第60話

「先生、俺もう死にたいんです」「なんで?」「もう充分生きたし、年とって醜くくなって生きていたいって思えなくて、楽しいことも沢山経験したと思うし、これ以上遊んだりしていても同じことの繰り返しかなって」「ふ、はっはっは!!」俺は高笑いをしてる先生をただ見てた。「十五年ちょっとしか生きていないようなやつが人生のなにがわかんのよ、もう少し生きてみて、もっと世の中を見てからにしな、大人になればね、今よりももっと広く物事がみえるようになるから」先生がそう、笑顔で言ったのを思い出していた。

 桜も散って、葉桜に。

 雨が降ってる。

 少しだけ残った桜の花も水に流されていた。

「元氣でない?」

「んー」

 昼を過ぎても布団を敷いたまま横になっていた。

 先生が亡くなったとの知らせが届き、なにもやりたくなくなっていた。

 このまえ会ったとき、あんな元氣そうだったのに。

 河川敷の石になったそんな氣分だ。

 誤って落ちてしまった、溶けたアイスのような氣持ちだ。

 陰鬱が心の中に広がっていた。

 氣持ちが落ちているからなのか、体温も下がってるような氣がする。

 ずっとスッキリしない寝起きのまどろむ感じ。

「死んだらどうなるの?」

 陽太からいつものように質問がくる。

「知らね、天国に行くのか地獄に行くのか完全な無になるのか、生きてるやつにはわからないことだな」

「わからないから怖がるんだろうな」

 天井を見ながら言った。

「死んだら、もう誰とも会えないの?」

 陽太も布団をそのままにしていて、こっちを向いて寝転んでいる。

「さあなあ、死んだら会えるのかもしれないぞ」

 死んだ後、また会えたらいいな。

「会えなかったら寂しいね」

 またあの人に会いたいな。

「寂しくて死ぬかもな」

 また話したい。

「死んでから、また死ぬの?」

「ああ、」

俺はいつまで生きられるんだ。

 いつか病氣になる可能性だってある。

 事故に遭うことだってあるかも。

 そうしたら、どうなるんだろ。

 生きていてよかったなって思えたらいい。

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