第6話 美少年 対 審問官 2

 男たちは審問官ではなく、自警団だった。

 どうりで、うさん臭いし弱っちいと思ったけれど……。


「自警団が、なぜ姉を襲ったんです?」 

「さ、最近街で失踪事件が連続しているんだ! 危険だから保護してやろうと……」

「噓! わたしにキスしようとしたじゃないっ!」


 わたしが指摘すると、ルイの目に殺意にも似た色が浮かんだ。

 それを見て、男は唾を飛ばしながら必死の形相で訴える。


「い、いやそれは……! あんたが美人だったからつい……出来心だったんだ! ちくしょう、すまなかった! 許してくれっ!!」


 男は地面に頭をこすりつけて、詫びてくる。

 わたしは、ようやく理解した。

 この騒動の原因は、この美貌のせいだったのだ。罪作りな美しさ、自分でも困るわ。

 それに彼らが偽審問官だったことにホッとする。つまりわたしが魔女だってバレていなかったということだもの。


「頼む、俺が悪かった! 許してくれ!」


 はっきり言って、自業自得だけど……。

 でも、必死に許しを乞う姿を見ていたら、なんだか可愛そうになってきた。


「どうする、バカ姉?」

「許してあげて」


 ルイに問われて、わたしは即答した。

 あんな目に遭わされても許してあげるだなんて、心の広い女でしょ? 

 それに美人だって言われたしね……事実だけど。ふふふ。


 不服そうな顔だったけれど、ルイは男を解放した。

 偽審問官はふらふらと立ち上がると、ゴミ箱に放り込まれた仲間以外、いなくなっていることに気づいたみたい。

 舌打ちを残して、一目散に逃げ去っていった。


「これで一件落着ね!」


 わたしは誇らしげに宣言する。

 あ、違った。まだ終わってはいなかったらしい。

 ルイがわたしに、冷たい視線を注いでいたのだ。


「な、なによ!?」

「バカ姉、説明は?」


 ルイは、なぜか怒っているみたいだ。

 そう言えば、絶対に広場から動くな、って言われてたんだっけ……。


「えーっと。ほら、わたしも探そうと思ったのよ! 宿を!」

「それで?」

「そしたら目つきの悪い連中がワーっときて、バッ! と倒そうとしたんだけど、グワーってなっちゃって、ほんと困るわよね!」

「それで?」

「あーーー。えっとえっと……」

「それで?」


 淡々としたルイの声は冷え切っていて、とりつく島がない。

 で、でも大丈夫!

 わたしには、宿屋のオジサンから教えて貰った情報があるんだから! 


「ルイ、わたしが何もしてないと思ったら大きな間違いよっ。聞いて驚きなさい! 街はずれの洋館、そこの主人が泊めてくれるって噂なのよ!」


 どう!? どうよ、すごいでしょう!?

 胸を張ったわたしに、ルイは疑わしげな目を向けてくる。両眼に不信感をありありと溢れさせながら。

 え? ダメだったのかしら……?


「分かった。ボクは宿を見つけられなかった。そこを尋ねてみよう」


 でもルイが口にしたのは、態度とは真逆の言葉だ。


「本当に!?」


 ──姉さんを野宿させるわけにはいかないし。


「え? なに、なに?」


 それは空耳だったに違いない。

 聞き返したときには、すでに背中を向けて歩き出している。

 まあ……あのルイが、姉さんだなんて呼ぶわけがないわよね。

 置いて行かれないように、わたしは慌てて後を追い掛けた。



 夕日も落ちてすっかり暗くなった頃、わたしたちは目的の洋館に辿り着いた。

 アーデルハイトの館と同じくらい、立派なお屋敷だ。

 夜空にはぽっかりと満月が浮かんでいた。


 扉を叩いて、ずいぶん待たされる。

 留守、なんだろうか? それとも招かれざる客で、放置されているとか?


「お待たせいたしました」 


 戻ろうかな……と、諦めかけたその時、扉が開いた。

 姿を現したのは、数人の執事さんだ。

 そして彼らを従えた、妖艶な女性が微笑んだ。

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