第2話 私にも気持ち悪いものはありますわ
ここは南の大国『サウスビーチ』。海に面した立地を生かし海運業が盛んな常夏の国である。
「シンタローー。水が気持ちいいですわー♡」
「お嬢、あんまり走るとまた、、」
「ぐへっ!」
白いワンピースの水着を着てビーチをはしゃいでいるアリス。彼女の抜群のプロポーションが際立つ水着姿は通り過ぎる人全員が振り返るほどの美しさがある。
しかし、ここでも盛大に転び、頭から海に突っ込んでしまう。それでも彼女は笑顔を絶やさない。
シンタロウはそんな彼女を見て微笑んでいるが、その目線の先には今回のターゲットである輸送船がある。中央へと武器を送るこの船を破壊する事が今回の目的であった。
「シンタローー、あそこの食べ物は何ですの?」
「ああ、あれはかき氷だ。食べるか?」
「もちろんですわー、どれにしようかしらぁ?」
「俺はちょっと用事があるから街の方へ行く。来る前に寄った宿屋に集合な。」
「はぁーーいですわーー。」
「おい!早く積荷を船に乗せろ!ドワーフ共に作らせてるミスリル装備はいつ届くんだ!
こんなとこでモタモタしてると『闇の国』に狙われちまうぞ、、、。」
美藤ライトは焦っていた。ダンジョン攻略を行って死ぬ事を恐れ、『光の国』の後方支援を積極的に行い戦わずして現実世界へ帰るとという算段に不安が出てきたのだ。
何故なら先日、あの志島レンタが死んでいるのが発見された。彼は西の大国で大規模攻略用の食糧を確保して中央に送る任務を担っていた。その為に前々から準備を重ね、有り余る資金で食糧の買い占めを行っていた矢先殺されたのだ。
この世界には現実世界へ帰りたい人間と帰りたくない人間が存在する。『光の国』が帰りたい人間の集まりなら『闇の国』は帰りたくない人間の集まり。
充実した娯楽やちょうど良いくらいに扱い易いNPC、テスター達に用意された高い基礎能力で無双する快感に酔いしれ、ここに永遠といたいという人間は少なくない。
そんな奴らにとって『光の国』は非常に邪魔なのである。
「クソッ、なんで俺達後方支援が狙われるんだ。いくら勇者パーティーがテスター最強集団だからってふざけるなよ!」
「ライト様。予定していたドワーフのミスリル装備ですが、陸路が土砂崩れで塞がれており、届くのは明日の朝になりそうだと報告が。」
「なんだと! なんて運のない。だがミスリル装備は攻略に必要な物だ。持っていかなかったら何を言われるか、、、
どうせ現実世界に戻ればコチラの金など必要ないか。報酬は弾むから作業員を増員して、なるべく早く船に届けさせろ!」
「はい!」
そう言って連絡係の男は去って行く。テスター達が大勢コチラの世界へ閉じ込められた後、『光の国』はダンジョン攻略を加速度的に行った影響で金は有り余っており、彼ら後方支援組には湯水のように使っていいとの許可もおりている。
「クソッ、出発まで時間がかかるか。まぁいい、この国も最後だ適当に女でも囲むか。
ん? ちょうど良さそうなのがいるじゃないか、、へへっ。おい、お前あの白い水着の女に声を掛けてこい。金はいくらでも出すぞ。」
「本日はお招きいただきありがとうございますわ。私、名をアリスと申します。」
アリスは真紅のドレスに着替えてライトの前でドレスを広げ会釈した。
「ほう、あの露出の高い水着姿もよかったがドレス姿もなかなか。さぁ何をしてる、早くこっちに来い。」
ライトは船の中で娼婦達を囲みながら、昼間から酒を浴びるように飲んでいたようでかなり酔っ払っていた。
アリスの美しさは娼婦達と比べても飛び抜けており、気分の良くなったライトは手招きして隣に座らせ彼女の肩を抱いた。
「ハハハ、よく来たよく来た。いくらでも飲め、お前らには分からんだろうが金は無限に湧いてくるんだ、好きなだけ拾え!」
ライトは金をばら撒き娼婦達は必死に拾う、それを見て彼はまた高笑いを続けていた。
「すごいですわ、ライト様。この大きな船を持ちながらその豪胆さ、さぞ女性に慕われているのではありませんか?」
「ハハハ、そうだろそうだろ。
だがな実を言うと俺はNPCである娼婦達とは交わる事はできんのだ。テスターはテスターとではないとなんだが、テスターの女はほとんどが『光の国』の主要メンバーが囲ってある。
それに俺にはラブレジェンドのキリエという女がいてな、もう少しで落とせそうだったのに、、、」
「ライト様!お楽しみ中の所申し訳ありません。
人員を増員した結果、先程積荷の収容が終了しました。」
「おお、良くやった。では即時出航せえ。目指すは中央都市『シャンドラ』だ!」
「はい!」
報告に来た男はライトの私室から出て行こうとする。バンダナを巻いたその顔はアリスの見知った男の顔であり、扉から出る前に目で彼女に合図をした。
「ライト様、私ライト様と2人きりになりたいですわ♡」
その豊満な胸を押し付けながら、アリスはライトの耳元で囁く。
「ほうほう、そうかそうか。
聞いたか? 他の者は全員降りろ。今から出航するぞ。お前らはこの国からは出られない存在だろ!」
娼婦達は船から降り、指示通りに出航する。その間ライトはアリスと気分良く酒を飲んでいた。
「おっと、ちょっとションベンがしたくなってきたな。アリス、少し待ってろよ。あいつらにも檄を入れてやらにゃな。」
ライトは気分良く甲板に出る。しかしそこには衝撃的な光景が広がっていた。
「なんだ、これは誰もいないじゃないか!?」
そこには、甲板の上には誰もおらず、先頭で先程のバンダナ男が舵をきっているのみで他の乗組員の姿が見えなかったのだ。
「ど、どう言う事だ!お前!」
バンダナ姿のシンタロウは無視を決め込む。すると後ろからアリスが現れた。その手には愛用の戦斧が握られている。
「あらあら、可哀想ですわね。みんなに見捨てられましたの?」
「ま、まさかお前ら『闇の国』か? まさかそんな筈がない、俺は『鑑定』持ちだ、、お前は、、、」
「サヨナラですわ、最高に気持ち悪い蛆虫さん。」
「ひぎゃっ!」
「この船はどこに行きますの、シンタロウ?」
「東の国『イーストレット』だ。そこに『闇の国』の本拠地がある。そこで勇者パーティーの詳細を手に入れる。それまで船旅だ、ゆっくりしとけ。」
「風が最高に気持ちいいですわね。あら朝日が昇っていますわね、本当に綺麗。」
朝日に照らされたアリスの横顔は彼女の美しさを際立たせ、顔や服に着いた返り血は彼女の儚さと危うさを表現しているようだった。
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