第14話

「ああ、そっちね」

 志乃は笑顔を薄く作った。

 かずきはベンチに座りながら黙ってる。

「昨日は、色々思い出して泣いてたの、好きな人とは三年前にお別れしたから、今はそんなに落ち込んでるわけじゃないよ」

「三年も、悲しんでたの?」

「そんなことない、けど……ふいに愛おしいって氣持ちが溢れる時があって、泣くこともあるってだけ」

「凄く好きな人だったんですね」

 かずきが言った。

「うん、心から愛してた、今でも……愛してる」

 そう口にした横顔はどこか物憂げに見えてしまう。

「じゃあ僕も、志乃のこと愛してあげる」

 満面の笑顔の陽太。

 ぷっと志乃はふきだす。

「アハハ、嬉しいこといってくれて、ありがとう」

パアと笑顔になったその人を見て、かずきは笑った顔がよく似合うと思った。

「ついでにかずきも愛してあげるよ」

「俺はついでかよ、愛っつうのはそんなバーゲンセールするもんじゃねえぞ」

「バーゲンセールってなに」

 しばらくの間お喋りをしていた。

雨はいつしか晴れていて、

 雲間から光が落ちて、綺麗な空だ。

「かずき、あれ乗りたい!」

 観覧車を指さす。

 ゆっくりと丸く、丸く回ってる。

 並んでる人が全然いなかったから、すぐに案内されて、

「わあ、高いよ」

「まだ高くなるぞ」

 陽太は座る所に膝立ちになって外を眺めていた。

「あ! 見て」

 かずき、志乃は陽太が眼差しを向ける先、窓が切り取るワンショットに顔を向けた。

 大きな虹が架かってた。

 はっきりとした七色の光の橋が雲たちの隙間からさした光と相まって、目も覚めるほど美しい光景が三人の目に映る。

虹と灰色の雲、光、それだけ見ると天国にでもいるんじゃないかと思えるような景色だ。

「きれい」

志乃は口から言葉を零す。

「かずき、あれなに!」

「虹だよ」

「きれいだね!」

「だな」

 陽太の目もキラキラ輝いていた。

「あの雲の隙間から落ちてくる光があるだろ、あの光景をある人は光のパイプオルガンって表現したらしい」

「きっとあの下で誰か死んでるんだよ」

 と陽太。

「雰囲氣をこわすことを言うな」

 志乃はクツクツと笑った。

「元氣になった?」

 陽太は志乃の方を見て言う。

「うん、今日来てよかった」

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