第8話 薄日

 短くも濃かった冬休みを終え、JS最後の3学期!


 と、いってもテストとかも殆ど無く、4月の卒業式を待つのみなんだが。

 エスカレーター式でメンバーも変わらないのに、釣られて泣いちゃうんだろうなぁ…いや、泣いてしまったっていう思い出も合って損はない!

 どんな事が合っても素直に受け入れよう、うん。



「お早よう月巴ちゃん!」


「ツッキーおはー!」


「ナミーズおはー!」


 中学でもこの二人と一緒だと思うと、不安は微塵もない。



「中学上がったら皆何するとか目標ある?」


「そろそろ彼氏作ろうかなー?」


「海波は彼氏かー!安波は何かやるの?」


「うーん、吹奏楽か…ダンスか…相撲か…くっそ悩むぜ!」


「相撲は選択肢から外せ」



 そういえは、と海波。

「夏月大社で元日にイチャイチャしてたのは彼女さんかなー?」


「ぶっ!げっふげっほ!!…いたの?」


「海波も安波もいてましたよ!で…どういうお関係?」

 もう中学に上がるし、この二人には堂々と話しておくか…



 夏過ぎに初めて六花に会った事。


 色々と話すうちに趣味やら話やらが合う事が分かった事。


 家に泊まりに行き、寝食を共にしている内に互いを愛おしく思える様になった事。


 流石に逢禍の事は省くが、包み隠さず話すと二人とも「良かったね!」と祝ってくれた。



「その内紹介するから…笑わないでくれよ、身長差とか…」


「笑ったりしません!月巴ちゃんを選んだ時点で見る目がある人です!」


「ツッキーが選んだ人だ、良い人に決まってる!バカにする奴は私が許さねぇ!」



 本当にこの二人が友達で良かった。

『で、どこまでしたの?』

 またむせた。


「けほけほ…何の話だ!?」


「あれだけ清楚な方です、月巴さんが野獣の様になってもおかしくないです!」


「ツッキー、そんな性癖あったのか…でも私達はいつまでも友達だからなっ☆」



 まだ何もしてねぇぇぇえぇえぇ!!!!

 いや、ちゅーはしたけど!言えるか!!!

 どのタイミングでどこで会わせよう…?


 不安だけが頭を過ぎった。




 その日の帰り道。


 いつも通り、六花のとこに寄って帰ろう。


 そのつもりだったのだが…


 学校を出て少しの田んぼに逢禍がいた。

 しかも少しデカい!



 以前JR奈良では対処が遅く怪我人も出たし、先に多重結界を張り巡らせる。

 因みに腕輪はデカすぎて抜けるので左足にしている。


 ランドセルはとりあえず脇道に!

 一人でのバトルだ!六花の力が無くてもこれくらい祓える様にならなきゃ!


「八咫烏!」


 鳥の形となった結晶達に左右から突撃させる。だが八咫烏で切り裂いてもすぐ再生する様で埒が明かない。


 逢禍が青い爆発物を口からこちらに放つ! 

 早い!

 ドゴォッ!!!

 まともに食らって少し後ろに吹き飛ぶものの、大したダメージではない。六花の指輪が効いてくれてる!


 有難う六花!



 結晶を縦にし大量に並べる。

 そのまま壁の様に押し出す!

 勢い良く押し出したから、相手は上に逃げ損なうも、下半身は結晶で切り刻まれてる。

 上に逃げたら、恐らく突撃か口から爆弾吐くかの二択!

 ならば!


「花鳥風月!」


 逢禍の目前に張る!突進も爆弾も奴の目の前で防げる!

 と、思った瞬間花鳥風月の前で爆発が上がる!

 自爆ダメージでもあればいいんだが…


 爆発の煙が消える前に何かが出てきた!

 逢禍が分裂してる!

 サイズダウンしているも4体に増えた!

 まるでジェットコースターの様に四体が放物線を描いてこちらに迫る!


 口も光ってるから爆発物を出すつもりだ!


啐啄同時そったくどうじ!」


 結晶が逢禍に向かって網目状に飛ぶ!

 まるで訓練された軍隊の行進の如く綺麗に交差し、全ての逢禍を切り刻んだ!


 やった!

 細切れにしたので残滓も残してない!


「………しゃ――――!!!!倒した!!!六花を守れるっ!!!」


 多重結界は解いてないから誰もいないし、初単独勝利を声に出したかった!

 でも調子に乗ると怪我するフラグかもしれないし、この先気をつけないと!


 怪我もほぼ無さそうだし、多重結界解くかー!と左足を後ろに上げた瞬間、後ろからハグされる。

 逢禍かと思ったが、こんないい香りのする逢禍はいない。


「…いつからいたー?」


「逢禍が消えかけで、六花を守れる!あたりです」


 一番恥ずかしいタイミング見られた!!!


「結界が見えたんで急いで来たんですが…無事で良かった…」


「六花のクリスマスプレゼント、凄くいいよ!お陰でダメージほぼなかった!」


「本当に良かった…」


 不安だったのだろうか?


 六花が少し震えてた。


 右手で右肩に乗ってる六花の頭を撫でた。


「さ、帰ろうか?」


 多重結界を解いて逢禍に手を合わせ、六花に手を差し出すと笑顔で握り返してくれた。



 帰り道、ふと六花に聞いてみた。

「六花、そういえばなんで駒鳥鵙こまどりじゃなく初瀬川はせがわ名乗ってるんだ?」


「それはですねー…デデン!!駒鳥鵙家にご迷惑掛けたくないからです!私が駒鳥鵙を名乗る事によって逢禍絡みのご迷惑かけるかもしれないと考えるだけで辛くなります。駒鳥鵙家は私が私である人格を形成してくれた大切な家族ですから!」


「六花は本当に小町から愛されてるもんなー!」


「駒鳥鵙家が手を差し伸べてくれなかったら、今頃陰キャのオタクで逢禍狩るだけのアサシンだったかもしれません!」


「オタク要素は不動なのか。」


「あ、私と結婚するとお姉ちゃんが月巴のお姉ちゃんにもなる豪華特典がーっ!!!」


「六花も雪がもれなくついてくるぞ?」




「……二人を合わせない方が懸命かもしれません」

「奇遇だな、今同じ事考えて寒慄してた。」


「私は苗字が鹿鳴に変わるだけでめっちゃ幸せです!」


「…ん」





 2月3日。


 節分の日だ。


 季節の変わり目には邪気が湧くのでそれを払うという意味合いがあったそうだが、今では歳の数だけ豆を食べたり、節分価格のお高い恵方巻きを買ってその年の恵方に向いて黙食するジャパニーズイベントだ。


 鹿鳴家は豆撒いたりしないけど、母さんお手製の巻き寿司が振る舞われる。

 だが、今年は駒鳥鵙家が豆巻きをやるというので雪とお邪魔する事になった。


 家族で豆巻きをやるって、ほんわかしてていい家庭だなぁって思う。


 母さんが手土産に巻き寿司を持たせてくれたので駒鳥鵙家のお土産に渡す。



 ピンポーン


『はーい!』


 小町の声だ!今日は休みかな?


「こんばんは鹿鳴です!」


『はーい!今開けるね!』


 ガチャ!


 いつも通りスポーティな服装の小町が出てきた。

「雪ちゃん、月巴ちゃんいらっしゃーい!さ、上がって上がって!」


「お邪魔しますわー!」


「お邪魔しまーす」


 上がるといい香りがする。


 自分の家に慣れてると人の家の香りには敏感になる。


 中に入るとお父さんとお母さんがいた。


 初 対 面!


「いいつも六花さんとこ小町さんにはお世話になってます。これつつまらないものですが母の手作りです」


「月巴ちゃんが噛むの珍しい!緊張してるー?」


 恥ずかしい!噛みまくった!

 雪と小町がケラケラ笑ってる!


「リラックスしてええんやで!六花の好きな人ならもう家族やからな!」


「そーよー!小学生の女の子って聞いてたけど礼儀正しくてイケメンじゃなーい!」


「うん、六花と別れたら私がもらうから!」

「あ―――げ―――ま―――せ―――ん!別れる予定も未来永劫ないです―――!」



 奥から真っ赤な服装の六花が顔真っ赤にして飛び出してきた!

 皆の前で六花にハグハグされて爆笑される。



「さて、皆揃ったし始めるか!」 


「まずうちの独自ルールがあるから説明するね!」

 ローカルルール来た!


「六花は鬼です。毎年固定で」

 逢禍払って平和もたらす巫覡が毎年鬼役!


「豆を発射する武器は一人一個!武器箱にエアガンやらスリングショットやら三節棍やら沢山入ってますのでご自由に!」


 豆と三節棍の相性の悪さよ。


「六花は基本当たらないので、全力でオーケーです。ただし床に散らばった豆はセーフ!足の裏以外に当てましょう!一発でも六花が豆に接触すればこのデスゲームは終了とする!」


 ゆるすぎるデスゲーム!


「なお、散らばった豆はスタッフが美味しく頂きます!」


 食材への配慮も欠かしてない!!


 この後、皆が後ろ向いて十数えてる間に六花が隠れる



 さぁ、勝ちに行くか!

 二階に真っ先に上がっていった駒鳥鵙父、豆切れでリタイヤ!

 秒殺!


 入れ替わりに二階に上がる駒鳥鵙母の様子を見についていく。


 奥の部屋前に豆が零れている!


 駒鳥鵙母はゆっくり部屋に入った。


 奥の部屋は広い書斎だった。

 奥に六花が待ち構えていた。ドヤ顔で。


「今年こそ当てますよ―――はい!!!」


 豆の袋をらせん状にばら撒く。

 成程、それで駒鳥鵙父もすぐ豆切れだったのか。


「母さん甘い!」


 投げた豆の切れ目を見極め、六花が低姿勢で突進してきた!

 恐らく駒鳥鵙母の足の間から抜ける気だ!


「させないですわー!」

 背後に雪が潜んでた!


 足の間から持ってる豆を全てばら撒く!

 当たったか?と思ったが、しなやかな肉食獣の様な動きで駒鳥鵙母の前で急停止し、二人とウチをすり抜けていく!


「おーーーー!流石ですわー!」

「でしょー?毎年あんな感じで当たらないのよー!」


 二人とも知らないうちに仲良過ぎね?

 六花は、明かりがついてる二つ先の部屋に入っていったようだ。


 中を覗くと…小町がショットガンを撃っている!

 大豆もまさかショットガンに込められるなんて思わないだろうな。

 ホラー好きはショットガン撃ってみたいだろうし…


 だが、六花のしなやかな回避で豆を回避!もうネコ科の動物みたいだ。

 豆切れを見て六花が飛び出していく。次は隣の部屋の様だな。


「私に構わず…先に行って!」

 行ってみたいセリフナンバーワンの奴、小町から頂きました!


 六花が入った隣の部屋はまだ電気がついてなかった。

 そっとドアを開け、そっと閉める。


「月巴、片目閉じてますね?夜目に慣れないうちに部屋の照明のスイッチまで誘い出し、豆を当てる策略!」


 六花はあれだけ走り回りながらしっかり片目を閉じていたのを見ていた。


「ですが残念!」


 壁のスイッチに触らず電気が点く!そうかLEDのリモコンか!

 後ろからがっちりハグされて捕まえられた。


「はい!今年も私の圧勝ー!!…んにゃ?」


 右手でウチの右肩に顎を置いてる六花の頭を撫でる。


「最近右肩に顎を置くの癖だもんな?」


 片目を閉じて暗闇でのバトルを想定させるというミスリード。

 本命は六花の習性を利用した、右肩に両面テープで豆を一粒貼っておく方だ。


「ふええええ!負けたー!」

 頭撫でながら、周りを見渡す。



「六花の部屋か?」


「うんうん!家出るまで私が使ってた部屋なの」


 学習机、学習机横に下げられたランドセル。大きいぬいぐるみが置いてあるベッド、制服や鞄が掛けてあるハンガーラック。


「お母さんに感謝しなきゃな?六花の部屋、埃が少しもないぞ?いつでも帰っておいでっていう家族からのサインなんだよ、きっと」


 思うところがあったのか、六花がぽろぽろ涙を零し始めたから振り返って、六花の頭を胸にうずめて髪を撫でた。


 六花がこの家の子になって良かった。

 あと、振り向いたせいかドアの隙間から顏出しながら泣いている駒鳥鵙一家と雪の姿が見えちゃった。

 なんか恥ずかしい。



「月巴ちゃん!winner!!!」


『いえーーーーー!!!』


 皆でお茶しながら、初の勝利者の栄誉を称えられた。

 皆ソファーにかけているが、ウチは涙目六花がバックハグしているので床に座っている。


「いやーホント六花は一粒も当たらなくてねー!そろそろプロの傭兵を雇うか、物量作戦で家を豆で埋めてしまおうか考えてたとこなんだハッハッハッ!」


 もう少しで大人げない作戦が繰り広げられるとこだった!


「月巴ちゃん、勝者だから欲しいもの言って!」


「欲しいもの…」


「今晩だけ私を自由にしていいとか?」


「一夫多妻制もいいわねー!」


 痛い痛い痛いまだ泣いてる六花のハグというか締め上げが痛い!そして小町がまだ諦めてない!


「物じゃなくてもいいですか?」


「大歓迎よー!何がいい?」


「…血は水よりも濃しという諺がありますが、長年過ごした時間と思い出は血よりも濃いものだと思っています。他人のウチが言うのはどうかと思いますが、どうかこれからも六花を宜しくお願いします」


 土下座しようと思ったら六花がバックハグしてるから出来なかった!


「ほらー!これ!こーいうーとこ!めっちゃイケメンでしょ?」


「ほんとねー!ちょっとうるっと来ちゃう!心配しなくても、六花はずっとずーっとウチの子だから!あ、月巴ちゃんには六花あげるからね?」


 もうウチの背中が涙やら鼻水でえらい事になってるんだが。




 三月、寒さはまだあるものの草木が色づく季節になってきた。

 今年は早めに桜が咲いてくれたので、六花とお弁当持って花見に行こうという事になった。


 奈良は年明けに雨やら雪やら降る傾向にあるので、当日晴れます様に!

 そういえば六花はお酒飲めるのか聞いたら『飲めなくはないですが美味しいと思わないですー』って言ってたな。


怖いからなるべく飲まさない!


 ウチも親のお酒舐めた事あるけど、辛くて変な味だった。

 大人はなんであんなものを好んで飲むんだろう…




 上手く予定してた日は晴れてくれた。

 前日までに雨で散る事もなく、見頃だ。

 お弁当は小町の手作り…と思いきや、六花のお父さんとお母さんが作ってくれたらしい。

確かご両親も調理のプロだったような…

 お弁当を取りに行くプロセスがあるので今日は家の前で待ち合わせになった。


「月巴!お待たせです!」


 薄手のコートにデザインのいいシャツ、ひらひらロングスカートにブーツ。


「スカートなの珍しいな?」


「たまにはこういうのもいいかなって!似合いますか?」


「うん、似合ってる。」


 繋いだ手が大きく前後に振られて嬉しさを伝えていた。


 奈良公園の一角にベンチと桜が近い場所があるので、二人で座る。

 お茶を出して蓋に注いで六花に渡す。


「ふーふーしろよ?」


「ふー!ふー!ふー!」


 火傷しないか横で見ながら紙コップで自分のお茶を注ぐ。

 今日はほうじ茶だったかな?


 六花と桜を見る。

 この何とも言えない優しい桜色は人の心を和ませる。


「桜日和ですねー!」


「だな!満開で良かった!」


 温かいお茶を飲みながらの花見は最高の時間だ。別に風情がどうとか小難しい事を雄弁に語りたい訳ではなく、只々見て和むという行為で普段のストレスとか心の汚れを落としたいだけなんだ。


「六花は家に観葉植物あったよな?桜とか花も好き?」


「ですです!花屋さんとかあったら立ち止まったりします」


「でも部屋が地下だし、どうしても育てやすいものに偏っちゃうよな」


「そうなのー!好きな花は日光当てないと枯れちゃうのが多くて…」


「ウチ、中学卒業したら家出ようと思うんだ」


「…そうなんですか?」


「オアシカで小町に弟子入りしようと思う。小町程上手くなくても六花の体調管理はしたい」


「楽しみです…」


「何暗くなってんだ?次の家はせめて日光当たる場所に決めような?六花も植物育てやすいだろうし、ウチも洗濯物が干しやすい!」


 あれ?反応が薄…また泣いてるー!!!

 慌ててハンカチ出して六花に渡す。


「最近月巴が私を泣かせにかかってるー…」


「そういう訳じゃないけど…どーしても他に取られたら嫌!って気持ちが…」



「月巴もすっかりやきもち焼きさんになりましたね!」


「それ位しとかないと六花は可愛いから誰かが狙ってるとも限らないし…」


「今の台詞聞こえにくかったからもう一度言って?」


「絶対聞こえてただろー!」


「スマホにまだ録音出来てないですー!」


 やはり録音するつもりだったか!



 六花が大胆にも唇奪ってきた!


 外なのに長い口づけ。


「私を狙う人なんていませんよー!月巴だけですし、月巴以外興味ないです!」


 言葉を聞くと安心する。


 嫉妬心強くなると嫌われそうだから気を付けないと…


「そういえば月巴!」


 お弁当を広げながら六花が切り出した。



「クリスマスに貰った首筋のキスマーク消えないんですけど、何でなんだろ?」


「…あ、それは六花が寝てるうちに更新してるんだよ。」


 また社務所で自慢されそうで怖い。

 ちなみに駒鳥鵙家のお弁当は食べたことない美味しさだった。

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