〈第一章〉Side:私 a Man Ⅴ

まるで吹雪のように白い結晶が、私の足下で走り回る。


それを目で追うと、池袋駅北口の階段前で駅頭(駅前で演説)をしている男に目がいった。


確か、彼は豊島区議会議員のオオバヤシだったか……。


保守系無所属で若い層からの支持を得ていたはずだ。


この白い世界では、もう選挙もなく、また議会も開かれることがないだろう。


豊島区民さえもほとんど生き残っていない。

それこそ、両手で数えられるほどかもしれない。


それなのにオオバヤシ区議は、駅頭を続けている。


その姿に……私は、嫌悪とも賞賛とも判別がつかない感情を抱いた。


この感情は、今私がいる「世界」にひどく似合っているように思えた。


すべてが曖昧になっていく「世界」においては、好悪の感情さえも混ざり合っていく……。


この「世界」を誰が創出したのか、はわからない。


この「世界」の創出を予め示唆していた[予言者コウジョウ]自身の愉快犯的行為であるという見解がマスメディア等の“大きなメディア”の通説となっていた。


ただ、此の期に及んで、私自身が、この「世界」に救いのようなものを感じている。



〈予言者〉は、〈救済者〉となり、〈造物者〉に至る。



かつての「人」の残滓である白い結晶は、本来であれば嫌悪感を覚える対象なのかもしれない。


しかし、私には、その白い結晶を美しく感じている。


まるで、自らの一部のように……愛おしさまで感じ始めている。


それは、おそらく私自身が、白い結晶に近づいているからだろう。


身体同化。

境界融解。


だからこそ、この美しく愚かな白い世界で、また自らの日常を取り戻したくなった。


次に、彼女……智雪麗と会ったなら、彼女の永住許可申請を受任しようと思う。


それが、私の倫理にしたがった“正解”だと思う。



だからこそ……



まだ、私は生きていたい。





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