第68話

ガチャ、と部屋に鍵をかける。階段を降りようと下に目をやる、背負ったリュックの肩紐を握りしめて、はやくはやくう、と陽太が足踏みをして待っていた。

「ちょ、待てよ」

 青い空。駅まで歩き、大人と子供用の往復切符を買って電車が来るのをしばらく待つ。

 電車に揺られ、流れる景色を眺めていた。

 最寄りの駅に着いて、しばらく道を歩いた。

 陽太が、道の端っこによる。

「あ、これもしかしてたんぽぽ?」

 昨日見たものとは違う姿形だ。ここいらのタンポポの頭は白くなっていた。

「そうだな」

「こんなんなるんだ」

「よくわかったな」

「葉っぱが一緒だもん、それにかずき昨日いってたし」

 かずきは二本手に取って、片方を陽太にわたす。

「真似してみ」

 陽太はかずきを見よう見まねに、

 たんぽぽにふうーと息を吹く。

 丸くついてた種たちは、茎から離れ、

 綿毛がふわり、と風に乗る。

 ふわ ふわ ふわ ふわ ふわ

 ふわ ふわ ふわ ふわ ふわ

 ふわ ふわ ふわ ふわ ふわ

 ふわ ふわ ふわ ふわ ふわ

 青空を背景に雲が流れていくように。

 海を漂う、流木のようにゆったり。

 飛ぶ鳥のように羽ばたき、大きな空へ。

「ばいばーい」

 陽太は綿毛に手を振る。

 どこまでも、

 どこまでも、

 綿毛は飛んでいくようだった。

 旅に出かけた彼らは、どこにたどり着くのだろうか。

 どこに行くのかわからない、己自身で行く場所を決めることができない。

 運まかせ。

 なんと残酷なのだろう、かずきはそんなふうに思った。

 全てが自分の意のままになるわけではないけれど、自分の進みたい方向を決められるのは幸せだなとも思った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る