第5話 悪魔の子とは
言われたことが信じられず、呆然としているとエルさんは暗い表情をしながら淡々と話し始めた。
「ギルバートさんは、家族の中で唯一違う瞳を持っている人が生まれたらどう思いますか?」
「どうって......」
エルさんはそう言った瞬間、コンタクトを取った。すると瞳の色が右は赤、左眼は青のオッドアイになり、驚く。でも今まで無かった才能が家族に芽生えたんだ。それは喜ばしいことなんじゃないか?
「私たちの一家で魔眼を持っている人は今まで一人も存在しませんでした。ましては、世界的に見ても魔眼持ちなんてそう滅多にいません」
「そ、そうですね」
エルさんの言う通り、この世界に魔眼持ちはそう滅多にいない。
「そんな異端児が王族に生まれたらどう思いますか?」
「あ......」
そこでやっと悪魔の子と言われている理由が分かった。魔眼持ちの人は、世間から存在自体が嫌われるような立場だ。まして王族に魔眼持ちが生まれてしまったら、どうなるか。
そんなの分かり切っている。王族もろとも罵倒される可能性があるということ。それが王族にとってどれだけリスクがあることか。
「ギルバートさんの考えている通りです。そこで本題に戻ります。なぜ私が命を狙われているか」
俺はエルさんのことを見ながら次の言葉を待つ。
「私は幼少期の頃から何度も命を狙われてきました。それはもう数えきれないほどに。ですが、ある人のおかげで生き残ることが出来ました。ですが、その人はつい先日、私を守る過程で死んでしまいました」
エルさんはそう言いながら悲しい表情と憎しみの表情の二つが入り混じっているように感じた。
「ギルバートさんは分かりますか? 今まで唯一信用していられた人が死んでしまった時の感情を」
「......」
俺は首を横に振った。この状況で、慰みの言葉を言えるはずがなかった。
「ギルバートさんは私の状況であったら、死にたいと思いませんか? 何度も命を狙われ、それを助けてくれた唯一信用できる人が私の所為で死んでしまったら」
「俺は。」
返答をしようとしたところで止めた。ここで答えてしまったらなにか違うと思った。
でも、流石にエルさんの立場であったら、俺は死にたいと思うだろう。命を狙われるということがどれだけ精神的にきついことなのか分からない。それに加えて、信用している人が自分の所為で死んでしまったら俺なら持たない。
その時、エルさんは涙を流しながら訴えてきた。
「私はその人に時が来れば信頼できる人ができると言われましたが、今日も私のために冒険者の皆さんが死んでしまいました。だったら、その時はいつ来るのでしょう?」
そう言いながら、膝を落として床に座り込んでしまった。俺はエル様の姿を見て、無意識のうちに言葉が出ていた。
「時がいつかは分かりません。私もつい先日、信用していたパーティメンバーから追放されました。ですが、私も時間さえ立てばいつかは心置きなく話せる仲間ができると思っています。それが明日なのかもしれないし、明後日なのかもしれない。もしかしたら一か月後、一年後かもしれない」
俺が淡々と話している時、エルさんは泣きながらも話を聞いていた。
「俺もそのいずれ出会える仲間を目指して新しく冒険を始めているところです。ですので、もしよかったら、エル様のお手伝いをさせてもらえませんか?」
「え?」
「こんな状況で言うのも何ですが、俺はエル様には幸せになってほしいと思いました。だから、少しでもいいので手助けさせてください」
信頼していた人を失った状況は違う。エル様は信頼していた人が死んでしまい、俺は信頼していた人から裏切られた。だけど結局のところ、人間は一人では生きてはいけない。誰かに支えられて生きていくのが人間だ。だから、いずれは信頼できるに値する人を探さなければいけない。
俺はエル様にその人を早く見つけてもらいたいと思ったし、助けたいと思った。
「ほ、本当にいいのですか?」
「はい」
「私の瞳を見て嫌にはなりませんか?」
「綺麗ですよ」
「え? 綺麗?」
「はい。綺麗だと思います」
誰が何て言おうと、俺にとってはエル様の瞳が綺麗に見えた。
すると、エル様は少し顔を赤くしながらお礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「本当のことを言ったまでですので。それでお手伝いさせてもらえますか?」
「はい。ですが、条件があります」
「じょ、条件ですか?」
(なんだろう?)
聞ける範囲ならやるけど、できないことを言われたらどうしよう。
「ギルバートさんも一緒に探しましょう。信頼できる人を」
「え?」
「私だけなんて不公平です。ギルバートさんにも幸せになってほしいのですので」
「あ、ありがとうございます」
エルさんにそう言われたとき、胸が苦しくなった。それと同時に憎しみも覚えた。なんで、こんな優しい人が苦しい思いをしなくてはいけないのか。
「では明日には到着する隣国へ向かいましょうか」
「はい。ですが、隣国で何をするのですか?」
「それは簡単です。私も冒険者になります」
「は?」
俺はエルさんの言葉に驚きを隠せなかった。
(王女が冒険者!?)
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