第13話

「本当に良いのか?俺で?」


レイヤの質問にアリスはレイヤの服を掴んで、赤く染まった長い耳をぴょこぴょこと動いていた。


「ご、ご主人様じゃないと嫌です」


「うう、そう言われると恥ずかしい」


レイヤも照れてしまう。そしてアリスの2人きりで教会に向かった。リン達は今日は宿でゆっくりと休暇を取っている。


「いらっしゃい...おや?その子は?」


「えっと、この子と結婚の儀を交わしたくて」


「あれ?気のせいかな?先月、3人の女性と結婚したばかりだと記憶をしているのだが?」


「正しいと思うぞ?」


「...君は良くモテる様だね」


そしてウルトレンは少し呆れた表情で儀式を始める。


「ちゃんと真名で名乗る様にね。愛の女神アフロディーナよ、ここに結婚の儀を開始いたします。新婦の名を女神アフロディーナに教えよ」


「アリス=スフィールマン」


「スフィっ... 新郎よ、名乗りたまえ」


「カグラザカ・レイヤ」


「カグラザカ・レイヤは、アリス...ん?アリス?!いや、アリス=スフィールマンを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、女神アフロディーナに誓いますか?」


「誓います」


リン達と同様にアリスの薬指に印の様な紋章が浮かび上がる。すると手の甲にあった奴隷紋が消えてゆく。


「これで貴方達は無事夫婦となりました」


「ご主人様、こんな私で本当によろしかったのでしょうか?」


「今更何を言う?アリスの事をまだ知らないけど、それでも俺はアリスのどこかに惹かれたんだろうな。だって、あの時他の捕まった人達よりアリスの事しか目に入ってなかったからな」


レイヤはニシシと恥ずかしそうに笑った。無事夫婦となった2人はリン達の所に合流する。取り残されたウルトレンは独り言を呟いた。


「アリス=スフィールマン。森国の大七王女でもあり、守護神アテーナーに加護を与えられた聖女アリス...だが、5年前にある魔族に慈悲をかけてわざと逃してしまった事に森国で奴隷として扱われる様になった...レイヤ君、教会の者の1人として聖女アリス様を頼みましたよ」


ウルトレンは教会の奥の部屋に入って行ったのだ。

そしてレイヤ達はリン達と合流して、少し溜まったお金で装備を新調しようと鍛冶屋に向かう。

鍛冶屋の店主、ドワーフのボホドがいつもの場所で座っている。


「おお、レイヤ達じゃねぇか。今日はどうした?」


「Eランクにもなったし、少し難しいクエストを受けるかもしれないから、装備を新しく買いたくて」


奴隷商人ブフを捕まえた報酬としてお金は結構あるので、少し高い買い物が出来る。


「なるほど。確かにEランクにもなって革製は少し心細いよな。ちょうど良かった。今新しく仕入れて来た物を見せるぞ。それで、そこの新顔の嬢ちゃんはどんな得物を使う?」


「盾とメイスがあれば、何とか戦えます」


「盾とメイスねぇ。冒険者職業は守護者と言った所か?」


「回復術師を受けようと思っています」


「なら、杖で良くねぇか?杖の方が魔法を放つ速度が上がるぞ?」


「そこはスキルで補えるので、必要ないです」


「なるほど、大体の事はわかった。お前らに合う装備を持ってくるぜ」


ボホドは奥から五つの大きな木箱を持って行く。

中には鉄の装備や、硬そうな素材で作られている布生地が入っている。


「レイヤは良く動く方だろ?なら、アイアンスパイダーの糸で作られた生地がお勧めだ。リンの嬢ちゃんとカナデの嬢ちゃんはこの鉄の胸当ての甲冑がお勧めだ。そして、クロエの嬢ちゃんは暗殺者だが魔法を得意とすると聞いたから魔力を流しやすいスライム生地だ。そして、最後にそこのエルフの嬢ちゃんの要望通りのメイスと盾、そして回復術師としての装備だ」


「へぇ〜、んでぇ、何で俺は生地だけなんだ?」


「そりゃ、お前さんのは動きやすいのを作るために今からサイズを測るからだ。だから、今ここで脱げ」


「え?」


ボホドの言う通りにレイヤは上半身の服を脱ぐ。ボホドはレイヤの体の状態を見て大きく目を見開いて驚いていた。リン達はあらかじめ知っていたが、レイヤの身体は槍や銃弾に貫かれた様な跡に刃で斬られたような跡、そして奇妙な入れ墨があるのだ。


「なんだ、それは?」


「あ?これか?これはウチの国では罪人の入れ墨って言われてる奴だ」


「お前さん罪人だったのか?確かにそれっぽいが...」


「どう言う事だぁ!確かにこれは罪人の入れ墨とは言われているが、これには罪人が逃げない様に自身の魔力や身体能力の弱体化を付与されるんだ。俺は修行の為にあるだけで、自分で解除したい時は自由に解除できるんだ。だから、至って俺は罪人ではない!」


「まぁ、別にレイヤが罪人だろうが俺らにとってはこの街の希望の人間だから関係ないがな」


「い、いきなり辞めろよ。俺はお前らが思っている程の人間じゃねぇ」


レイヤは少し気恥ずかしくなるのだった。それからボホドにサイズを合わせてもらって後日新しい装備を手に入れるのだった。

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