第3話 私の初体験ですわ
中央都市『シャンドラ』にある『光の国』の本拠地の一室。複数の女性の喘ぎ声が聞こえる部屋に伝令係が訪ねてくる。
「勇者様、諜報部隊より伝令です。」
部屋の中は静かになり、中からバスローブを着た男が現れる。見た目は高校生くらいの少年に見えるが、その眼差しは歴戦の戦士を伺わせる程鋭い。
伝令係から文書を受け取り彼は思わず握り潰してしまう。
「志島さんに続いて、美藤さんも殺されたのか、、
くそっ、実力が足りない人は後方支援に回したのに、どうして死ななきゃならないんだ!」
勇者が壁を叩くとその周りに大きなヒビが入る。その光景に伝令係は恐る恐る次の連絡事項を伝える。
「ど、どうやら相手は、あの『悪逆令嬢』のようです。彼女とその従者はイーストレットに向かっているとの報告も。」
「なに?イーストレットだと。あそこは宗教の街。潜伏されると厄介だ。
どうしてだ!もう少しで現実世界に帰れるのに、みんな邪魔をしてくるんだ!」
勇者は怒りで拳を震わせる。
「実はもう一つ情報が、、、イーストレットに『闇の国』の本拠地を見つけたようです。」
「本当か?もしかすると悪逆令嬢と闇の国は繋がっているのか、、」
「セイギ、それならアキホに行って貰えば?」
勇者の部屋から半裸の女性が現れる。背の低い幼児体型の少女は奥にあるベッドの上で話を聞いていたらしい。
「アキホは聖騎士でしょ、イーストレットの兵を自由に動かせるし、その悪逆令嬢と闇の国同時に倒してもらおうよ。そうすれば背後を気にせずダンジョン攻略に集中できるよ。」
少女は勇者の胸に頬を寄せキスをする。その姿は少女とは思えない程、妖艶で伝令係も思わず見惚れてしまった。
「わかった、君。 アキホさんをここに呼んでくれないか?」
「は、はい。」
しばらくしてアキホと呼ばれる聖騎士が勇者の方へやってくる。茶髪のロングヘアーで聖騎士鎧を纏った彼女は勇者より年上に見えた。
「セイギ君、私にイーストレットに行ってほしいんだってね。」
「はい、アキホさんなら彼らを倒す事が出来ると思って。」
「しかし、わたしは、、、」
うつむき加減に不安がるアキホに勇者は顎を持ち口づけをする。彼女は一瞬驚いた顔をするも目を瞑りその唇を受け入れた。
「アキホさんなら大丈夫。一緒に現実世界に帰ろうって約束したじゃないか。」
「う、うん。セイギ君の為に私頑張るよ。」
勇者はアキホを抱き締める。その様子を勇者の部屋にいた3人の女が扉の影から見つめていた。
東の大国『イーストレット』は宗教の国である。教会や寺院など歴史ある建物が並び、文化的にも栄えている国だ。
「この船をどこに停めますの?」
アリスは飛んでくるカモメに餌を与えながら、シンタロウに尋ねる。
「『闇の国』は邪教が管理している島に潜伏しているらしい。そこで、この船とミスリル装備を渡し、『光の国』の情報と潜入経路を教えてもらう手筈だ。」
「はぇ〜。」
アリスは聞いてみたものの心底興味が無さそうである。そうこうしていると向かいの島から誘導の為の光が照らされる。
「アリス、船を降りる準備をしろ。」
「はーーいですわーー。」
「初めまして私は近藤マサヤ。『闇の国』のリーダーをしています。」
アリスとシンタロウは彼等の客室に通され、テーブルにつく。この部屋には彼等とマサヤ、そして数名の取り巻きがいるだけである。
「初めまして、私アリスと申します。こちらは従者のシンタロウですわ。」
「はい、存じております。シンタロウ君とはこまめに連絡を取り合っていましたから。アリスさんあなたも悪逆令嬢と呼ばれる程の強さ、我々に味方してくれて本当に助かります。」
「いえいえ、そんな事ありませんわ。」
アリスとマサヤは握手を交わす。アリスはチラッと後ろで立つシンタロウの方を見る。シンタロウは無言で頷いた。
「それはさておき、あの船の積荷をお渡しする条件として『光の国』の情報と潜入経路のお話を。」
「はいっ、今部下が積荷を確認中ですが貴方達を信用できる方達と見込んでお話しましょう。
まず『光の国』というのは、テスター職としては最強の称号を持つ『勇者:天谷セイギ』とその周りを固める4人の女神を中心に創設されました。」
「女神ですの?」
「そうです、勇者を守る『巫女』『聖騎士』『賢者』『戦乙女』の職を持つ4人の女性テスターのことを総称して女神と呼んでいます。」
「つまり、その5人を殺せば現実世界に戻らずに済みますのね?」
アリスは満面の笑みで話す。笑顔で殺すという言葉を使う彼女にマサヤはたじろぐも話を続ける。
「ま、まあ、そうなりますね。さすがは悪逆令嬢様だ、俺達とは心構えが違う。
あっ、すみませんね、飲み物も出さずにいて。ここには客人など滅多に来ないもので、おい!あのワインを持ってこい。」
マサヤに命令された取り巻きが赤ワインとグラスを持ってくる。マサヤはワインをグラスに注ぎアリスとシンタロウに渡す。
「私、ワインは初めて飲みますわぁ!いただいてよろしいんですの?」
「はい、もちろん。これからの我々の未来に乾杯。」
アリスとシンタロウは赤ワインに口をつける。しかしマサヤが口をつける事はなかった。
「くっ、あっ、、」
パリーン
アリスは喉元を押さえ苦しみグラスを落とす。口からは血が吹き出しその場に倒れ込んでしまった。その横にシンタロウも倒れ込む。
「ふっ、ガキが他愛もない。そっちの男と一緒に片付けておけ。」
マサヤはグラスを床に捨てる。どうやら赤ワインの中に毒が入っていたようだ。
「よかったのですか?貴重な戦力を、、」
「本当に『光の国』の主要メンバーを殺しまくってるイカれた奴と手を組むわけないだろ。
お前らも知ってるだろ、あの勇者はお人好しだ。適当に敵対した後、改心したフリして仲間に入れてもらうんだよ。元犯罪者の俺達の立場を現実世界に戻った時に擁護してもらう。その為に『闇の国』を作ったんだ。邪魔は困るぜお嬢様。」
マサヤはタバコを吸いながら今後の展望を語る。すると外の見張りの人間が慌てて入ってきた。
「リーダー!イーストレットの教会からこの島に討伐軍が向かって来ている。その中にはどうやら『聖騎士』がいるらしいぞ!」
「なに!?どうしてこの場所が?
全メンバーに臨戦態勢をとらせろ!積荷のミスリル武器を使っていい。コチラの力を見せて勇者を引っ張り出せればいいが、、」
マサヤは喋りながら取り巻きを連れ部屋を出て行く。この部屋にはアリスとシンタロウの死体のみとなった。
「、、、。シンタロウ、、。」
「どうした?」
「毒を飲んで死ぬというのは結構辛いものですのね。」
「ああ、俺も初めての経験だったからな。意外と苦しかった。」
「私はもう二度とゴメンですわぁ。これからどうしましょう。」
「お前の好きにすればいい。」
「わかりましたわ、それでは殺してしまいましょう。光も闇も全て。」
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