第12話 慈愛

 中学校というのは思春期真っ只中な生徒で溢れかえっている。


 中学デビューで少し不良っぽく見せてみたり、校則なんのそので髪型を派手にしたり、いじめっ子だった男子が女子受けを気にして急に優しくなったり。


 そんな中、何も変わらない海波と安波を見てホッとする。

「海波と安波は中学デビュー的に髪型変えたりしないのか?」


「私は変わらないのも個性と思ってますので、まだいいかなーって」


 海波は俺もそのままでいいと思うし、がっつり頷く。


「私は変えたい髪型とかないからまだ現状維持かなー!変化を楽しむのが私流だからな!」


安波は本当に安波らしい。自由に生きてるって感じがする。

「あ!ツッキー聞いてよ!この学校、相撲部無くてさー!代わりにモンゴル相撲部かエクストリームアイロン部で迷ってるんだよー!」


 この学校の部活どうなってるんだ!?

「とりあえず相撲はやめような?安波のまわし姿見たら寝込むかもしれん」


「そんなに!?ツッキーがそういうならエクストリームアイロン部にしよーかな?」

「海波は何か部活入ったのか?」


「入りましたよー!ペタンク部です」

 二人とも選択がマイナーすぎる!!!



 帰宅部の俺は、人に部活をあーだこーだ言えないんだけどな。

 奈良公園を横切り、参道に出て彼女の姿を探す。


 ん、参拝者の案内かな?

 女性二人と話している…

 話し終わるのを少し待つ。

 俺が着いて五分もしない内に帰ったので六花の元へ行く。


「ただいまー六花」

「月、おかえりなさい!」


 月呼び、自分で切り出しといてちょっとまだ照れる!

「あ、まだ月って言われるの慣れてないでしょ?」

「…顔に出てるか?」

「少しだけねー♪」


 今日も六花が笑顔で嬉しい。

「今ね、正月に巫女さんバイトに入ってた方が来てたんだけど…」

「あ、今話してた二人がそうなのか?」

「ですです!ちょっとコイバナしてたら盛り上がっちゃって!」


「うんうん」

「月のエピソードトークしてたらめっちゃ羨ましがられて!///」


「え、ちなみにどんな話したの?」

「女子同士のコイバナなんでヒミツです!」

「うわー気になるー!」

 そしてここで俺も女子って言いにくい!

「素直にあった事を話して羨ましがられたのは、彼女として嬉しいですよ」


「…うん」

「月は私の自慢です!」


「…でも、たまに思うんだ。俺が男だったら色々良かった事が多いんじゃないか、って」


「それは違います!」


 即座に否定されて少し吃驚した。

「私達が出会ったのは偶然の一端です。でも月が男だったら、すれ違っていたかも知れない。縁が無かったかもしれない。会話を重ねて好きになる事もなかったかもしれない。その『かも知れない』の中、可能性が赤い糸となって私達を結んでくれたのは、女性同士だったからなんじゃないかな?って思います!」


「六花が珍しくいい事を言った!」

 六花に箒で突かれた!


「六花を好きになって、好きになってもらって良かった」

「私もですよー!」

「あ!忘れてた、カフェオレ買ってきたんだった!氷で薄くなる前に飲もうか」

「やったー!」


 ガサッ

 ビクッ!


 鹿だった。

「あー、ごめん!これご飯入ってないからね!ビニール食べようとしないで!はーい、ないよー!何もないよー!」


 両手を上げて、ないアピールしたら鹿は立ち去るってのをやってみたら効いた!

 都市伝説かと思った!たまたまかもしれないけど!


「吃驚しましたねー!鹿の目が本気でした…」

「なんか狩られる側みたいな言い方だな…」

「私は狩られる側ですよー!…月に///」

「俺のイメージがっ!」


 言いかけたとこで若干心当たりがあったのでそっと反論をやめた…



 六花が終わるのを待って一緒に奈良公園を後にした。

 六花の着替えを待ってる間にまた鹿に絡まれたのはヒミツだ。


 今日は家族で過ごす日だったらしいので帰り道は六花も一緒。


 家の前でハグして別れ、自宅の玄関で雪に拉致られて駒鳥鵙家に直行。

「お邪魔致しますわー!♪」

 こいつ、既にノーチャイムだ!!!


「お…お邪魔します…」

 六花が待ってたかの様にハグしてくる。

「これは…何のイベント?」

「後で分かりますよー!」

 玄関から直接二階に上がる違和感。


「お父さんとお母さんに挨拶しないと…」

「大丈夫ですー!二人とも知ってます♪」


 六花と雪と三人で待機の間ガールズトークという名目で俺のヒミツが暴露されていく…

「あの時は月がお化け屋敷に入りたくなくて入り口で大泣きしましたわねー!」

「お化け屋敷に進んで入りたがる雪がやばいよ!」

「月にもそんな時期があったんですねー!」

「昔は本当に泣き虫でお姉ちゃん子だったのが最近甘えてくれなくて懐かしいですわ!」

「今の年齢で甘えると意味合いが変わってくるだろー!」


 六花が何か言いたそうにこちらをチラ見した!

「でも雪は小さな頃からずっと優しかったな…喧嘩もしなかったし」

「それはそれは蝶よ花よと甘やかして育てましたものー!」

 駒鳥鵙さんちと方針が一緒!!!


 そういや六花とも喧嘩しないのは、どこか似てるからか…?

 そうこうしてる内に下に移動…


 真っ暗で何も見えないから六花が手を引いてくれた。

 あ、何となく分かってきた。

 …ちゅっ

 暗闇でやられた!



「ただいまー!…暗っ!!!」


 パーン!

 パパパーン!


『小町、六花!お誕生日おめでとうー!』

「わっふー!♡毎年有り難う!そしておめでとうマイスイートシスター!」


 小町が六花にハグしに行く。

 後で聞いたんだが、誕生日不明の六花を小町の誕生日と合わせたから、本日六月五日になったらしい。


「小町さん、六花さん、お誕生日ですわー!」

「小町、六花、お誕生日おめでとう!あと、お父さんお母さん、お邪魔してます」

「いらっしゃい!月巴ちゃんもいつ来てもいいからね?実家だと思ってゆっくりしてね?」


「うんうん、料理足りなかったらお父さん作るからね!」

 おもてなしが手厚い!

「分かってたらプレゼント持ってきたのに…」

「月は最近私の事でめっちゃお金使ってるのでそれで充分です!」


「プレゼントは月巴ちゃん本体がいい」

「ぅお姉ちゃん勝負だーーー!」

「おおお、やるかー!久々に!♪」

 俺を賭けた世界一大人気ない腕相撲が火蓋を切った!


ドズン!

「かぁー!とうとう負けたかー!」

「しゃー!月は渡さなぬー!」

「今日は負けたけど…いずれ第二、第三の小町が現れるから油断するでないぞーーー!」

「おにょれ!秘密結社こまこまーーー!!!」

 仲いいなぁ…


 テーブル見ると小さいサイズで小町と六花のケーキが名前入りで置いてある。

 手作りらしいが、プロの出来栄え…

「お父さんが作られたケーキ、プロみたいですね…出来栄えが凄く美しいです」


「デデン!♬小町情報によると、お父さんお母さんはお店2店舗持つプロのパティシエらしいぞーっ☆」




 …………とりあえず土下座しよ。

「失礼しましたー!」




 家族全員爆笑だった。

 お母さんがお腹抱えながら口を開く。

「月巴ちゃんいいのよー!私達も全く言ってなかったしぃあっはっはっはっ!」

 穴があったら入りたいってのは今使う言葉だと思った。


「じゃあ、これ!お二人にお誕生日プレゼントですわ!」

 六花と小町にプレゼントを渡す雪。

「お、高保湿パックの高いやつだ!ガチのプレゼント有り難うね!」

「ふぉー!リップグロスだー!1個も持ってない!雪さん有り難うー!」

 雪はプレゼント選ぶの上手いなぁ!


 因みにお父さんお母さんは毎年手の混んだ料理を作ってくれるからそれで充分と言ってるらしい。


 実際、アクアパッツァとかアヒージョ等のお店レベルが並んでいる…

 姉妹のプレゼント交換は六花が高級ブランドのハンドクリームを渡し、小町は六花に…うわ、超レアなレトロゲーム『すべらんかー』だ!

 姉妹の有り難うハグが微笑ましい!


 その後皆でご飯とケーキを頂いて、嬉しい事に家族のアルバムを見せてもらった。

「二人とも可愛いですわー!」

「小さい頃の小町と六花…」


 前に聞いた通り、小さい頃は影があった六花が次第に明るくなっていく過程が分かる。

「六花、本当に小町が好きなんだな。小町と手を繋いでるか、必ず小町の服を掴んでる」

「流石、六花研究家だねー!写真苦手なのもあったけど、小さい頃は心細かったんだろうねー!」


「高校の卒業式でもブレザー掴んでるな!」

「でしょー?あ、その写真に写ってるもう一人が仲良し3人組の一人の鴛鴦栞おしどりしおりなんだー!」

 ああ、うまし棒で六花の頭突いてた人か!

「栞とお姉ちゃんと三人で久々の女子会したいねー!」

「ちょっと呼び出してやっちまうか!♪」

「言い方ー!」


「!…あーお誕生日位来なくていいと思うなー…」

「逢禍か!?俺が行く!」

 腕輪で多重結界を張り、表に出る。

 玄関を開けたすぐ前方に逢禍が!

 見えた瞬間に逢禍が伸ばした太めの針が喉半分位を抉り





 腕輪で多重結界を張り、武装した六花がいち早く前に出る!

 玄関を蹴り破ると目前に逢禍が!

「ぁぁぁぁぁああああああ!!!鏡花水月!!!!」

 逢禍の攻撃と六花が交差する!


 逢禍が激しく針の攻撃を繰り出すも、攻撃が全て六花をすり抜けていく。

 対して六花の斬撃が凄い速度で逢禍を抉り取る。

「八咫烏・乱舞!」

 無軌道な動きの八咫烏が逢禍を抉る。

 削ぎ取られていく逢禍が突如膨らんだ!


 !!!

「花鳥風月・屏風!」

 六花の周辺だけでも!!!

 障壁が屏風の様に展開する。

 ただし、六花が俺を庇えない様に道も塞ぐ。

「月!!!!!」




 閃光と衝撃が…

 …衝撃が来なかった?


 閃光から目を開けると、六花と俺の周囲を半球状に恐ろしく密度の高い障壁が包んでいた。

「お疲れ様ですわー!♪」

 唐突に理解する!

 雪は鹿鳴の血筋だから多重結界に弾かれない!

 逢禍が弾けた一瞬で六花を庇い、俺と一緒に結界に入った!


 ひゅっ


 六花が神速で飛んできて、俺らにハグをして号泣した。

「月…良かった…雪さん有難う…」

「いえー!未来の妹を傷つける輩は許しませんわ」

 あ、雪も貰い泣きしてるの珍しい。


「雪ありがと、継承者ってやっぱすげーな」

「お父様がいない時にコツを教えますから、守ってあげなさい」

「…うん」


 その後結界を解いて家に入ったが六花が泣きじゃくって自宅に帰れなかった。

 六花を泣かせた悪人みたいな絵面に、再び駒鳥鵙一家に爆笑されてしまった。



 今日は六花の部屋に隔離…もとい泊まりになった。

 雪が死角に置いて帰ったムービーカメラはそっと電源を切…


「電源のボタンを外してある…だと…?」

そっと後ろ向けた。


 まだ泣いてる六花をハグしながら頭を撫でる。

「…六花、今日は有難うな。体感でだけど何かから助けてくれたんだろ?」

「…うん…でも月も私だけを庇おうとしてくれた」


「俺は自分に障壁張れないのは言ってたけど、距離を取れば壁は作れるんだ。でも相当な距離を開けないと張れない。逢禍と俺の間にその距離がなかったんだ。それなら六花だけ無事ならいいやってなっ痛い痛い痛い!」

 首筋を噛まれた。


「月がいない世界なんて…もう知りません」

「おいおい…その言い方だと何かしてくれた時に、俺死んだのか?」

「…銃の私が言ってたでしょ?って。私はほんの少しだけ時を戻せます…」

「な…すごいな、それ…」


「ただし、世界が私に許してくれた時間は三秒。乱用していないので確かな事は言えまんが、きっと失った命は戻らない。無くなった時間の内容も言えません。でも、あの時月が命を落としていたら、自害するつもりでした」


「…六花の命まで危険に晒してごめん。六花も守るけど、自分もしっかり守るから」

「約束ですよ。死んだら嫌いになります。…絶対ならないけど」


 泣き止まない六花をキスで慰めて、ハグしたまま、弱点の後頭部に触れ、耳を齧る。

 周りに聞こえない様に声を我慢してるのが分かったから触って舌を這わせる。

 痙攣してはいるが我慢して声を堪えている。


 もっとしたい。

 死の淵に立ったからなのか、今日は自制が利かなくなってる。

 でも耳元で可愛い彼女の吐息聞いたらおかしくなる。今日は仕方n



 バァン!

「泣き止んだー?皆でえっちい動画みようぜー!♪」


 俺→六花噛んでる

 六花→上の服捲れかけ


 悪い顔でスマホを取り出す小町。

「あ、雪ちゃん?今ダッシュで六花の部屋来ると面白いからちょっと来ないー?♪」

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいぃぃぃぃ!!!!

 雪も結界の上走って自分の部屋から六花の部屋まで直で来やがった…


 勿論大人しく寝ました。




 次の日には六花は機嫌が戻ってたし良かった。

 二人で途中まで一緒に登校し、キスして六花を送り出した。


 制服は多少しわになってるけど問題なし。

 教科は…なんだっけ?

 最悪他のクラスから教科書借りよう…


 校門に先生立ってる…

 今日は生徒指導の日か。制服崩してないし、遅刻も大丈夫!



「…鹿鳴さん?お話があるので生徒指導室に今から来てもらえますか?」

 六花の噛み後が丸見えだった…





「それで、なんて言われたんですか?」

 放課後、いつもの参道で掃除をしている六花が笑いを堪えつつ聞いてきた。


「まさかとは思いますが不純異性交遊ではありませんよね?て、一言めが直球だった。花も恥じらうJCに言う台詞じゃないよな?」

 堪え切れず六花が爆笑した。


 絆創膏を貼って今日は誤魔化したが、安波と海波にはバレた。

「六花さんが見えるとこ噛んだからですー」

「昨夜はめっちゃ怒ってましたからねー!次は見えないとこ噛む様に気を付けまーす!」

「うむ、よろしい。いや違う!」


「月も嚙むでしょ?」

「うん、六花の噛まれてる顏が最高だから」

「…昨日はいいとこだったのに」

「六花がそういう事言うの珍しいね」

「ほら、どうしようもなく相手に求められたい時ってあるじゃないですか…昨夜がたまたまそうだったんです///」

「うん、俺も昨日止まらなくて…いつもは法的に問題無い年まで我慢!って理性働くのに駄目だった」


「法的に私の事気遣ってくれてるのに、月がケダモノ化するから…///」

「よし、一旦この話終わろう!まだ夕方なのに悶々としてくる!」


 六花が楽しそうにくすくす笑う。

 昨日死んでたらこの笑顔は見れなかった…

 命の在り方を考えるなぁ…

 まずは俺が成長しなければ!

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