〈第一章〉Side:私 a Man Ⅳ
乾いた破裂音がし、塩のような白い結晶が、私の左頬をかすめていった。
また、誰かが……“終わった”のだろう。
今この世界を覆っている[白]は、光に反射して美しく輝いている。
この白い世界は、残酷までに美しいと思う。
[白]は、人の成れの果て。
もうすぐ私も、この白い世界の一部になるだろう。
そう言えば、この前事務所に来た彼女は、どうしているだろうか?
彼女は、私が永住許可申請の依頼を断ると、そのまま黙って事務所を出て行った。
あの私の態度が正解かどうかは分からない。
ただ、職業倫理として許可されるはずもない申請について受任するわけにはいかなかった。
此の期に及んでの職業倫理。
此の期に及んだからこその職業倫理。
人を最後に律するのは倫理という名の自己満足であり、それは、耐えることができない偽善性である。
だったら彼女の願いについてもっと向き合ってもよかったのではないか?
いずれ私も白い世界の一部になるのであれば、その直前まで何かに向き合ってもよいのではないか?
そんなことが頭をよぎっていく。
いや……やはりそれも……
自己満足か。
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