第19話
レンガの壁と自動販売機が一つ。天井に吊り下げられた扇風機に鳥が巣を作って行ったり来たり。こぢんまりした田舎の駅だ。
日はまだ落ちていないので、蛍を見るのに少々早かった。
話したり、ぷらぷらとして蛍たちが活動する時間まで待つことにした。
青みがかった、
赤みがかった、
まだ咲きかけのあじさいは黄緑だ。
ほんのりと香る虫除けのにおい。
夕暮れ色の世界に長く人影三つ。
コンクリートの細い道、そこだけ白くなったみたいに続いてる。
「ここら辺に出るはず」
川沿いを歩いていたが、かずきがいった辺りは草が生い茂り全くといっていいほど川が見えなくなっていた。
ただ、せせらぎが耳に届いた。
風がふく。
ザー
梢を鳴らす。
草が揺れ。
志乃が口を開いた。
「なんか蛍って風が強いと隠れちゃうって聞いたことあるよ」
「え、そうなんですか、んー」
腕組みをするかずき。
「きっと見れるよ」
陽太はいって、どんどん先に進み、二人はその後に続いてく。
暮れなずむ空が群青色に染まり雲が影を縁取っていた。
もう、姿を隠した夕陽が山の裾から微かに橙色を漏らしていた。
外灯がつき始め、
鈴虫か松虫かカエルの声が聞こえるが蛍はいまだ出てこない。
「いつでるの?」
陽太は二人に問いかけ、
風はまだ吹いている。
志乃がつばの広い帽子を押さえた。
「今日、厳しいかしら」
「日没から2時間ぐらいしたら出るはずだけど、もう少し待とう」
三人はぶらぶら歩く。
完全に日が落ち、世界は闇色に変わった。
電灯の明かりが田んぼに映っている。
しばらくしても、蛍の姿は見当たらない。
「いないね」
志乃がそう言葉を零す。
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