〈第二章〉Side:姫川京子 a Girl Ⅰ

ふと、空を見上げると、そこには真っ白な「世界」が広がっていた。



どこまでも真っ白な「世界」。

本来の色を否定する真っ白な「世界」。

全ての感情が白く塗りつぶされていく「世界」。


白い結晶が、空を舞っている。


わたしは、その光景を美しいと感じることに、どこか後ろめたさの様なものを覚えながら、白く染まった立教通りを歩いていた。


目的地は、大学図書館。


今は、人の気配がないキャンパスであっても、大学図書館は機能していた。


いや"機能している"というのは、わたしの主観にすぎない。


だって・・・本当は、本の貸出などは行われていないのだから・・・。


実際は、わたしが、ただ勝手に本を持ち出しているだけだ。


それでも、やはり、わたしにとっては、図書館は"機能している”と言えた。


終わりゆく「世界」では、主観こそ唯一の基準となってもよいと思う。


それぐらいのわがままは、許してもらいたいたかった。


大学の正門を入ると、蔦が茂った赤レンガの「本館」が目に入った。


初めて大学のキャンパスに入ったときは、池袋駅から少し離れたところにあるとは思えない”異国感”に、自分がどこにいるのか、一瞬わからなくなった。


わたしが、大学に入学したのは、半年前だった。


つまり、前期講義しか受けていないまま「世界」は白に染まっていった。


国レベルの緊急事態宣言は、夏休みの間に始まった。


大学は、後期講義については、オンラインで対応すると発表したけれど、結局はそれもほとんど実施されることはなかった。


ただ、一部の先生が、自主的に独自のオンライン講義を続けてくれていた。


わたしが受講している『多文化社会Ⅱ』もその中の一つであり、この講義は、毎週金曜日三限に、Web会議システムを使用して開講していた。


今では、先生とわたしの二人だけの講義となっていたけど、わたしにとっては、唯一“他者”とのつながりを認識できる機会となっていた。

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