〈第三章〉Side:緒方正剛 a Cardinal Ⅰ


「池袋駅西口」を出て山手通り方面に少し歩いて行くと五差路が見えてくる。


その五差路の近くには、僕が、学部時代からよく飲みに行っているバーがあった。


予言者コウジョウの”ご宣託”から始まったこの”終わり”も、そろそろ終幕に差し掛かっている。


僕は、この三日間、生きている人間とは会っていない。


誰もいない。

僕だけがいる。


今の僕の視界には、“白”が、静かに降り積もり続けているだけだ。


学部を卒業し大学院に進み、今年になってようやく、僕は博士号を取得することができた。


博士課程に進学し、30歳を過ぎても学生を続けたことについては後悔はない。


学部時代の同期と比べても比較的穏やかな時間を過ごすことができた。


彼らが、就職した会社で忙しくしているのは、月一回程度の飲み会を通じて知ることができた。


朝起きて、夜遅くまで仕事する。


当たり前のことかもしれないが、その彼らの日々の行為に価値を見出すことができなかった。


おそらく、そこに彼らの主体性を見出せなかったからだろう。


主体性なく他者の価値観に支配され、自らの時間を空費している。


僕にとっては、耐えることができない行為だ。


僕の専門は、「理論社会学」である。


そもそも社会学自体が、よく分からない学問分野と言われているが、それに輪をかけて「理論社会学」というものも得体が知れない。なぜなら、経済学や法学等の分野とは異なり、「社会学者」を名乗る者の中でも統一された理論的支柱というものは、社会学の分野にはないからだ。


予言者コウジョウは、僕の学部及び大学院の先輩にあたる。


僕は、一定以上のシンパシーを感じている。


いや、シンパシーという言葉では足りないだろう。


もはや”崇拝”といっても良い。


僕は、[予言者コウジョウ]を”崇拝”していた。


彼の著作及び論文はもちろん、彼が書いたと言われるモノは全て収集している。


その中には予言に関するものもあった。



だからだろう・・・僕は、いずれこんな“終わり”が来るだろうと思っていた。


それは、漠然な不安と微かな期待と言えた。

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白チ世界〈出版記念改訂版〉@『アインが見た、碧い空。』 Brain B. @kislegaloffice

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