第34話

スーパーからの買い出しの帰りにかずきはポストの確認をした。

ステンレスの郵便受け、部屋番号と名字が並ぶ。

 開いたら、数枚のチラシの上に一通の手紙があった。

 珍しいな。

 かずきはそれを手に取って、裏を返して差出人を確かめる。

「お、先生だ、なんだ?」

 高校の時の先生だ、手紙が来るなんて初めてのことだった。

 何年か前に電話で話したきりだ。

「かずき、部屋入ろ」

 陽太がかずきのズボンを引っ張った。

「ああ、そうだな、わるい」

 残ってた見ないチラシを買い物袋に突っ込みポストを閉めた。

 かずきと陽太は階段を上がって、部屋へ入った。

 手を洗い買ってきた物をしまってから、座布団に腰を落ち着けてかずきは手紙を開く。




 畑野 元気にしていますか?

おどろかせて申し訳ないけれど、先生、脳にガンがあることが先日検査してわかりました。今のところはなんともなくピンピンしていますが、治療や手術をしても絶対に治るということではないようで、会って話がしたいと思いお手紙を送ることにしました。

 急な話でごめんなさいね。




 黙って手紙を封筒に戻した。

胸いっぱいに空氣を吸って、ゆっくりと吐き出した。

 しばらく窓を眺めてた。

 茜色から紺色へ。

「どうしたのかずき?」

「ん」

「なんか元氣ないけど」

 照明にぶら下がる長い紐を引っ張り、陽太は部屋の電氣をつけた。

「わるい、明日の動物園今度にしよう、朝から出かけないといけなくなったわ」

「うん、公園でも行ってくる」

「夕方には戻るから」

「はあい」「お腹すいたよ」

「シチュー作るか!」

 かずきは立ち上がった。


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