第20話

「あ、みて!」

 と陽太がいう。

 民家の前に止めてある車の下に、一つの淡い光があった。

 三人はしゃがんで車の下を覗く。

「今日の貴重な蛍かもしれないね」

 志乃が言う後に陽太が、

「かわいい」という。

「一匹見られただけでラッキーだったかもな」

 三人は一番出るというポイントに再び行って、いないなら帰ろうか、と話をした。

「きっといるよ」

「いたらいいな」

「あそこ!」

 陽太が言った。

 今度は、道の横の草が生えてるあたり、一匹の蛍がわずかな光を発していた。

 まわりが暗いと小さな火でも目立って目を引いた。

「ほら、いたでしょ」

 と陽太は腰に手を当ててそういった。

「本当だな」

「もう少し行ってみましょうよ」

 一番のポイントからは少し離れてるため、三人は先に進むことにした。

 川の茂みに小さな光がいくつかいる。

「そろそろでてくる頃かな」

 とかずきがいう。

 ちらほら光を明滅させ、ゆらり、ゆらりと飛んでいる。

 時間が経つにつれ、だんだんと蛍が顔をだしてきた。

 うばたまの闇の中を小さな灯りがふわりとゆき交う。

 ふわー

 ふわー

 ついては、消えて、ついては消えて、行ったり来たり。

 一つの茂みに複数の光がついている。

 光の果実が実っていた。

 一粒がゆらゆらと飛んで陽太の手のひらに吸い寄せられるようにとまった。

 静かなあかりが小さな手を照らしてる。

 そっと、手が閉じられる。

「連れて帰っちゃだめかな」

 陽太はかずきを見てそういった。

「すぐに死んじまうし、連れてったら可哀想だろ。離してあげたほうがいいな」

 閉じられていた手が開かれる、光は、ゆらり、離れていった。

 蛍火はふわりふわりと闇夜(あんや)を迷う。

 しばらくの間、三人はほのかな光たちを眺めていた。

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