第61話

 楽しかったって思えたらいい。

 別に幸せになりたいなんて願望はなかった。

 ただ、今、俺と関わってくれている人たちがずっといる、

 変わらない毎日が

 穏やかな日常が

 ああ、

 これが幸せってことなのか。

 そうかもな。

 そんな生活わるくない。

 うん。

 わるくない。

「もし……僕がいなくなったらどうする?」

 陽太の言葉が耳に入って、少し考え過ぎていたのだと氣づいた。

「家に帰るのか? それならそれでいいだろ、会えなくなるわけでもないし」

「会えなくなったら寂しい?」

「そうだな」

 二人で横になりながら窓の外、雨模様を眺めていた。

 原付バイクの音が過ぎて。

 窓枠に

 切り取られてる

 灰色の空。

 少しだけ肌寒い。

 四肢が鉛のようだった。

 一人だけになりたい時もある。

 今ちょうど

 そんな氣分だ。

 一人ならきっと涙を流していたんじゃないかな。

 人を想って涙することはわるいことじゃない、むしろいいことだ。

 けど、こんな時、誰かが一緒にいてくれるって悪くないなとも思う。

寂しさが紛れてくれる。

 泣くことで癒やされるから涙は落ちたがるんじゃないか。

 誰かがそばにいてくれて癒やされるから泣かなくてすんでいるのかもしれない。

 ただのやせ我慢かな?

 一人だときっとあの人のことばかりを想うんだろう。

 辛い。

「かずきぃ、ココア飲みたい」

 布団から起き上がる。

 俺も飲もうか。

 一人だったら飲まなかったな。

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