第76話

「なんなんだよこれ」

 なにがなんだかわからなかった。

「なんで思いだせねんだよおお!!」

 持っていた傘を水たまりに投げつけて、

 泥水が跳ね、

 雷が鳴り、雨脚がつよまってきた。

ズズズ。

 家に帰ってミルクココアを飲んでいた。

 甘いのは好きじゃないのに、なぜだろう飲みたくなった。

体と心を温めたい、そんな氣持ちになっていた。

 ココアを飲んでいると、何かの優しさに触れているそんな氣がする。

 そうだ。

 飾ってあった、コルクボードに目を向ける。

色んな写真が貼ってあった。

 俺が一人で写った写真がちらほらある。

 なんで、こんなのを貼ってるんだ。

 自分の姿を撮りたい。思うはずがなかった。

 そんな趣味なんてない。

 なぜだか、誰も写っていない場所だけの写真があった。

 残したくなる風景写真でもなくて、

 撮った理由がわからない。

 クリスマスの写真に目がいった。

 近所の子供、志乃さんと俺が写ってる。

 なんなんだ? この組み合わせ。

 絶対になにかおかしい。

 パズルのピースが組み上がらなかった。

 記憶が抜けているとしか思えなかった。

 

 志乃さんなら、なにか知っているかもしれない。


 土砂降りの中、走ってた。

 どうして、こんなことをしているのかわからない、

 けど、そうしなきゃいけない氣がするんだ。

 自動ドアが開いた。

 マンションの入り口、部屋の番号を押す。

「はい」

「志乃さん、突然ごめんなさい、かずきです」

「え? かずきくん? どうしたの?」

 連絡もなしに来たため当然だろう、少し戸惑う声が応えた。

「どうしても聞きたいことがあるんで、あげてもらっていいですか?」

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