第53話

「はい、悟大くん」

 カレンはチョコを渡そうとした。

「いらなーい」

 カレンには目もくれず、手に持った車をベンチという道路で走らせるのに夢中だった。

「え、……じゃあいい!」

 カレンは唖然とした後、そっぽを向いた。

もう一人、ブランコをこいでいる少年の方へ行く。

「はい、陽太くん」

「じゃあ、僕もいらない」

「え……」

 カレンは瞳をうるうるさせ、泣きそうになっていた。

 しばらく後で、男の子二人はベンチでチョコレートを食べていた。

「ってことをしたらしいです」

 とかずきは志乃に話した。

「陽太くん、女の子にいじわるしちゃだめだよー、そんなだったら、このチョコあげるのやめようかな」

 志乃は紙袋からチョコの入った箱を取り出し、陽太に見せつけるようにした。

「え」

 陽太は箱をじっと見ながら固まっている。

「断られたカレンちゃんの氣持ちを考えるんだな」

 とかずきは一人、貰ったチョコレートを口に入れる。

 バレンタイン。 

 今日はバレンタインだ。

 バレンタインという日を意識なんてしてこなかった。大人になって働きだしてからは、付き合っていた女性に貰うくらいだ。職場の人に義理チョコを貰うってこともなかった。まあ、好きな人から貰えるだけで充分すぎる。

 学生の時も、チョコを貰うとかは殆どなかったな、

 そういえば、

 小学生の頃、同級の女の子からチョコレートとマグカップを渡された。

 その時はどんな意味があるのかわからずに、マグカップをその子に突き返していたっけ。

 俺のこと好いてくれてたのに、ひどいことをしてしまった。

 まあ、しょうがない。

 その当時、意味がわからなかったんだから、許してほしい。

 こんなんで、人の氣持ちを考えろとか言えないな。

 店内にBGMが流れてる。

 買い物かごをカートに乗せて、人が行き交っている。

 色とりどりの野菜コーナー、におい漂う鮮魚コーナー、肉売り場、飲み物売り場、調味料、揚げ物サラダ、レジの音。

 陽太はかずきとスーパーに来ている。

 はずだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る