第56話

「みて」

 カレンの指の先ベンチには、ベージュのコートを着た中年の女性がぐったり横になっていた。

「大丈夫かあの人」

 悟大は黒い毛糸の帽子を上に少しずらした。

「話しかけてみよう」

 白の帽子をかぶった陽太が歩み出した。

「え」

 赤い耳当てをしたカレンは陽太を見やる。

 陽太はドンドン近づいていく、話しかけた。

「どうしたの?」

 女は顔を上げて薄目を向けてきた。

 顔は青ざめ、目の下にくま、顔の生氣は失せていた。

「具合悪そうだね」

 陽太は女性の様子を口にした。

「おばさん、だいじょうぶか?」

「具合悪いの?」

 悟大とカレンが話しかける。

「寝られなくて、つらいのよ、あと私まだ二十代だからね」

「なんで寝られないの?」と陽太。

「そういう体質なの、心配してくれてありがとうね、そうだ」

 女性はカバンに手を入れごそごそしだす。

「はいどうぞ、バレンタインはちょっと過ぎちゃったけど」

 チョコレートを子供たちに渡していった。

「毒入り?」

 と悟大がチョコを手の平に乗せていった。

「悟大君! 失礼だよ」

 カレンが悟大を見ていう。

「白雪姫の魔女じゃないんだから、入ってないから」

 女性は笑う。

「あなたにはもう一つあげちゃおう」

 カレンはチョコをニンマリとして受け取った。

 ベンチに並びチョコを食べはじめる四人。

「チョコを食べるって幸せよねえ」

 と女性はうっとりとして食べていた。

バレンタインか……

「典明君転校するんだってよ」

 美優ちゃんがそんなことを話し出した。

 典明君は、小学校のクラスメイトの男の子。

 別に、クラスで人氣があるわけでも、運動ができるわけでも、勉強ができるわけでも、

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