第75話

 今日の天氣は良くないけれど、出かける準備をはじめた。

 棚に畳んで置いてある青いカッパを着ようと棚の中を覗くと、その隣、一回り小さく黄色のがあった。

 なんだこれ?

 手に取って広げてみると、子供用のカッパだった。

「なんで、こんなの……あるんだよ」

 そういえばと思って部屋を探ってみる、いたる所に子供用の物があった。

「なんで……」

 買った覚えがない物ばかり。

 訳が、わからなかった。

俺は一人で暮らしてるはずだ。

 氣持ちが悪い。

 子供服を握っていたが、それを拒絶するように手放した。

 なぜだか息が苦しくなった。

 部屋をでることにした。

ガチャ。

 なぜ、あんな物が部屋にあるのだろう。

サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺の部屋に子供がいた。

カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。

 いや、いない。

サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺は子供と住んでいた。

サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いや、住んでない。

パシャ。

 そんな記憶はどこにもない。

サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 けれど。

 けれど足りないものって、

 考えれば考えるほど、子供がいたことに

 ならないか……

 志乃さんと初めて会った公園に来た。  

あの時の公園のようだった。

 空が泣いてる。

 傘を閉じ、上を見た。

 雨粒が顔にかかった。

 灰色がどこまでも続いてる。

 また傘をさしてから顔を手で拭うと、なぜか温かいものが雨水に混ざっていた。

目から涙が流れてる。

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