第74話

また、雨の降る時期がやってきた。

 朧氣な意識の中で、雨の音が耳に聞こえてきていた。

 目を開けると窓の外でぽたぽたと雫が垂れているのが見えた。

 起きだして、布団を二つ押し入れにしまい、トイレを済ませて、米を二人分とぎ炊飯器のボタンを押した。

 鍋に水を注いで豆腐をいれて、ダシの素をいれて沸騰したら味噌を溶かした。

 卵焼き、サラダ、味噌汁にご飯をちゃぶ台に二人分、手を合わす。

 日常だ。

 いつものとおり。

 そのはずなんだ。

 けど、明らかに違ってる。

 なにが、違う?

 違和感がある。

 何か足りないような氣がした。

 部屋を見て、ちゃぶ台の上を見た。食べかけの朝ご飯が並んでいる。隣には子供が食べるくらいの量の朝ご飯が置いてあった。

 そういえば、なんでこんなに作ったんだろ、一人暮らしのはずなのに……

しょうがないので、余った分はラップをしとく。

「ボケてきたかな」

 そう独語しながら雨を眺めてた。

電話がチリリリリリン、チリリリリリン、と鳴り響いた。

 近づいてとる。

「もしもーし」

「おう、鉄二か」

 鉄二だった。

 しばらく、佳奈とお腹の赤ちゃんがあーだこうだと話を聞いていた。

「この前来てくれてありがとな」

「おう」

「あいつにも礼、言いいたいから替われるか」

「あいつって誰だよ?」

「ほら……」

「行ったの俺一人じゃないか」

「すまん、そうだったな。……あれ?」

「なに言ってんだよ」

 電話を切って、やっぱりなにかが足りないと思った。

 握った電話をしばらくただ眺めてた。

「なんで、鉄二のとこに行こうと思ったんだっけ……」

 佳奈の様子を見に行こうと思ったはず、けどなんであの日に行こうとしたのか思い出せない。

 なぜ、思いだせないんだろ。

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