第4話 私、あなたと仲良くなれそう。
「聖騎士様! 島からの攻撃が止まりました。今から上陸準備に入ります。」
「はい。お願いします。」
九重アキホは船の上でこの状況を不審に思っていた。先程まで『闇の国』の本拠地とされる島と砲撃や魔法の撃ち合いをしていたのが急に向こうからの反撃が無くなったのである。
「どういう事でしょうか、、、」
アキホは驚愕した。島の沿岸に船をつけるとそこには体を半分にされた死体が大量に転がっており、島中は炎に包まれている。
「これは、、何かおかしい。
教会騎士の方々は船の見張りと周辺の生存者確認を、島の奥へは私達高レベルテスターのみで進みます。」
彼女達は最大限に警戒しながら島の奥へと進む。島の中心部へ近づく程死体の数は増えていき、そのどれもが大きな刃物で体を切り裂かれたような傷跡が残されている。
「ミスリル装備を着けている方もいる。やはり、あの情報は確かだったのかも。これをやったのは多分、、、。」
ドカーーーーーーーーーーン!!
彼女達が島の中心部に到着した時、後ろから大きな爆発音が響く。
「聖騎士様!停泊中の船が破壊されています!」
「えっ!?」
振り返ると先程まで彼女達が乗船していた船が破壊され炎上している。その信じられない光景に思わず来た道を戻ろうとするも、中心部の方から微かに声が聞こえてくる。
「たすけてくれよぉぉ〜、許してくぇ〜。」
「生存者の声がする。私が先行して向かいます。みなさんは船へ戻って救助活動を!」
アキホはその声が聞こえてくる方へ走り出す。貴重な情報源としてではなく、純粋に生存者を助けたいという心で助けに向かう。
建物を抜け炎の勢いも強くなっているが確実に声には近づいて来ている。どうやらこの先の大広間のようだ。
♪〜〜〜♪〜〜〜
「クラシック、、?」
大広間からクラシックの音楽が聴こえる。その異様な雰囲気に躊躇するも、アキホは意を決して炎の中へ飛び込み大広間へと到達した。
「アン、ドウ、トロワ。アン、ドウ、トロワ。」
「おいアリス、ステップが遅れているぞ。今のところはこうだ。」
「うぅ〜〜。淑女の嗜みとしてダンスを教えて欲しいとは言いましたが、音楽と動きを合わせるのは難しいですわぁ。」
「たすけくれぇ〜〜、お願いだああああああ。」
アキホは自分が見た物が信じられなかった。火をつけられた大量の死体が円状に大広間を囲い、真ん中には『闇の国』リーダー近藤マサヤが磔にされている。
そしてその横で2人の男女がクラシックを流しながら社交ダンスを踊っているのだ。
女の方は深紅のドレスを着こなし宝石で豪華に着飾っているが、足元がおぼつかず失敗を繰り返している。対する男はダンスを完璧に踊り女に指導をしながらエスコートしてみせている。2人は笑顔でこの時間を楽しそうに過ごしている。
「なに、、これ?」
「アリス。お客様だぞ。」
「あらあら、やっとお着きになりましたのね、お待ちしておりましたわ。あなたがあの女神の1人、聖騎士様ですか?」
アキホは驚愕から一瞬で戦闘態勢に入る。この光景を見て話の通じる相手ではないと察知し、すぐ構えるあたり戦闘経験の豊富さと修羅場を潜って来た度胸が感じられた。
「私は聖騎士:九重アキホ。あなたが悪逆令嬢ね。」
「悪逆令嬢とはあまり可愛くないので好きではないですが、どうやらそう呼ばれているみたいですわね。私アリスと申します。コチラは従者のシンタロウ、以後お見知り置きを。」
アリスはドレスの裾を掴み、深々と頭を下げる。シンタロウは後ろに下がり、腕組みをして2人を見ていた。
「貴方はどうしてこんな酷い事をするの?みんなで力を合わせて現実世界へ戻りましょうよ。」
「酷い事?私にとっては貴方達『光の国』がしている事こそ酷い事だと考えますが。如何でしょう?」
アリスは不敵な笑みを浮かべながら、シンタロウから渡された戦斧を磔にされたマサヤに向ける。
「や、やめて、くれぇ。あ、あっ、た、たすけてくれ聖騎士!俺は本当はお前らの仲間に、、げはっ。」
アリスはマサヤの言葉が終わる前に彼の首を切り落とす。
「はああああああああああ!"シールドバッシュ"!」
アキホはアリスに盾を突き出し突進を仕掛ける。アリスは首を切る事に集中しており、光速の突進に反応できず吹き飛ばされた。
「"シャインクラッシュ"!」
アキホは続け様に盾の裏から取り出したメイスで吹き飛ばされたアリスに一瞬で近付き殴打する。アリスは腹部でそれをまともに受けてしまい地面に転がっていった。
「どんな事があっても、人が人を殺していい理由はありません。ここがゲームの世界だとしてもです。」
「かはっ、、。それは本当に貴方の考えですの?それとも大好きな勇者様の意志?」
「なんですって、、?」
「貴方は本当に現実世界に帰りたいんですの?」
アリスは立ち上がり口から血を流しながらゆっくりと立ち上がる。アリスの異様な迫力と言葉にアキホは体が動かない。
「"獣王連牙"!!」
アリスの戦斧による激しい連続攻撃をアキホは盾で上手く受け止め反撃の機会を伺う。
「貴方はただ大好きな勇者様に言われるから、そうしているだけ。本当は今の時間が長く続けばと考えているのではなくって?」
「そんな事ない!」
「本当に貴方の人生はここでの生活より楽しいものだったんですの?」
「!?」
アキホの脳裏に現実世界での出来事が思い出される。要領が悪く会社の同僚や上司に蔑まれる日々。唯一の拠り所であるアニメとゲームが彼女の生き甲斐であった。
「この世界から出て行って本当に幸せですの?あの勇者様が貴方を選んでくれるますの?」
今度は他の女神の顔が頭に浮かぶ。彼女達の中では自分が最年長であり、気弱な性格からコミュニケーションが上手くとれず距離を置かれてしまっている。
そんな彼女に分け隔てなく接してくれたのは勇者であったが、その分女神達との溝は深まるばかりであった。
アリスはアキホの心の迷いによる隙を見逃さなかった。
「心当たりがあるようですわね。"大魔人斬"!」
「しまった!」
アリスはアキホの盾を粉砕する。続けて胴体を横斬りにしようと戦斧を振るうもアキホはメイスで何とか防ぐ事ができた。
しかしその影響でメイスも半分に折れ、無防備になったアキホに対してアリスは首を掴む。常人を遥かに超える握力で首を握り締められ呼吸ができない。
「あっ、かっ、、、あ、。」
アキホはジタバタと体を動かすもアリスの手は離れる事がなかった。
「(ごめんね、セイギ君。最後まで役に立たなくて、、。愛してるよ、、。)」
「残念ですわ、私達仲良くなれそうでしたのに。」
アキホの視界がボヤけてくる。彼女にこの世界での死が近付いていた。
「"エクスカリバアアアアアアア"!!!」
アリス目掛けて光の斬撃が襲い掛かる。アキホの首から手を離し後方へ回避しようとするも彼女を掴んでいた左手は切断されてしまう。
「な、なんですの?」
「その人は俺の大切な人なんだ。手を引いてもらうぞ悪逆令嬢。」
空の上には『勇者:セイギ』が立っている。その手には金色に輝く聖剣リムドが握られていた。
「勇者ああああ!貴様ああああああ!!」
アリスはセイギに対して叫び声を上げる。その叫び声に対してセイギは無表情で答える。
「君が現実世界に帰りたくないのは、何か理由があるんだろう。でも大丈夫、人間努力をすれば必ず報われる。もしそれでも苦しい時は俺が必ず力になってみせるから。
だからこのゲームをクリアするまで、すまないが眠っていてくれ。」
アリスの周りに転移魔法で3人の女神が現れる。
「"封神一槍"」
『戦乙女:ナツキ』の槍でアリスは体を貫かれる。この槍は身体にダメージを与えるのではなく、魔力を封じる槍のようだ。
「"ダイヤモンドダスト"」
『賢者:トウカ』の氷魔法でアリスは氷の中に閉じ込められる。氷漬けにされたアリスは身動きがとれない。
「"天寿結界"」
『巫女:ハルカ』の結界が施され周りからの干渉を受けなくされる。これでシンタロウも手出しができない。
完全に封印されてしまったアリスをシンタロウは黙ってみている。
セイギは座り込んでいるアキホをそっと優しく抱きしめ頭を撫でる。
「ごめん、アキホさん。辛い思いをさせてしまって。早く終わらせようこの悲しい連鎖を。」
アキホを抱き締めながらセイギはシンタロウの方を見る。
「俺達は今から最後のダンジョン攻略を行う。君も邪魔をするのか?」
「いや、俺は彼女の側にいるよ。」
「そうか、、、わかった。みんなこれから最後の決戦だ気合い入れていくぞ!!」
セイギはアキホをお姫様抱っこをして立ち上がり、この場を去ろうとする。
その時セイギの後ろに封じられたアリスの口元が笑った所を見た者はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます