第13話 胸騒ぎ
翌朝、
目的は当然、ラニットとの合流である。
まだ
この時、
ラニットが『
当然、昨夜のうちにその可能性を考慮しなかったわけではない。
だが、その可能性は低いと言えた。
悔やまれる事だが、命を落としてしまうことも少なく無い。
そういった時に、彼らは『虫』を使って最期の『知らせ』を残す。
自分が指令をこなせなくなってしまった最悪の『知らせ』。
通常であれば、『上』に向けて放つものだが、今回のような
その最悪の『知らせ』は、
だが、可能性は低いと分かっていても一度頭に浮かんでしまえば焦燥感に包まれる。
森の入り口、つまりフィオナとリックが身を寄せている木こりの家の付近に着く頃には日は完全に顔を出していた。
2人にもラニットを見ていないか聞こうかとも悩んだが、これ以上彼女達に心配をかけるのは
それともう1つ理由がある。
幼き頃より
あの2人に声をかければ、共に行動する事となるだろう。
だが、結局3人で固まって歩くのであれば森を熟知している自分1人の方が早さという意味で好都合だった。
森の中へ入ると、まるで世界から切り離されたかの様な独特の雰囲気がある。
幼き頃はこの雰囲気に恐怖した事もあったが、今は懐かしくもあり心地よさすら感じる。
「(ひとまずは、小道沿いに歩いてみるか。)」
この森に詳しくないラニットが道を
しばらく歩くものの、森の中は静まり返り動物達の気配すら感じなかった。
「(妙だな。確かにオレの気配を察して身を隠す事はあるだろうが、ここまで気配がないのは。)」
猟を行った時も動物達は身を隠していた。
だが、時折こちらを
今はそれすら無い。普通では無い。
何か異常な事があるのは、すぐに分かった。
歩を進めると、少し開けた場所に出た。
ここから先は足場も悪くなっていき、岩場が多くなる。
あの2人の仲間は、おそらくこの先で怪我をしたのであろう。
足元に気を配りながら少し進むと、ある事に気がついた。
一部の岩が
何者かがこの先を通った跡だ。
あの2人の話では、彼女達はこの辺りで引き返したはずである。
進むほどに、
この先に何かがある。
胸がひりつき、緊張感が高まる。
慣れ親しんだ森が、いつの間にか全く別の場所に思えていた。
どのくらい進んだであろうか。
正確な位置は分からないが、森の中心部に程近いだろう。
岩場を抜けると、
おそらくは、木こりの夫婦が作業場として使っているものだ。
根拠はないが、
この胸騒ぎの原因はあの山小屋だと。
少しの間、小屋の周辺から様子を伺ってみたが物音ひとつしない。
すでに懐に忍ばせてある短剣の留め具を外し、いつでも抜けるように柄に手を添えていた。
覚悟を決め、扉をゆっくりと開く。
足音を殺し、室内へ入ると若干のカビ臭さが鼻をついた。
部屋を見渡してみると奥に一つだけ扉が見える。
常住するための家屋ではない為か、必要最低限の家具しか置いていないようだ。
その生活感のない無機質さは、今は不気味にすら思えた。
人の温かみをまるで感じない居間は、特におかしな点はなかった。
目に留まったのは、一つの扉。
その扉は、まるで来るものを拒むような冷々たる佇まいで
何かあるのなら、この奥だ。
扉を一息に開け、中に入る。
そこは倉庫か何かに使われていた部屋だろう。
倉庫内には、腰の高さほどの木箱が並べてあり、いくつか開けてみると中には鋸や鉈など山仕事のための道具や保存の効く食料などが入っていた。
ここにも異様な点は、特に見当たらない。
「(
床に何かを引きずったような跡があったのだ。
薄暗いこの部屋で、意識を向けてなければ気が付かないが、おそらくこの木箱を移動した跡だろう。
「(倉庫の整理でもしたのか?だが、それにしては跡が新しい気がするな。)」
決して気を抜いていた訳ではない。
むしろ、常に気は張っていた。
だが意識が他に向いた一瞬、背後に忍び寄る何者かに気がつくのが遅れた。
目線の端に人影が映った
一瞬で身体を捻り、何者かに体ごとぶつかったのだ。
「グッ・・・!」
相手は、
すかさず、相手の上を取り、喉元に短剣を突きつける。
「動くなっ!」
一呼吸置いた後に顔を確認すると、
「ラニット!?こんな所で何してるんだ?」
悔しげに睨むラニットと驚く
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