に熱で
「あ、書き損じがあっても大丈夫な様に婚姻届は束で貰ってますし、鹿鳴の判子とジェクシー特大号も用意してますっ!」
「用意周到過ぎて恐怖感じるわ!」
「ジェクシーのおまけで乙女過ぎるバールのようなものがついてます!」
「犯罪臭のする付録!!!」
ショボーン六花。
「次の誕生日で14だから、後2年。待っててくれ」
ショボーン六花からニコニコ六花になった。
先日の熱の時から更に機嫌が良くなった気がする。何でだ?
「仕事終わったら一緒に帰ろうか」
「うん!」
今日もいい笑顔だ。
先日の六花の熱で得た教訓を活かし、栄養ドリンクと漢方ドリンク、風邪薬、氷枕ノン、坐薬を買って六花の部屋へ持っていく。
少しスカスカだった薬箱が埋まっていく。
ついでに期限切れの薬は処分する。
よし!次の風邪には対処出来そうだ!
「月巴ありがとう…お金まで出してくれて…」
「俺本当に使わないからそこそこあるんだよ。大丈夫!持ち合わせない時は素直に言うし」
「俺キャラ頑張ってますね…かっこいいから好きです!」
「まだ馴染んでないか!頑張ろ!」
「私もそれ程薬使う方じゃないので、体調悪い時は言ってくださいね?」
「その分六花虐めさせてもらってるから大丈夫!」
「ふぉぉおぁああ先日明るい中で下着剥かれた記憶が―――!」
気にしてたのか!叫び声で爆笑した。
「あれは体調悪かったんだし仕方ないだろ?」
「おまけにお姉ちゃんが爆弾発言してたし!」
「してたなー!まぁ、下着取ったから分かってたけど」
「うにょおおあおぉぉぉぉ!!!」
「はいはいおちつけ!そんな細部まで見てないから!」
「もうお嫁に行けない」
「さっきジェクシー持ってきて、行く気満々だったよね?」
ハグしてよしよしする。
あ、そういえば先日ので遊んでみるか。
パクっ
「ひゃぇ!」
耳はやはり弱点だったか。
舌で奥の方まで攻めてみると、本当に弱いのか背中に回した手に力が入り、ゾクゾクとしてる表情がまた
『♪かんさいーでんきほー○○きょーかい!かんさいーでんきほー○○きょーかい!』
関西の人しか分からんやつ――――!!!!
今度小町呼び出しブザー自分で買いにいこ…
「小町お疲れ様ー!」
「こまこまおつしゃまー!」
「あ…ごめんねー邪魔しちゃってー!」
ご慧眼でいらっしゃる!!!
「ナナナンノコトカワカンナイナーボクー」
「いいのいいの!年頃の子は皆する事だからー!」
寛容過ぎる事は逆に相手に恐怖を与える!!!
「今日はご飯どうしよう?持続力がつくメニューと精力がつくメニューと媚薬が入ったメニューと『そうだな、キミにしようか』とあるけどどれにするー?」
「メニューがバグってる!六花に栄養つけたいからスタミナメニューで!」
「あいよ、まっててねー!♪」
横で『キミにしようか』メニュー聞いてシャー!って小町に威嚇する六花。
最近ネコ化進んでない?
「はーいおまたせー!今日は肉汁たっぷりのおろしハンバーグにエビフライとメンチカツセット!ニンジンのグラッセとコーンもたっぷり!」
「いただきまーす!」
「いただきます!」
「あ、六花。耳に歯型ついてるよー?♪」
みるみる真っ赤になる六花。
これは俺も赤くなってるんだろうなぁ…
小町のご飯食べてると土日の感覚があるが、今日は平日。
という事で珍しく六花・小町・ウチの三人で帰ることに。
小町は人を轢き殺す自転車同伴。
「お!おねーちゃん暇なら俺とaso」
スパーン!
スリッパで酔っ払いを秒殺する小町!!!
「ふっふーん!お姉ちゃんのあの技は私で鍛え上げたものなのだ!」
「加害者と被害者だったのなー」
「妹と鍛えた悪を懲らしめるスリッパ!」
「それだと妹も悪に分類されるぞー」
スパーン!!!
「まって?今の誰叩いた?」
「あ、なんかキモかったから反射で…」
赤い目、制服を着た若いシルエット、口から赤い煙のような物を吐いている!
「うおーででででたー!痴漢!」
あんな痴漢いないし、ノールックで逢禍シバいた小町すげーよ!
素早く左足に触れ多重結界を張る。
六花は流石もう武装状態だ。
「六花、さっき言った3文字の奴だ!」
「はい!」
『カイメツ』
な!?
一瞬判断出来なかった!
奴を中心に衝撃波が発生し100m位が一瞬で壊滅し、ウチと六花が吹き飛んだ!
空中に浮かぶ逢禍!
が、流石六花!すぐに飛んで帰ってくる!
「美しく舞え!
『キレナイ』
六花の技が荒々しく逢禍を斬るも逢禍の言葉で無効化されている!
『フキトブ』
「くっ!」
六花があっという間に後方に吹き飛ぶ!
八咫烏を一体飛ばして六花のサポートにし、こっちは!
「燕雀安知鴻鵠之志哉!《えんじゃくいづくんぞこうこくのこころざしをしらんや》」
いきなり飛ばすぜ!
全身を囲んだ八咫烏が逢禍を切り刻んでいく。
『サイセイ』
くっそ!削っても削っても再生する!
その時八咫烏に乗った六花が帰ってきてそのまま突撃する!
「
流石の判断力!再生不能技で抑え込む!
『フッカツ』
マジか!?
「六花!同時にいくぞ!」
「はいっ!」
「列列椿!!」
「
身体を切り裂き、同時に再生不可の攻撃!
『フッカツ』
ずるいなそれ!……ん?
違和感。
何今の?
手を止めるな!
考えろ!
考えろ!
六花が切り刻んだ瞬間!
『フッカツ』
そうか、そういう事か!
八咫烏で逢禍を包囲し
「六花!上だ!上から見下ろせ!」
八咫烏を高く上げるとすぐに気付いた!
「そっちが言葉を使う方だ!!」
「はぁぁぁぁ!!飛花落葉!」
神速で隠れていた逢禍の口を切り裂く。
『インセキ』
その言葉を言い残して口から全身を枯らし消えていく。
まずい…
周囲が燃えるような赤!
頭上を見ると映画でよく見るサイズの隕石がここに向かっている!?
こいつを仕留めればなんとかなるか!?
「
八咫烏が凍結させながら切り裂いていく。
頭部から順に凍らせ、全てを切り裂いた!
隕石は!?
よし!消えてる!
六花が上から降りてくる。
あといつものハグ。
「良く気づきましたねー!」
「今までも喋る奴いたけど、基本口から声出てたんだ。喉中心というか…それが六花に頭切り刻まれても言葉話せるのおかしいって思って。前みたいにニ体かな?って。」
「なる程ー!隕石は流石にヒヤッとしました!」
「さ、戻ろうか!」
「はい!」
逢禍に手を合わせた後、左足のリングを止めて多重結界を解除。
小町が待っててくれた!
「お疲れ様ー!さっきの怖いのはなんとかした?」
「うん!大丈夫!」
「あんなの道端にいたら絶対恐怖よねー!」
真っ先にスリッパ一発入れたのアナタですが!
「月巴ちゃんもお疲れ様ー!あれ?ほっぺ少し血出てるよ?ちゅ――――!」
ほっぺ長い目に吸われた!
「ぅおね―――ちゃ―――ん!!!それは駄目―――!!!」
「あっはっはっ!2番目の女としてツバつけといたわー!☆」
緊迫感も絶望感もこの姉妹の前だと馬鹿らしくなってくる。
本当に素敵な姉妹だな、と改めて思った。
翌日。
土日になったので六花の部屋へ行く準備をする。
風邪ひき後、体力も戻ったようなので一先ず一安心。
つか、結界張って神衣着てもらえば風邪治るのでは?
後で聞いてみよ…
少し早めに家を出て、ドーナツと美味しそうなイチゴを買ってみる。
六花のビタミン不足を疑うウチ。
練乳も欲しいが糖分はドーナツがあるので今回はパス。
オアシカに到ちゃ…うわぁ、引く程の行列!!!
フラペンの新しいフレーバーの時期か。
…あれ?小町がスーツの人と座って喋ってる?打ち合わせとかかな?
今日は裏から入るか…
ペケペケ
小町『本社の人とエリアマネージャーよー!』
まだ何もいってねぇぇぇぇぇぇぇ!
裏から入ってこっそり六花を見てみる…
シャツに下着姿で薄暗い部屋で人を台無しにするソファに座ってぼーっとテレビを見てる。
入って靴脱いでイチゴを冷蔵庫にしまって、横から頭をハグして髪を撫でる。
「どうした?」
頭に手を回してきたから長いキスをする。
「なんかね。月巴がいないと満たされてなくて寂しいの」
ぽろぽろと涙を零した。
「今はいるだろ?よしよし」
「うん…うん…」
「俺も、六花がいないと欠けたままだから。今どきチャットもビデオ通話もあるし、いざとなったらすぐに会いに行けるだろ?」
「ごめんね、面倒くさくて…」
「面白いと思った事はあっても、面倒だと思った事はただの一度もないよ。六花も俺を面倒くさいって思ったりするか?」
首を横に振る六花。
「じゃあ一緒だな。離れて寂しかった分だけ、会えた時に沢山埋めあおう」
「うん…うん…大好き…」
「俺もだよ」
よしよしハグハグして漸く涙が止まった。
好きになってもらったって事は、なんて幸せな事なんだろう。
少しだけ側を離れて、ドーナツを持ってきて口に突っ込んだ。
「新作だって!」
「ふぉいひい」
「牛乳持ってくる。美味しそうなイチゴも買ったからあとで食べような?」
牛乳持ってきて、六花の顏をじっと見る。
「人生で二回しか言わないからな?」
「二回?」
ちょっと言うの恥ずかしいし、今、言うとは思ってなかったから心の準備が。
「十六歳になったら、夜中12時丁度に二人で籍を入れに行くぞ。名字を鹿鳴に変えよう」
その後、オアシカに上がるまでずっと泣いてた。
でも、元気は出たみたいで良かった。
キスは新作のドーナツ味だった。
「六花、めちゃめちゃ泣きはらした顏でどうしたの?プロポーズでもされた?」
小町の洞察力が名探偵レベル!
「あらーおめでとう!でも第二夫人も忘れちゃダメよ?夜伽は私の方がじょ・う・ず♡」
「だーめーなーのー!私のなのー!」
六花さん!ハグが今までで一番痛いです!
「はいはい、御飯食べような!そういやお偉いさん来てたけど何だったの?」
「あーそれねー!いやー大きな新店出す予定で、そっちで手腕を振るえって言われて…まだ店も出来てないから先の話なんだけどね」
「オアシカは
「ふあああああ!お姉ちゃんすごい!」
「ここ立地がいいから県下一位の売り上げのお店だしねー。」
「出来たら行くのか?」
「まっさかー!月巴ちゃん教える約束してるのに転勤しないっつの!二・三日応援はあるかもしれないけどね!無理矢理行かされるようなら圧力かける!」
「どこからですか!?」
「オンナにはね、聞いてはいけないコネクションがたっくさんあるのよ…」
「非合法な香りしかしない!!!」
「さ、今日はどうしようかな?希望なかったらシャリアピンステーキにするけど?」
「それで!」
「それー!」
「はいはい、ちょっと待っててねー♪」
漬け込む時間とか茹でる時間とかがまるでないのが小町マジックなのだ。
「ごちそうさまでーす!」
「柔らかくて美味しかった!ご馳走様!」
「はーいお粗末様!」
「小町も何か困った事あれば相談に乗るよ!将来家族になるんだからな?じゃ、お休み!」
「こま姉おやすみー!」
「…自覚のないタイプのイケメンは怖いわ!不覚にもドキッとしちゃったじゃん/////」
今日はきっと、ゲームとかより肌を密着させてのんびりした方がいいのかな?って思って、まだ最後まで見てなかった覇権アニメをのんびり見た。
途中泣けるシーンがあってお互い涙を零してるの見てふふってなる。
作画やCMに入る前の絵を有名な人が描いてておおおおおってなったり、途中何話かだけハイクオリティで、エンディング見たら監督さんが10人以上いて感動したり、すっごい小さい役で有名な声優さん起用してて盛り上がったり一瞬だけ入る絵をどうしても見たくて、戻して一時停止を頑張ったり、六花がそれをパンチラで頑張ったり、いつもより笑って過ごした。
きっと、ウチの…俺たちの精神的関係が一段進んだ日だと悟った。
見終わると六花はねむねむになってたので、布団に連れて行って寝かせた。
後片付けをして、電気を消す。
布団に潜って六花の寝顔を見ながら考える。
もしかしたら、六花の気持ちに対して自分の気持ちの出し方が足りなくて不安にさせたのかもしれない。
以前六花が風邪引いた時に、六花は寝ててもある程度聞こえてると小町から聞いたから寝る前はこうしよう。
「大好きだよ、六花」
夜目だけど少し笑ってくれた様な気がしたので、眠たくなるまで彼女の髪を撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます