第66話

公園のベンチでかずきは座っていた。

 頭の後ろで手を組んでた。

 空は晴朗。

 黄色い花が咲いている。

 緑と黄色。

 ギザギザとざん切り頭の花びら。

 しゃがみ込む陽太の視線の先に、風に揺れるタンポポ。

「これ、なんて名前なの?」

 近くのかずきに話しかける。

「タンポポ」とかずきが答え。

「たんぽぽ」と陽太は繰り返す。

「もう少ししたら、黄色い所が白い綿毛になって飛んで行くんだぞ」

「どこに飛んで行くの?」

「さあな、風に乗っていくだけだから、ほんの近くか、はたまたどこかすごい遠くの場所に飛んで行くんじゃないか?」

「ふーん」

 下の方から赤いナナホシテントウがちょこちょこと登ってきてた。

 口角を上げながら陽太はじーっと眺める。

 テントウムシははねをひろげて青空の向こうへいった。

「飛んで行っちゃった、かずきは飛べたらどうする」

「ん」

 かずきは空を見ながら少し考えた。

「なんもしねえな」

「くっ」

 今にも笑い出しそうなのをこらえる陽太。

「あっはっはっはっは!」

 我慢できずに笑いだす。

 ダムが決壊して水が溢れ出すような勢いの笑い声だ。

「そんなにおかしいか? 飛ぶなんて俺はそんなに特別なことだとは思わないな、歩けるのと一緒なくらいの感じだろ飛べる奴らにとっては」

「そうだね」

 笑いが少し収まって、目から出た涙を拭う。

「お前こそどうなんだよ、飛べたらどうしたいとかあるのか」

「とりあえず飛んでみて、それからー……わかんない!」

「俺と似たようなもんだな」

 かずきは少し笑って言った。

 新緑の間をぬけて、ここちよい風が吹く日であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る