第77話

「わかった、大丈夫だよ」

 自動ドアのロックが解錠されて、エントランスホールを抜ける、廊下を水を垂らしながら小走りに急いだ。

 廊下を汚すことなんてお構いなしだ。

 エレベーターをつかい三階に上がって、305号室のインターホンをグッと押す。

 ドアが開いた。志乃さんが俺を見て心配そうな顔をする。

「志乃さん昨日会ったとき、俺たちって二人でしたか」

自分でもおかしなことを聞いているのはわかってた。俺の中では昨日、志乃さんとふたりで遊園地に行ったことになっている。けど、どうしても氣になった。

「う、うん、そうだね。なんで?」

 志乃さんはそんなことを聞く理由がわからないとでも言いたげな表情をつくった。

俺は、なんでと言われ返答に窮した。

「どうしたのよ……ずぶ濡れで」

 何遍、思い返してみても、この人と会うときは絶対にもう一人いた。

「昨日、何をしたか覚えてますか?」

「え、二人……で……二人? あれ?」

 志乃さんは頭を抑え、下を見た。

 やっぱり、なにかがおかしい。

「そうだ、この前のクリスマス。クリスマスパーティーを何人でやったか覚えてますか?」

「私と、かずき君とカレンちゃんと、悟大君の四人でしょ?」

 俺もそう、記憶している。

 けれど、

「きっと、もう一人いたはず……いや! 絶対にいました。だっておかしいでしょ、あの子らと俺たちがクリスマスパーティをする理由が無いですよ!」

「え……」

 志乃さんは答えられない。

「昨日だって、そうだ! 俺が志乃さんとなんで遊園地に行ったのか俺は覚えていない!」

 志乃さんはただ俺の目を見てた。

「絶対に、もう一人いて、そいつが俺たちを誘ったんだ! そうとしか思えない!」

「かずき君……」

 漠然とした志乃さんを見て我に返った。

 これじゃあ不満をぶつけているだけだ。

「すいません、ありがとうございました」

目を伏せてそう言った。

 帰ることにした。

 ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。

 誰、なんだろう。

 俺はいったい誰を探しているんだろ。

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