第5話 修業

 師走に入り、街はクリスマスムードな最初の土日。



 ウチはいつも通り六花の元へ向かっていた。


 従来はオアシカ閉店間際に行ってご飯を頂き、六花の部屋で遊ぶのだが今回は少し違う。


 互いの体調が万全になったので、ウチの修行が始まのだ。

 伸びしろあるんだろうか…?



 東向きストリートの西に向かうと、少し広い場所に出る。

 近鉄奈良駅(奈良公園前)の所謂噴水前と言われる広場で待ち合わせの名所だ。


 噴水の上には偉いお坊さんの像が立てられている。


 噴水前の周りにはスターを目指すギタリストや手作りのアクセ等を売ってる。

 その中に混じって六花がいた。



「六花待たせたな。」


「ううんーアクセ見てたから!」


 キキンッ!

 結界を作る動作。六花が本気で動くとまるで見えない。


 近鉄奈良駅前は人も車もない状態になった。


「まず、結晶を展開してみて下さい。」


 両腕をクロスさせると亀甲型の薄い結晶が展開される。



「ビルに向かって攻撃してみて下さい。」


「八咫烏!」


 向かいのビルがスパッ!と切れ、音を立てて崩れる。

「月巴、防御展開させると、どの位の距離と強度を出せますか?」

 しゅっ!と六花のまわりにドーム状に展開する。


「この強度なら先日の特大逢禍の掴み攻撃、建物の破片直撃位なら完全防御可能だ。距離は…目視で補足出来る距離なら問題ない」


「この薄い結晶の強度1枚はどれ位上げれますか?」


「1枚なら標準的な銃の弾丸程度だけど、三枚以上なら完全にガード出来る。面にすると繋いだ数だけ防御力が向上するな。」


「では…コンプレックスでしょうが、自分の周囲に防御陣を貼ってみて下さい。」 


 これ程動いてくれるのになんで防御だけ駄目なんだ…

 ウチの周囲まで結晶はくるが防御の型を組む素振りがない。


「…なる程。次は三枚重ねて私の前へ。」


 スッ…と音もなく結晶が三枚重なり、六花の前に展開される。 

 その瞬間六花が突きを放つ!


 キキィン!


 結晶は壊れる様子を見せない。

 それどころか反発…斥力のような物を感じ取れる。


「月巴、この結晶って砕ける事ってありますか?砕けたら月巴がダメージ受けたりしますか?」


 いちいち名前呼ばれる度に照れるからっ!


「いや…どうだろう?砕けた事はないかも?」


「なる程…少しだけ交代しますね?」


 え?

 刀を収納して、指で銃を作る。


「バレット!」


 六花の髪が瞬時に短くなり、煙草を加えた人に変わった。

 煙草ってオプションで付いてくるの?

 空中で勢い良く何かを掴むとリボルバーの銃が現れる。



「よぉ、月巴!」


 ニカッと笑う。戦闘中じゃないからか、前回程ガラの悪さを感じない。


「結晶撃ってみるから、角度をアタイから見て3ミリ位斜めにずらしてくれるか?」


「わかった!」


 ドォン!ドォン!ドォン!


 遠慮なしに放たれた銃弾は角度をずらした先へと飛んでいく。

「ほー!大した硬度だ!」


 ちょいちょい、と手招きで六花に呼ばれる。


「警戒すんな!今日はちゅーしねーから!」


 今日はってなんだ?


「いやー、実は……があってな……有り難いんだが…どうだ?」


 なる程。聞くと確かに便利そうだ。


「じゃー遠距離戦想定して道路の向こうのビルでやっちゃおうか!」


 ごめんなさい、ビルのオーナーの人。結界解いたら戻りますから。




 その後、銃六花(紛らわしいから便宜上区別をつける)と長時間訓練をする。

 なる程、こういう戦い方もあるのか。


 訓練を終えて、噴水横の石のベンチに座り、銃六花に水筒のお茶を蓋に注いで渡し一息をつく。

ウチは紙コップ。


 銃六花はお茶を半分位一気すると煙草に火をつける。


「なぁ、今の六花にも必殺技みたいなのあるのか?」


「ああ…あるぞー逢禍が痛がりそうなもの優先で使ってる」


 ドSだ!!!


「だーいじょーぶ!逢禍にしかやらねーから!人間にはせいぜい鋼入りの靴先喉まで咥えさせたり、汚いもの巻き散らすまでケツ蹴り上げたり、火のついた煙草を何箱口に突っ込めるかとか…すげーゆるいだろ?」

 ゆるくないし全部拷問だからっっ!!!


 銃社会というのはやはり生き馬の目を抜く様な日常なのか…?


「ま、こっちは平和な社会だから、やる事ねーだろうけどな。」

 フラグ立てんな。


「こっちの六花にも必殺技が…?」


「あるある!でも見る事はきっとないかなー?」

 どういう事?


「さぁ、シメるか!例の技、少し練習しといてくれよ!」


 煙草加えながらいつもの屈託のない笑顔を出すと、神衣をしまい、銃のシリンダーをギャリギャリギャリ!と慣らす。

 途端に結界が解け、街に賑わいが戻る。

 六花に目をやると既に元に戻っていた。

 

「修行お疲れ様でした!」

 優しい笑顔で労ってくれる。


「付き合ってくれて有難う。」


「月巴は、出来ない事に囚われないで出来る事を伸ばすのを優先しましょう」


「六花にペンダントの守りがあっても…ウチが守るから」


「はい!私は月巴の女なので守られます!」


「それ、もう忘れていいーー!!!」


 駅前で大声出したら思ったより恥ずかしかった。



 オアシカ閉店までまだ時間があったので靴下の店見たり、古本屋みたり、パン屋で美味しそうな惣菜パン買ったりしてブラブラと帰った。惣菜パンは夜食だ。六花は明太フランスで、ウチはポテトサラダが入った丸いパンにした。



 いいタイミングでオアシカに帰ってきた。

 閉店して、ウインドウが不透明になったタイミングだった。 


「小町ーただいまー!」


「こまこまーお疲れ様ー!」


「バッチリのタイミングで帰ってきたねー!ご飯何にする?」


「小町、その前にこれやる。」



 手渡した紙袋を小町が開けるとサンドイッチが入っていた。


「月巴ちゃんサンキュー!夜にホラー映画見ながら頂くね!ここのパン屋美味しいから楽しみが増えたー!」

 ホラーはもう日常的に見ているのか…



 今日の晩御飯はピザにしてもらった。

 パン屋で敢えてピザを買わなかった理由がここにある。

 パン屋のピザも美味しいが、小町の出来たてピザは何物にも代えがたい美味さがある。

 空中で遠心力で生地伸ばす技は初めて目の当りにした。


 六花は猫舌だから念入りにふーふーしてたので可愛くてつい笑ってしまう。

 チーズで上顎火傷するタイプだな。


「二人ともクリスマスは一緒に過ごすの?」

 小町がグイグイと質問攻めの姿勢だ!


「一緒に過ごすよー!」


「一緒だな。特に何もないけど。」

 六花が悲しい顔でピザ食べてる。


「あらあらいいなー!クリスマスはカップルの一大イベントだからねー!」

「そういう小町は…彼氏とかいるのか?」


「いると思う?いないと思う?」


 ニコニコしながら聞いてくる小町。

「うー…今はいるようには見えないなぁ…」


「はーい!こまこまいないと思う!」


「はい正解ー!現在彼氏はいませーん!」


「小町、めちゃくちゃモテそうなのに…」


「いやー、イケメン高収入とか望んでないのになかなかねー。」


「どういうのがタイプなんだ?」

「顔も収入も普通でいいから特殊なホラー映画でもビビらない人。」


 かなり特殊な求人だった!



 ご飯を食べ終わり、小町に礼を言ってから六花の部屋に向う。

 六花は意外と部屋の掃除はしてるのでそこは感心している。



 まずは食後の休憩!


 人を台無しにするソファに身体を預けごろーんとする。

 六花は抜け目なくソファをくっつけて来て寝転がった。


 丁度右手の位置に頭があるから、頭に持って行って撫でてやる。

 頭を撫でると大人しくなるのは猫なのかな?と思う。



 和んできた所で一旦風呂に入る。

 髪は伸ばすとブローに時間かかるから、セミロングのままでもいいかな?と思い始めてる。

 ブローを終えて保湿クリーム塗ってトマトジュース飲んでると六花が風呂から上がってきた。

 キャミとパンツのままで人を台無しにするソファにちょこんと座る。



 いつも六花の髪を乾かすのはウチがやる。

 風呂あがりの六花はいい香りがするから好きだ。

 同じボディソープやシャンプーなのに。


その間に六花も保湿液を塗ったりしてる。


 今日は珍しく、ゲームではなく前から狙ってたアニメBlu-Rayを六花が買ったので急遽一挙上映となった。

 放送当時派遣を取ったアニメだったので大いに期待がかかる。


 髪もホットのままだと痛むので8割乾いたらクールで丁寧に乾かす。

 てか、毎回髪乾かす時に限って少し震えるの何でだ?クールが寒かったのか?

 乾かし終わったのにガチガチに固まってる。



 髪括るのかなー?と後頭部触ると


「ひゃっ!」っと変な声を上げた。


 なる程!

 むくむくと湧き上がる嗜虐心。


 後頭部を五指で撫でてやる。

 お、我慢してる。


 後ろから髪を掻き分け、露わになった首筋に甘噛みをするとビクッといい反応をした。

 やば、楽しくなっ



『♫テッテテテテテテッテンテン!パフ!』


 日曜日の夕方に座布団やり取りしてる番組のや―――つ!


「六花、今度ブザー買う時ウチついてくわ」


 ぐったりしてる六花。

 この時間に小町の呼び出し…何かあったのか?




 二人ともパジャマを着て上へ上がる。


「小町ーどうかしたか?」


「ん―――…」


 何か困ってる素振りだった。


「《社》から逢禍発生の知らせ受けたんだけど…どう見ても人にしか見えない、との情報らしいのよ。六花にもメール行ったでしょ?」



 ごめん小町。六花はさっきそれどころじゃなかった。


「被害が出たらまずいし、現場いこう、いくぞ!」


 尻を軽く叩いたら「ひゃっいっ」て声出したから素直に笑った。




 JR奈良まで来た。


 慌てて着替えたからウチはセーター、ジーンズに六花のハーフコート。

 ハーフコートでもウチが着るとロングコートだ。


 六花もコートだが、ミリタリーコートにハイネックセーターと革のパンツだ。

 脚細いと革のパンツ似合うなぁ。

 それは兎も角それらしい人がいないか探してみる。


 …人と見分けつかないとかだと変な動きしてないかとかで見分けるか六花の探知能力を当てにするしかない。


 ドゴォン!!!


 光と共にビルの上側が砕ける!

 音が派手だったから、すぐ気付くが通行人に破片が当たり、無事だった人達は悲鳴を上げて逃げる!


 破片が道路に散乱し、車が凹む。


 車もパニクったのか数台追突している。


 何人か血を流して倒れてる、このままだとまずい!


「こまこま!JR奈良前にサポート班お願い!」


 六花が通話を切るやいなや多重結界と武装を施し、ビルの上に跳躍していった!

 上か!

 飛ぶ能力も無ければ背も低いウチは…とりあえずJR奈良の敷地内にいるベンチに乗ってみた…

 見える、遠目だし薄暗いけど六花と…スーツの男…?

 目が光ってるからアイツだろう!




 六花は躊躇していた。


 逢禍は今まで幾度となく斬り祓ってきたが、人の外見で逢禍だと斬る事に躊躇する。

 もしかして生きて取り憑かれてるんじゃないか?懸念が生まれる。


 高速で飛びかかって来た逢禍は爪で引き裂こうと両手を構える。

 迷ってる時間はない!



「寒椿!!」


 斬りつけた肩口が氷り、地面と繋がる。 

 動けなくなった逢禍はすかさず口から赤く光る爆発物を六花に吐き出す!



「残菊!」


 赤く光る爆発物を逢禍の顔ごと切り裂く。

 瞬間!背後から青い炎!

 振り返る間がない!逢禍が後ろにも!?


『加護に任せるか……いやまだだ!』


 背中のダメージ覚悟で前の逢禍を斬り祓うつもりだったが…




 ドズン!!!

 衝撃波が微かに来る!

 背後には…月巴の結晶壁『花鳥風月』!

 広場の椅子に乗って一生懸命にこちらを見てる姿に愛おしさすら覚える。



 まずは目の前の敵を斬る!

 と、逢禍は貫かれた氷の箇所を身体ごと裂いて逃げる!


 屋上付近はライトが当たらず闇が多い。

 月巴もあの距離から目視は困難なはず。

 だが月巴の『花鳥風月』を背に戦えば、攻撃は限定される!



 逢禍の気を掴め…前から…横から…?

「下!!!!」逢禍2体が影の中から、首を出し左右から青い・赤い爆発物!


 両手と刀で防御するも至近距離すぎて六花がビルから放物線状に吹き飛ぶ!

 一瞬衝撃で意識が飛びそうになるが、鍵の加護でダメージは防いだ!

 目を開く、自分の位置、着地、反撃…考えてたら


 ぽふん!


 想定より早い着地と謎の感触。

 六花は上体をあげ、手で確認する。


「月巴の結晶結界が…飛んでる…」


 元々センスはあったのだろう、六花の動きも把握出来てるのかもしれない。

 八咫烏を大きくし、六花を乗せていた。


 さっきの様な攻撃が月巴に向いたら危険だ!

 仕留める!

 六花の意図を組んで結晶の鳥が六花とリンクし、逢禍に高速で飛んでいく!


「飛花落葉!!!」


 逢禍2体を屋上の施設ごとまとめて斬り祓う!


 斬られた箇所から二体とも枯れていくように散っていく。

 一先ず六花は散った魂に祈る。

 逢禍になった魂に罪など無いのだから。






 背伸び疲れた…


 挟撃された六花を背後から防御し、その後花火みたいに吹っ飛んだ六花を八咫烏で受けた。


 次の技で決めにかかるだろうから、六花の動きにリンクさせて、斬られた逢禍の下辺りに結晶仕込んで残滓も残さない。


 あ、六花が帰ってきた。

 ハグの予感!

 ガード!

 止めた!けど露骨に両手で胸掴んじゃった!


「…家に帰ってから//////」


「ちゃうわー!ガードしただけ!」


「六花はハグでダメージ回復するのー!」


「いやいや、神衣にその機能ついてるだろ!それより、怪我人出てるけど、組織に任していいのか?」


「組織っていうと不審なイメージしかないけど大丈夫です!多分!多分…」

なんで目を反らしたし。




《社》のサポート班と言われる舞台は優秀で日常どこにでもいるようなサラリーマンや通行人、警察、救急隊員として混じって速やかに怪我の手当、情報の規制、情報漏洩の規制などをやってのけるサポート組織。

 この縁の下の力持ちによって何事もない明日が来るらしい。

情報規制とかどうやってるんだ?





 帰った時には22時を回っていた。


 話の経過を聞いてほっとする小町。

 今日は超珍しく小町も六花の部屋に泊まるらしい。


 風呂から上がった小町に息を呑む。

 下着とシャツのみなんだが…出るとこ出てて凹んでるとこはキュってなってて凄い!


「あたしの方が好みかにゃー?♫」


 小町がポーズ作ってにやにやしてる!

 肝心の六花は人を台無しにするソファで台無しになったからそのまま寝かせる。


「なぁ、小町。先日Blu-Ray見に行ったとき六花が勝手に小町の家入っていったんだが、あいついつもああなのか?」



「う―――ん…言っていいのかなぁ…」

「通報案件じゃなけりゃ」




「あの子…元々捨て子で夏月大社の宮司さんに拾われたって話…聞いた?」


「うん、それは聞いた」


「そして7歳にして巫覡の仕事を始めたの。また小学校の年なのに。適性があるからって、酷い話でしょ?だからその頃≪社≫の食関係の仕事をしていた両親がそれを見て養子縁組にしたの。だから私の家は=六花の家なんだよー」



 だから勝手に入っていったのか。


「最初ウチに来た時暗くてね。巫覡の仕事が人を祓うというより人を殺めてるってイメージが強かったらしくて思いつめてたね。心開くまで時間かかったなぁ…隙見ていじめられたりして…いじめから六花を庇ったり、美味しいご飯とスキンシップで甘々に育てて、漸く心を開いたのが中学の時だったかな?」


「小町と六花ってもしかして同い年?」

「そうそう、戸籍上六花が妹って事になってるけどね!」


「名前は初瀬川?駒鳥鵙?」

「一応は駒鳥鵙だけど、どっちでもいいよ!って言ってあるの!で、陰キャ暗黒期から中学にあがって友達とかも少し増えてね。私が意識的に一緒にいるようにしたら結構明るくなったと思う。蝶よ花よと育てたなー!」



「そんな過去が…少し甘々にしすぎた?」


「私もたまに厳しくするけど掃除は好きだし高校卒業して独り暮らししてから、お礼って名目で親の口座に毎月お金振り込んでるのよ?」


「掃除、確かに行き届いてた…お金まで律儀な奴だ」


「でしょ?そんなに駄目な子じゃないのよ、だから、あの子の事宜しくね?姉として愛おしく大切に育てたつもりだから」


「…うん」


「あと、体育祭パン食い競争消滅事件とか謎の隠し部屋大出血事件とか、大激突!小町vs六花!はまた後日話すね!」

 今話せや―――!めっちゃ気になる!!!



 その日は六花がソファから起きなかったので毛布だけ掛けてやって、ウチは小町と一緒にベッドで寝た。


 次の朝、案の定六花がヤキモチを焼いて小町を起こそうとするも小町の緑のスリッパで殴られたのは言うまでもない。


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